ネタバレ全開ですので、閲覧ご注意ください。
総括
北宇治高校が全国大会出場し銅賞を受賞した翌年度。新一年生を迎え入れる4月から、夏休み前のオーディション結果発表までの約二ヶ月半を吹部部員達の群像劇を描く、待望のユーフォの続編小説。
今までユーフォはアニメオンリーでしたが、さすがに今回は誘惑に負けて小説を買いました。
で、感想を一言でいうと、これぞユーフォというキャラの描き方に大満足。
ユーフォの魅力は、キャラの感情、振る舞いの細やかな表現と、そのキャラ達の掛け合いが発生する事で生まれるドラマだと思っています。その魅力はキャラが入れ替わった第二楽章でも全く変わらぬ楽しさを醸し出していた。
武田綾乃先生にありがとう!です。
一回り大きくなった久美子
今回の久美子の総括は、目立たないけど周囲に気配りできる良い先輩。
思えば、一年前の久美子は他人に引っ張られ強く自己主張する事もあまりなく、中学時代から苦手だった麗奈に話しかける事もやっと、というある意味内向きなキャラでした。
単純に全国大会出場し成長した、と書くのは省略が乱暴すぎると思います。
麗奈と親友になり吹部全体という空気に負けずに麗奈を応援した事、先輩を差し置いてオーディションに合格してしまったのに優しく応援してくれた夏紀の優しくてカッコいい所、苦手だったあすかの攻撃を受けながらもあすかの心の扉を開き心通わせた事。そうした全ての経験が、深く関わった愛しい人たちの美点が、久美子の肥やしとなり吸収されて、久美子の考え方、言動、行動に影響を与えてきた。そうした事で他人に対して優しく強くなれた、のだと感じました。
仮に第二楽章から読んだ読者がいたとして、久美子のふわふわしているようで時に鋭いプロファイリングをする腕利きの名探偵、みたいなキャラ設定が当然だと思われたら、それは少し勿体無い、と思ってしまう。
とはいえ、麗奈やあすかのように演奏の事で自慢をひけらかすような事もなく、彼氏である秀一の前ではウブな乙女だったり、根本的な所は変化していなくて、あくまで久美子。
2015年4月から見続けたキャラなので、もう愛着が湧いてしまって、少しづつ大人になってゆく久美子を見て、なんというか自分の事のように嬉しく感じます。
今回のテーマ
今回のテーマは、次の究極の選択。ズバリどちらが偉いのか?
- (a) 演奏は下手だけど、頑張っている人
- (b) 演奏は上手いけど、あまり頑張っていない人
これは、社会人になっても言える事。残業せずに結果を残すヤツか?残業しても結果が出ないヤツか?みたいな。
吹奏楽部でオーディションに合格するという意味では、練習量関係なく演奏が上手い人が採用される。これは納得。
でも、その時の周囲の部員の感情はどうかというと、(a)(b)のどちらが同情されるかというと、やっぱ(a)の人が採用されて欲しい、という感情を抱くのではないか?その時に(b)の人の気持ちはどうなのか?これが、今回のテーマ。
1年前に香織と麗奈が競った頃から普遍のテーマ。
新一年生チューバのさつきと美玲
チューバのさつきは完全な(a)、美玲は(b)として描かれ美玲が孤立する。しかし久美子の助言により美玲がプライドを捨てる事で、内心憧れていた和気あいあいとした雰囲気に溶け込むことができた。要するに人付き合いする上で(b)から演奏は上手いけど、頑張っている人にシフトし、彼女の孤立は回避された。
これにより、美玲・奏の(b)同盟が崩れ、奏だけが(b)として残さる形に。
その意味で、さつきと美玲はこのテーマに対する(a)肯定のためのキャラだと思いました。
でも、せっかく北宇治吹部の低音パートという濃ゆいチームに来たのだから、さつきと美玲には、もっと感情移入できる何か欲しいな、とも思いました。
新一年生コンバスの求
自分をコンバスの高みに導いてくれる緑輝を崇拝する美少年キャラの求。しかし、緑輝以外のキャラには無関心でぶっきら棒。
彼は演奏が上手く、頑張るタイプとして描かれますが、他人の不合格を気にしてオーディションの合格を躊躇する一面を想像させる描写があり、オーディションという競争自体にハングリーに立ち向かう姿勢では無い事をうかがわせました。
しかし、要らない楽器なんて一つも無いという緑輝の説教により、直ちにオーディションに全力を尽くす事を誓い改心。
彼がオーディションという競争を見送る事を一瞬思った背景は、まだ分かりません。
求には姉が居るとか、小中高一貫教育の男子校から転入して来たとか、その龍聖学園に吹奏楽部の顧問に源ちゃん先生が来たとか、後編への含みを残した伏線設定が至る所にあり、彼の活躍の場は間違いなく後編だと思います。
その続編を読んでみて、その答えを見つけられるでしょうか?
新一年生ユーフォの奏
今も昔も、若者は器用で要領がよくて外面が良くて何を考えて居るか分からない、という自分より若年者に対する思いというものはあるもので。奏はそんなキャラに思えました。
読んでいて連想したキャラは、ムーミンのリトル・ミー。小さくて可愛いけど皮肉屋さんで時折正論で暴言を吐く。でも、読み進めていくうちにそれも違うな、と感じました。
奏は、他人にはいい顔したい、悪く見られたく無い、と無意識に強く思っており、心許さない人とは丁寧語で会話するとか、必要以上のクオリティーで愛想笑いできるとか、彼女のこれまでの人生の中で染み付いてしまった曲者キャラとして登場。
でも、それも時折、圧力をかけられると、素の彼女が現れる事が有り、完璧に演技しきれていないところが憎めない。
当初、久美子をビビらせた風雲児も、この綻びから久美子の攻撃にあい、改心させられる所は痛快。
奏の場合、(b)の私がオーディションに合格すると、周囲から白い目で見られる、という思いが今回のトラブルを産んだ。
ユーフォの中では、オーディションは全力でぶつかり合い悔いを残さない事が正解とされて居る。そのスタンスに一石を投じる奏の行動。
これに対し手抜き演奏を見抜いた夏紀が奏を捕まえ弾糾した。何故、手抜きするのか?夏紀は自分が同情されたと思っていたに違いない。対する奏の回答が辛辣すぎた。意訳すると夏紀への同情はなく、自分への風当たりを気にした、という回答だったからだ。
夏紀のような任侠の時代の三年生組からの頭からは絶対に出てこないような斬新な回答が出て来た上に、自分が同情された訳でも無い事にバツの悪さを感じて、何も言えなくなったのだと思った。
今回、久美子は奏に対し、そんな事しても二人とも落ちるかも知れないし意味はない、と諭して改心させた。
これで前編は綺麗に終わるのだけど、本質的に奏の本性は何も変わっていない。奏は自分本位で有り、他人を気遣う事はできない。表面的な体裁を気にする性質は変わっていないと思う。
本当は、それをできるのは夏紀の他人を思う優しさで有り、奏が他人からの優しさで救われない限り、似たような事は続く可能性はある。
後編で夏紀の良さに触れる奏が見たい、と強く思う。久美子が苦手だったあすかを好きになったように。
後編でも奏にひと暴れして欲しい気持ちはあるが、どうだろうか?
「リズと青い鳥」
「リズと青い鳥」の話は誰と誰の話なのか?
- (1)森に美しい鳴き声の青い鳥が居り、リズはその鳴き声に聞き惚れて居た。
- (2)台風の後、森が荒れはて、そこに少女が居た。
- (3)リズは少女を連れて帰り一緒に暮らした。リズも少女もとても楽しく幸せだった。
- (4)ある日、リズは少女の正体が青い鳥である事に気付いた。
- (5)リズは、少女を森の仲間の元に返すか?一緒に暮らし続けるか?どちらが幸せか悩んだ。
- (6)リズは、少女を森に返す決断をし、青い鳥と別れた。
久美子はみぞれと希美を連想した。麗奈は久美子との関係を連想した。楽章は下記。
- 第一楽章「ありふれた日々」
- 第二楽章「新しい家族」 →短いトランペットソロ有り。
- 第三楽章「愛ゆえの決断」→大半がオーボエソロ、オーボエとフルートの掛け合い有り。大会ではバッサリカット。
- 第四楽章「遠き空へ」
久美子と麗奈の場合
リズは久美子で、青い鳥が麗奈と考えた場合。
- (1)美しい森、青い鳥は、プロ奏者の事。
- (3)リズと一緒に暮らして居るのは北宇治高校吹奏楽部。
- (6)は音楽のプロの現場に飛び立つ麗奈。
でも、(4)(5)の気付き、悩みは久美子にはないだろう。でも、第二楽章のトランペットソロは、昨年度のあがた祭りの日の大吉山の二人の気持ちを重ねてくるかもしれない。
みぞれと希美の場合
まず、読んで思ったのは、みぞれは3年生になっても、希美離れが出来て居なかったという設定に、少なからず驚いた。
というのも、昨年度の全国大会出場を機に、希美の関心は吹奏楽以外の事にもどんどん分散していったと思っていて、その経過から考えると、みぞれとの付き合い時間は極端に減少し、その事に対するみぞれの覚悟がその後の半年であったのではないか、と自分勝手に妄想していたから。
しかし、小説のプロローグから、みぞれの希美依存症がガチで描かれ、希美が目の前から消えるとショックで死んでしまうような雰囲気で書かれている。
となると、みぞれの希美からの独り立ちは、第二楽章後編に持ち越される事になる。それを踏まえて物語に当てはめてみる。
リズはみぞれで、青い鳥が希美と考えた場合。
- (1)森は希美の数多くの友達達
- (3)二人で楽しく過ごして居るのは、南中吹部と北宇治吹部
- (4)希美の多くの友人達が居る事を何かで再認識
- (5)希美自身の幸せは多くの友達と過ごす事か?私だけが占有して過ごす事か?悩む
- (6)最終的に、希美から離れ、希美を解放する
これは、普通に綺麗にハマる。ただし、みぞれの高度な演奏技術が、みぞれを青い鳥と比喩になっている可能性もあると思う。
リズが希美で、青い鳥がみぞれと考えた場合。
- (1)美しい森、青い鳥は、プロ奏者の事
- (2)二人で楽しく過ごして居るのは、南中吹部と北宇治吹部
- (4)新山先生の推薦でみぞれの奏者としての高みに気付く希美
- (5)自分ぞっこんの状況が良いのか?自分から突き放し奏者としての高みを目指させる事が良いのか?悩む希美
- (6)最終的にみぞれにプロの道をすすめ、自ら退く希美。
これもハマる。こうなってくると、これらが複合的に比喩されている可能性もあると思う。
でもまぁ、こうした作品内に巻いた伏線を遥かに超えた展開を用意してくるかも知れない。その意味で、やっぱり後編が楽しみ。
ところで、プロローグで希美がみぞれをあがた祭りに誘い、他にも友達連れてきなよ的な展開で、優子と夏紀も一緒に行くことになっていた。
あがた祭りのシーンは久美子と秀一と麗奈のシーンはあったが、みぞれ達のシーンは無い。多分、後編では前後して描かれるのだと思う。
優子部長はみぞれのメンタル的なコンディションも気にする必要があるし、ダチとしてみぞれが悲しむ事は我慢できない性格だと思う。しかし、現状のみぞれと希美の関係がメンタル的に良好だとも言い切れないリスクを抱えていると思う。かといって、みぞれは希美最優先であり優子の事は何とも思って居ないので、優子がみぞれに文句を言っても普通に改善されるとも思えない。
この様な状況の中でも、みぞれに何かあれば、一発触発で優子が飛び出してくる可能性はあると思う。みぞれの希美依存症が熱病である事をどうしたら、みぞれに分からせる事が出来るのか?多分、それは、優子が希美に「リズは希美」である事を理解させる事じゃ無いか?とか妄想している。
前編では、そつなく部長業をこなす優子で有り、それだけでも凄い事なのだが、後編では、優子のそういう熱いところを読んで見たい、と思う。
加部友恵の活躍
そして、忘れてならないのが加部友恵。
今回、非常に重要な役割を演じており、彼女の健気さに目頭が熱くなる。新三年生はなぜこうも任侠なのだろうか?
アニメでは優子と一緒に行動しているだけのミーハーなモブキャラだった彼女も、チームもなかとして苦くも貴重な時間を過ごし、新人の面倒を見る役を受け吹部に貢献したり、優子部長と夏紀副部長を補佐したり。物凄くいい人キャラとしてパワーアップしての登場に喜ばずに居られない。
久美子が新入部員の面倒を見るのは物語上の必須だったと思うが、友恵の様なキャラがおらず、久美子だけが面倒を見る形だと負担が大きすぎる。友恵に久美子をプラスすれば、新入部員の未経験者層、経験者層の両方の指導を満たせるというのは優子部長の絶妙な采配と考えられるし、その辺りの取り回しが自然で上手い。
友恵の件は、夏紀がいかに良い人かをアピールするのにも効果を出している。友恵の次に悔しいのが、多分、同じチームもなかを過ごした夏紀だろう。
友恵の悔しさは、相当のものだったと思うが、本来、ユーフォではその悔しさを誰にも言わずに飲み込む事を良しとしない。誰かと共有しその悔しさを成仏させなければ、次に行けない。友恵は久美子にも、夏紀にもその涙を見せては居ないが、多分、優子部長の前では泣いている、と妄想している。
いずれにせよ、この、見事にハマっている感じが心地良い。
最後に
新一年生のトランペットの夢。新一年生のオーボエの梨々香。まだ、後編で活躍しそうなキャラも控えており、北宇治全国大会金賞を目指す彼女達にどのようなドラマがあるのか?まだまだ楽しみが半分残っていると思うと、嬉しくなる。
後編楽しみにしています!
ー以上ー