たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編(その2)

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

総括

再度読み直して、頭の中で整理出来ていなかった事が時間を経てまとまってきたので追加で感想をまとめた。

初回の感想を包含してはいないので、そちらもご参照頂ければ幸いです。

初回読了時には、後編終盤は関西大会ダメ金後、文化祭、植物園の演奏会など、いろんなイベントを足早に駆け抜けてたイメージだったが、読み直すと、北宇治吹部のいろんな問題に対して要所要所を確実に改善しており、心地よい読後感を味わう事が出来た。

久美子三年生編を第三楽章(仮)とした場合、第三楽章への伏線が多数あり、その辺りも整理して考察したい。

私はユーフォはアニメオンリーで、何度もアニメを見返して、感想や気付きや妄想をツイートしていた。 この度、初めて第二楽章の小説を読み、小説でも読み直して同様に感想や気付きや妄想を書き連ねる事が出来る事に気付かされた。

でも、それが出来たのも武田先生のユーフォの小説だからこそ、と思う。

骨の髄までしゃぶりたい作品を送り出してくれた武田綾乃先生と、関係各位の皆様に感謝です。

キャラ毎の感想

黄前久美子

優子部長は、来年度の部長を久美子にやらせるための人間関係作りのために、一年生の指導役を任せ、一年生の悩み事を久美子に相談に行かせるように仕向けていた。

久美子は、主人公であるがゆえに、一年生の時から本人の意思とは無関係に吹部の問題にタッチしてしまう損な役回りであったが、今年度も多数の吹部の問題に触れていた。また、影で黄前相談所と呼ばれていた所が可笑しい。

久美子の悩み事相談のアドバイスは、いきなり解決しないものも多く、それでも前向きに少しづつでもプラス方向の助言をしてる。

これは、一年生の時にみぞれと希美の問題に対して何も出来なかったものが、あすか復帰問題に対して直接本人と対峙して問題を解決出来た事で自信がついたためか、今年はトラブルに対して逃げない姿勢を貫いてる。

そうした相談事で久美子が誰かと対峙する際、一つ一つ慎重で、何かを間違えば壊れてしまうという緊張感が伝わってくる所が、とてもドキドキしながら読めて面白い。一瞬一瞬を大切に会話している感じが良い。

よくよく考えると、昔から久美子は、考えた瞬間にその言葉を発して何度も失敗していたキャラである事を考えると、正反対の行動であり、これが久美子の成長なんだと実感する。

久美子で印象的だったのは、希美先輩のやった事はひどいが、希美先輩の事は嫌いになれない、という台詞。罪を憎んで人を憎まず。事前に夏紀から希美が断罪されたがっている事を知っていた所はあるが、結果的にその後の演奏に全力を傾ける方向にまとまった。

ここで希美を甘く許しても、希美を全否定しても、ダメだったかも知れない絶妙な落とし所での対応だったと思う。もちろん計算づくではなくて、久美子の優しさからきた結果だと思うが。そうした事が一つひとつ上手く作用していた、と思う。

それともう一つ印象的だったのは、関西大会ダメ金で泣かなかったけど、植物園の演奏会の練習の休憩時間に秀一が久美子の頭の上に手を乗せたタイミングで緊張の糸が切れて初めて悔しくて悲しくて涙を流して泣いたシーン。

これは、この時秀一から優子部長が表彰式の後、通路で泣いていた事を聞かされれた事も関係していたかも知れない。

麗奈のように、感情直球で泣ける人間なら良いが、久美子は関西大会ダメ金という事実を心の中で消化し切れなかったのかも知れない。ガチガチに緊張していた久美子の心を秀一の優しさが解きほぐし、納得できない事実を直視したように感じた。秀一の優しさが無ければ虚勢を張る事は出来ていたのかも知れないが、やはり最後は心で受け止めないと次には進めない。秀一の存在が久美子にとって唯一無二で必要な存在である事を再認識させたシーンだと思った。

それにしても、秀一との関係で久美子のウブな可愛さが炸裂していた第二楽章だったが、久美子が部長を引き受けた時点で恋人関係は一旦解消されてしまった。この辺りの律儀さというか不器用さというか真面目な所は久美子らしい。ウブな久美子は次回作終盤までお楽しみとして取っておこう。

高坂麗奈

麗奈は今年の北宇治吹部の殆どの問題に対して、その本質に気が付いていた。

ファースト指名だった夢がサードになった事、みぞれが希美を信用できず全力を出せていたかった事、希美がみぞれに対し嫉妬していた事、久美子と水着を買いに行った時に少し話していた「好きかつ嫌い」のベン図はみぞれと希美の状態だったと思われる事。

もしかしたら、麗奈は北宇治吹部のそうした不協和音を直感で見抜いているのかも知れず、それは卓越した音楽センスと関係があるのかも知れない。

1年前ならそこまで周囲に気を使ってなかったと思うが、全国大会金賞を勝ち取るには自分だけでなく吹部全体の演奏が上手く回らなければそこに届かない事を理解して意識しているのだと思う。

ただし、麗奈はその直球すぎる性格から、その問題について本人と対話しても、本人の意識を変える事は出来ず、問題解決には至らない。それは、夢のファーストの件しかり、みぞれの全力の演奏が聞きたい件しかり。

だからこそ、先ほど書いた、久美子の他人の心にリーチする力との組み合わせが重要になる。

つまり、問題のアンテナ役の麗奈、問題の刈り取り役の久美子。このコンビネーションにより、北宇治吹部が本来の能力に対して120%の力を発揮できるようにする可能性があると私は信じていて、それが第三楽章のキーポイントじゃ無いかと妄想してる。

麗奈で印象的だったのは、久美子の部屋に泊まった時の「好きを嫌いと言ったり、嫌いを好きと言って、他人に好かれようとは思わん」の台詞。

麗奈が意識しているかどうか分からないが、これは希美に対する強烈な批判でもある。希美は結局、みぞれを嫉妬していたにも関わらず、表面では笑顔を作って対応していた。

麗奈はこうした二面性を理解できないし、その真っ直ぐで力強い感じが眩しいし、麗奈はそうあるべきだと私も思う。

吉川優子

強くて真っ直ぐな優子が部長になっても、北宇治吹部は全国大会の出場を逃した。

物語なので作者の意図通りの話の展開だったとは思うが、武田綾乃先生は、優子に対してビター過ぎるようにも思う。

誰もが認める正しさ、力強さを持ち、人一倍弱者を救済し、自分で背負い込む。優子の間違いはその優しさ故に、個人の限界の壁を作り、能力の100%以上発揮する機会を奪ってしまった事として描かれた。一見完璧なリーダがワンマンであるが故に組織を伸ばせなかった、という構図である。この辺りの描写は唸る。

もし次回コンクールに向けて、この個人の能力の限界のタガを外すためには、今回の負ける悔しさを一度味わう必要があったのかも知れない。

これはもう第三楽章に対する前振りとして、優子を捨て駒にされてしまったのではないか?とさえ勘ぐってしまう。

個人的に気になっていた優子のみぞれに対する優しさとその結末。

途中に夏紀の台詞で、優子はみぞれに甘くて、夏紀は希美に甘い、という発言があったのが印象的だが、結局、優子はみぞれ自身の心を明るくしたり、軽くする事は出来なかった。つまり、これだけ吸引力がある優子でも、みぞれの心はケアし切れなかった。余談ながらこれは麗奈にも当てはまる。最終的にみぞれの心にリーチして変革を即したのは、久美子からの、希美がいなくなったらどうするか?の問いかけだったのが、興味深い。

優子がその事を知っていたか否かは不明だが、その意味で優子の久美子を部長に決めていたのは、流石としか言いようがない展開。

それと優子は久美子にあれこれ部長の心得を指図するのではなく、自分の背中を見せて部長の重さを見せてきた所が優子っぽくて良い。北宇治吹部の歴代で見ても「仁義」って言葉が一番似合うキャラ。

中川夏紀

夏紀は、優子とのトムとジェリー的な喧嘩の中にも、優子に対する思いやりを入れていたりした描写があり、本当に熱い。

一番好きなシーンはベタだけど、関西大会演奏直前に久美子と奏に感謝するシーン。ここはホロリと来た。

夏紀は、これまで自分の優先順位は低くて、他人に尽くす人として描かれてきた。優子を支えたり、希美を手助けしたり、昨年はオーディション後に久美子を気遣ったり。

また、演奏に関しては北宇治吹部の中では底辺側の人間であり、A編成に残れた嬉しさとは裏腹に、他の部員の足を引っ張っちゃいけないという負い目もあったと思う。

それから、これは本人の上達したい強い意欲があってこそだけど、変なプライドも持たず後輩の奏や久美子に教えを乞うたりする素直さ、真っ直ぐさがカッコいいし、それに対して協力してくれた奏と久美子も良かったし、その事に対する感謝の気持ちが、清々しくて良かった。

結局、関西大会演奏直前にこのシーンを持ってきたのは全国大会に行けないフラグみたいになってしまったけど、前編でギスギスしていたユーフォニアムチームが、オーディション後、たった一ヶ月でここまで結束できた事、読んでいて嬉しかった。

極端な言い方をすれば、夏紀は日陰の人生から、念願のスポットライト当たる晴れの舞台に上がる事が出来た。これは、夏紀ファンに対する作者からの第二楽章での最大のプレゼントだったと思う。

久石奏と剣崎梨々花

前篇を読みはじめた当初、奏はムーミンのリトルミーに似ていると思ったが、読み進めるうちにちょっと違うかな、と思った事を前篇の感想で書いた。理由は利己的であろうとするが、なり切れない迷いみたいな人間臭い弱さ脆さを感じたから。

でも、後編を読んで、奏はやっぱりリトルミーだと思った。後編では、前篇のような内面のドラマは無くて、迷いなく皮肉屋に徹していたところがリトルミーっぽさが全開だった。

それでいて、作中では完璧な美少女でわざとさしくも可愛さを否定できない仕草の描写が多いなど、なかなかに破壊力もある。

親友である剣崎梨々花も、ふざけた感じのあの口調、あの態度ではあるが、こちらも可愛さ十分な雰囲気。

この二人は一年生を掌握するには必要不可欠な存在であり、来年度の部長である久美子も敵に回したら怖く味方につければ心強い存在。

この二人の掛け合い漫才を見ていると、なかよし川を連想させる。再来年の話をすると鬼が笑うかもしれないが、彼女たちが三年生になったとき、奏が部長で、梨々花が副部長として奏を支える、というのも十分あるのかな、などと妄想。

ところで、奏は他人を表面的に客観的に観察する事に長けている描写もある。もともと自分のカッコ悪い所は他人に尻尾を掴ませないように、自身の態度はある意味ガード固くそつなく振舞っている。もっと言えばお高く留まってる印象がある。

その意味で、恋愛もガードが固いイメージだが、恋愛するとなると超包容力があるか、トムとジェリー的なケンカ友達か、と勝手にイメージしているが、もし後者なら意外と求が近いポジションに居る。小柄な美少女と小柄な美少年…、でもやっぱ、それはないか。

小日向夢

夢は「失望されるのが怖い」という理由で人前で目立った演奏が出来なくなっていた。久美子との喫茶店でのやりとりでも自虐的なまでに卑屈に描かれていた。いずれにせよ、描かれ方が極端なまでに。

植物園での演奏会の直前の練習でも通して吹けない夢に対し、友恵からの挑発でやっと吹っ切れて思いっきり演奏して、ノーミスで通しで演奏できた夢。この成功体験により夢の問題は一旦解決した。

正直、初見では、この下りはサラサラと読み進めてしまい、夢のキャラを読み込めずに進めてしまったが、改めてこの時の夢の気持ちが重要に思う。

まず、夢にとって友恵はどんな人物に見えていたのか。

同じトランペットパートだったのにプレーヤーを辞めて裏方マネージャー業に専任した友恵先輩。あっけらかんとして、後輩の面倒見がよく、自分が人前での演奏の失敗が怖い事に対しても根気よく相談に乗ってくれたり、練習に付き合ってくれる。何故、私なんかにここまで世話を焼いてくれるのか?分からないけど、親身になってくれる大切な先輩、という感じか。

そして、友恵が在部中の最後の演奏会の最後の練習というタイミングで、最後の心残りだった夢に挑発というか嘆願。関西大会で北宇治吹部の演奏は最高だったと前置きで褒めた上で、吹部全員の前で夢に対して、今なら思いっきり吹いて失敗しても誰も失望する観客はいない、最高の演奏を聞かせて!、と。

それを受けた夢も今回は逃げなかった。夢が眼鏡を取りに来たのは、その友恵の顔を見て演奏するため。友恵の本気の嘆願に、夢は友恵だけのために本気の演奏を返した、と感じた。

夢にソロを与えたのは優子部長だったが、夢のリミッターを外せたのは優子でも麗奈でも久美子でもなく、友恵だった事に意味があるような気がしてならない。

話は変わるが、夢の力が解放された事で、今後の麗奈と夢の関係も気になる。

麗奈の音はハッキリとしていて力強い感じだと思うが、対する夢の音はどんな音なのだろうか?そのキャラクターにもよるが、場合によっては夢のトランペットの方が楽曲に適する場合というのもあるかも知れないし、絶対的な上手さは麗奈が高いとしても、憧れの麗奈を追いかける夢の存在が、互いに良い効果を出せれば面白いかも、などと妄想。

夢は、まだ設定を絞り尽くして居ないと思うので、ぜひ第三楽章でも暴れて欲しいと期待してる。

加部友恵

前編に続き、後編でも最後の方で主役級の活躍を見せた友恵。マジで泣かしにくる。

友恵の立ち位置の妙は、非奏者の立場だったと思う。

病気により奏者を諦めマネージャーとしての裏方に徹する事になるが、その姿はむしろ明るく屈託がなく見ているこちらの方が元気をもらうような存在。

コンクール出場メンバーが最前線で武器を取る兵士とするなら、友恵は一緒に行動し兵士の怪我を治療すためにともに戦場に赴く衛生兵という感じか。優子部長も「89人で全国へ」と友恵も含めての北宇治吹部であることを事ある度に強調していたのが印象的だった。

友恵が体育館での植物園の演奏会の最後の練習のタイミングで北宇治吹部でマネージャーをしてきたことを誇りに思う、と言う台詞には痺れたし、読み直す度に涙腺緩む。この台詞はこの最後のタイミングでこそ言える、北宇治吹部に対する正直な感謝の気持ちだと思う。そして、この台詞が夢を、そして北宇治吹部全員を鼓舞する所がカッコいい。

非奏者が「良かった」「悪かった」といっても奏者の胸には響きにくいと思うが、これが出来たのも北宇治吹部マネージャーを誇りに思い、北宇治吹部の他のメンバーから信頼を得ていた友恵だからこそだったと思う。

友恵は、むしろ奏者じゃないからこそ北宇治吹部を支えられた、突き抜けた存在だったと思う。

このシーンの続きで夢をけしかけやる気を起こさせたシーンも良かった。

一年生の指導係という事もあったし、同じトランペットパートという事もあったかも知れない、結局、夢の心に深く入り込んで夢を支える事が出来たのは、友恵だけだった。

カサブランカのソロパートを友恵の前なら失敗せずに吹ける所まで夢の心を開いたのは、友恵の面倒見の良さの賜物だと思う。

ここまで、書きながらふと思う。友恵のマネージャー業は何故、第二楽章でここまで大きく描かれたのか?

実体として吹部の雑用が多く、奏者が練習に専念するために必要で、それもまた吹部としての仲間意識を持つ必要がある、という事を読者に知らしめるためか?

それも間違いではないが、もう一つは夢の脱皮を描く事、そしてもう一つは北宇治吹部が関西ダメ金止まりだった事に対して、彼女たちを救済するために、存在していたのではないかと思った。

いずれにせよ、友恵の居ない第二楽章は想像が出来ないくらいに私の脳内で友恵の存在は浸透し大きな存在になっていた。

加部ちゃん先輩、最高!

最後に

みぞれと希美について書いているが、まだ頭の中が整理しきれておらず、一旦、区切ります。第二楽章後編その3にてまとめる事にします。