たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話(その2)

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

はじめに

十二章アンサンブルコンテストの感想・考察です。

他の短編は、その1の方にまとめましたが、あまりに長くなるので、十二章だけ分けました。

アンサンブルコンテストは第二楽章以後、新体制になって年度が替わるまでの1年生+2年生の部員たちで参加する大会で、実質、第二楽章と第三楽章(仮)の間を繋ぐ、123ページの中編小説でした。

チーム分けや、演奏シーンや、成長ドラマなど、いろいろと魅力がギュッと詰まった作品でした。

考察・感想

北宇治吹部のアンコン

アンコンの目的

滝先生は、北宇治吹部でアンコンに参加するにあたり、以下の3つの事を部員に体験させる目的があった。

  • メンバー決め
  • 曲決め
  • 審査員になること
    • ちなみに、滝先生のオーディションの観点は、
      • 技術
      • メンタル

さらに、久美子達の提案により、二種類の投票が行われる事になった。

  • 部内投票(大会出場チームを選抜する)
  • 一般投票(人気投票、引退した三年生含む)

アンコンの成果

アンコンのチームと曲と投票結果は下記。(申請順)

  • 木管五重奏、『三つの小品』
  • ホルン三重奏、『六つのトリオ』
  • 金管八重奏、『「高貴なる葡萄酒を讃えて」より五楽章 フレンダドーレ…そしてシャンペンをもう一本』
  • 木管八重奏、『晴れた日は恋人と市場へ!』
  • 金管六重奏、『タランテラ』
  • 菅打八重奏、『彩吹~Ibuki~』
  • 打楽器七重奏、『ヴォルケーノ・タワー ~七人の打楽器奏者のための』
  • 菅打八重奏、『シティガール・センチメンタリズム』
  • サックス三重奏、『スペイン舞曲集より ガランテ、バレンシアーナ』
  • フルート三重奏、『月明かりの照らす三つの風景』
  • コントラバス二重奏、『メヌエット』
  • クラリネット四重奏、『革命家』
  • サックス三重奏『古の鏡』
  • 菅打六重奏、『小さな祝典音楽』

北宇治吹部がアンコンで感じて得たものは、下記だったと思う。

  • 演奏して聴いて楽しむ
  • 主体性を持って演奏に取り組む(チーム&曲決め、誰もが演奏の主役)
    • 北宇治吹部全体の演奏レベルの底上げが出来た。
  • 他人の演奏を評価する
    • 大会向け評価と人気評価の違いを実感した。

まず、アンコンは、単純にいろんな編成の楽器で、いろんな楽曲を演奏するので、聞いているだけで楽しめる。「音楽」本来の音を楽しめる、という面があったと思う。

そして、アンコンはコンクールに比べて、演奏者の主体性が重要になると思った。

一つは、コンクールではオーディションで選抜されたメンバーが与えられた曲を演奏するが、アンコンでは小規模ながらメンバーと曲を演奏者が決める、という事。

これは、逆に言えば、要領の悪い人間が取り残され孤立する可能性もあり、その意味ではデメリットとなり得る面もある。本作では、チーム選びで残されたテナーサックス、トロンボーン、パーカスの3人に、引退した優子、希美、夏紀が参加し、余り物チームを作る事で全員参加を実現した。

もう一つは、コンクールではパート内のファースト、セカンドという序列の役割があったが、アンコンでは小規模で楽器も少ないため、普段目立たない演奏者も目立った演奏をするチャンスであり、逆に言えばミスも目立つ。良くも悪くも、チーム内での個人の演奏に占める割合が大きく、その責任も増える、という事。

本作では、ユーフォニアムの久美子とマリンバの釜屋つばめが主役になる演奏で、2年連続B編だったつばめが、周囲の助言を受けながら、自らの欠点の一つを克服し劇的に改善してゆく様子が描かれていた。葉月も足を引っ張るまいと、練習を重ね上達した。アンコンでは脇役の演奏者は居ない。少人数であるが故に一人の欠点やミスが目立ってしまう。この欠点を改善する事で、北宇治吹部全体の底上げがされたように描かれていた、と思う。

また、パート間の交流も有意義だった。パーカスのつばめの問題を指摘し改善方法を提示したのは低音パートの久美子だったが、これまでパート内で見逃されてきた問題にも他のパートの視点で問題に切り込む事が出来る。

また、パーカスのパートリーダーである井上純菜が、少しでも良い面があれば、その良い面をキチンと褒める、というポリシーでパート内を運用しており、つばめ自身も、そのポリシーで純菜を褒めるという、パーカスパート内が上手く機能しているところも描かれていた。部長である久美子は、それをみて安心しただろうし、良い空気はお互いの良い演奏に繋がってくる。

さらに、審査員視点で客観的に演奏を聴き比べる事で、競技として評価される演奏を感じてもらう事も目的としていた。

部員のみの選抜投票と一般の人気投票の違いや、個人個人の中でも二つの評価の違いを実感する事が出来た。これは、優劣を付け競い合うための演奏と、楽しくのびのびとする演奏の違いは確かに存在し、だからといって、どちらが良いという話ではない。ただ、コンクールに向けては、競技のための演奏技術を磨く必要がある、という事が実感できた、という話に思えた。

新体制始動

秀一→久美子←麗奈 の三角関係

公私ともに久美子を支える麗奈と秀一。

この3人を見ていると、スタートレックのカーク船長(久美子)とスポック副長(麗奈)とドクターマッコイ(秀一)を連想してしまう。確かな演奏技術と理論の麗奈に対し、メンタル面のアシストの秀一。そして二人は久美子の事が好きな点では共通しているのに、麗奈と秀一はギクシャクしてる点が面白い。

ちなみに、滝先生のオーディションの評価ポイントは、一に演奏技術、二にメンタルと言っていたが、久美子にとって、それぞれを麗奈、秀一が補う形になっている点も興味深い。

この三角関係は、第二楽章後編から、とりたてて変わった様子もなく、新体制としてもまずまずの滑り出しを見せている。ちょっと麗奈が秀一に噛みつき過ぎな気もするが。

麗奈のアンコンの投票方法の助言の件でも、公的な立場では部長である久美子を立てるために理論的に援護するシーンで、あ、麗奈は力強いな、と思った。部を引っ張るための、起爆剤としての重要な存在で有る事を再認識した。

久美子と麗奈のプライベートの距離感

久美子と秀一が意図的に距離を取っているのは分かるが、吹部における公的立場のせいか、麗奈と久美子も、少し距離ができていた様に感じた。

1つは、チーム高坂に久美子を誘うタイミングが最後になってしまったこと。ちなみに、チーム高坂への参加を最後に了承したのは、釜屋つばめだが、返事が貰えなかっただけで、麗奈は少し前に誘っていた。

アンコンチームの届け出も少しずつ出始めてきたころ、久美子は、社会科準備室前の三階廊下突き当りで、夕焼けに染まる時間に、一人で「赤とんぼ」を吹いていた。みぞれは久美子をみて「泣いている?」と聞いていた。社会科準備室の反対側の窓の下からは一人、麗奈がトランペットを吹く音が聞こえていた。

みぞれは直感の人なので、久美子と麗奈が離れて演奏していて、寂し気な久美子の「赤とんぼ」を聞いて、二人の寂しさを感じとったに違いない。多分、本人たちも無意識だったものをみぞれは感じ取った、のだと感じた。

なお、このシーンのみぞれの「窓、開けるの上手いね」「窓を開けるのが上手で、うれしかった。……ただそれだけ」という台詞は、他人の心の窓、みぞれの心の窓を開けた事だと思われる。

後日、チーム高坂のメンバー選びについて電車内で会話するシーンがある。麗奈としては、ユーフォは初めから久美子一択だったとか、久美子が他のチームへの参加をOKして、麗奈の誘いが断られる可能性を心配してしり込みしていたとか。結局、久美子は自分からは誘われるまで待つ形だったとか。

第二楽章になってから、少しだけよそよそしさのある二人。公的立場で過ごす時間が多くなり忙しくなったからか?秀一の存在が麗奈の心に変な遠慮をさせるのか?

三年生になったら、吹部の方針の話、進路の話、いろいろと麗奈と会話すべき事が多くありそうな気がしている。二人の関係の距離感の変化も今後の楽しみではある。

チーム高坂

夢が中学時代から演奏したかった『彩吹~Ibuki~』のために麗奈が集めた演奏者は下記。

それにしても、夢を除き7人が二年生、パートリーダーは麗奈、純菜、修一、久美子の4人(美千代もパートリーダー?なら5人)を確保。葉月とつばめのB編の二人を除き、超強力な布陣。

流石は麗奈、抜け目ない。梨々花や奏が要領が良いとはいえ、二年生の上級奏者は、麗奈が抑える形になっていた。

これで、順位が悪いはずが無いとも思うが、部内投票で三位というのが、やはり葉月の分かも知れないと思うと、なかなか複雑な心境。それくらい、マイナス査定を付けさせない事が大会向けの演奏という事だろう。

逆に、一般投票で一位というのは、良さをプラス査定しミスはあまり気にしない、という一般投票の評価軸だったという事だろう。

こうして考えてみると、アンコンにおけるチーム高坂が、このメンバー構成で、この順位というのは、よくよく練られた結果に思えてくる。部内投票と、一般投票を分けた事とも含めて。

釜屋つばめ

パーカスの釜屋つばめ。演奏技術で言えば底辺側の人間で、2年続けてB編。2年生になって久美子たちと同じクラスになった。

いつも目立たず、ひっそりとしているイメージだったが、B編繋がりで葉月と仲が良く、お笑い好きという一面も葉月は知っていた。親しくなると内面を見せるが、そうでない相手にはガードが固い。

つばめは麗奈にアンコンチームに誘われたが、その誘いを断っていた。多分、チーム高坂のレベルの高い演奏に付いていけない、レベルの高い演奏者達の足を引っ張りたくない、という思いがあったのだと思う。つばめ自身の演奏技術に対する諦めが伺えるし、先の二面性にも繋がる部分である。

つばめはマリンバをソロで叩いた時は上手いのに、合奏すると皆とかみ合わない。案の定、麗奈にコッテリ絞られるつばめ。

つばめの問題は、パーカス担当としては致命的な「リズム感」にあり、久美子が、他の演奏者の息継ぎを意識する事、他の演奏者を見ながら演奏する事をアドバイスしたことにより、劇的に演奏が改善された。

つばめは、ある意味みんなが演奏している中で孤立して演奏していたが、チーム高坂で他のメンバーと一緒に演奏する事の楽しさを覚えた。足を引っ張るだけでなく、自分が主役の演奏を経験した。

純菜のポリシーに従い、純菜の良い所をつばめが褒めるシーンがあるが、本人は茶化したりせず大真面目に褒めていて、つばめの良い性格が伺えて良い。このやり取りの最期につばめが久美子に言った台詞「うちのオカンか」は、つばめが普段見せないお笑い好きの素が出てきたものであり、久美子にも心を開いた証。

校内演奏会の前日、つばめが久美子に漏らした、A編で大会に出場したい発言は、それまで思いもしなかった上手くなる、上を目指すという、つばめの意識の変化の表れ。アンコンがこの変化をもたらした。

井上純

パーカスのパートリーダーを務める井上純菜。心優しく頼れる存在。

純菜のポリシーで、その人の良い所はキチンと褒めるというのがあり、そのポリシーはつばめにも浸透していて、これはパーカスパートは全体的に良い空気に包まれてるな、という感じがした。

実際につばめのマリンバ演奏を褒めており、つばめが吹部にいても良い理由を与え、つばめを救済していた。マイナス面を責めるだけでなく、プラス面を褒める。

この辺りの人との接し方は純菜と麗奈が対照的なのが面白い。

麗奈は麗奈には見えている正しい音になるために、正しくない音に対して、完膚なきまでに相手を責めてしまう。ある意味、滝先生の指導とイメージが重なる。

今回のアンコンは大会選抜のための部内投票と、賑やかしにための一般投票で別れていたが、これが丁度、麗奈と純菜の対比の関係と一致する。

私は、今回の話で純菜が一気に好きになった。

森下美千代

ホルン担当の美千代。

はっきりはしないが、多分、ホルンのパートリーダーだと思う。純菜と仲良し。

加藤葉月

アンコンでは、つばめと並び、麗奈にしごかれた葉月。

打たれ強いが、なかなか上達しない葉月も、麗奈にしごかれ、基礎練習の意味を考えながら練習するようになり、少しづつでも、美玲に少し改善が認められるくらいには、演奏が良くなってきている。

今回、つばめは明確にA編に出たいという気持ちを出したが、葉月のA編はまだまだ実感としては沸かない。

進路未定、明確なパッションも持たない、という葉月が、来年A編に選ばれ、久美子達と一緒に全国大会に行けるか?という厳しい問題を抱えて、なかなか来年のオーディションは胃が痛くなりそうな予感。

チーム吉川

吉川優子と傘木希美

みぞれに愛されながらも、みぞれのオーボエに惚れ、みぞれの才能に嫉妬し、みぞれからの告白に距離を置いた希美。

希美は、希美を追いかけず、オーボエを吹くために音大を選んだみぞれの心を理解してた。みぞれが希美の元を青い鳥の様に飛び立った事を知っていた。

優子は、希美とみぞれの進路の事は知っていても、みぞれの心までは見抜けていなかった。希美に過剰に依存するみぞれの認識しか持っていなかった。(といっても、第二楽章のみぞれは、不思議ちゃんで、常人には理解が及ばない雰囲気でしたが…)

そして、今回みぞれの心をより理解していたのは、やはり希美だった。

1年生の時、希美がみぞれに知らせずに退部したのは、みぞれが知れば、希美を追って退部してしまうので、わざと知らせなかったのかも知れない。しかし、その事でみぞれは相当に悲しんだ。

今回、希美がみぞれにアンコンの誘いをかけたのは、みぞれは希美依存から脱却している事を確証していた事、声をかける事がみぞれにとって嬉しい事を知っていた事から。

一見、掴みどころがなく、ふわふわしているように見える希美だが、みぞれの事を一番理解しているのは、やっぱり希美というのが、因果だと思った。

チーム川島

川島緑輝と月永求

今回も求の出番はあまり無かった。

この小さくも可愛らしくも鋭くもある師弟関係もあと1年しかない。

全国大会金賞の龍聖との対決もあるだろうし、こちらも来年何が起きるか分からない。

来年のコンクールに向けて

第二楽章読後からずっと気にしていた今年の全国大会の結果が、緑輝達の会話の中で出てきてた。

  • 明工:全国大会金賞
  • 龍聖:全国大会金賞
  • 修大附属:全国大会銀賞

去年の北宇治は全国大会銅賞。今年の北宇治はレベルが上がったとは言え、全国大会銅賞、もしくは銀賞だったのだろうと想像していた。そして多分、勝ち抜けた三校に比べてわずかに足りなかったのだろうと。

その結果をみて、龍聖が成績良すぎてビビるが、成程、という感じの結果になっている。

第二楽章の北宇治の関西大会止まりを読んだ時には、まさか!という感じだったが、よくよく考え抜かれたバランスだと思う。この辺りの、いきなり奇跡が起きない所は、武田綾乃先生のリアルだと思う。

来年、北宇治が目標にしなければならないのは麗奈の言う通り全国大会金賞のレベル。全国大会出場=全国大会金賞レベルなのである。

今回のアンコンで北宇治の底上げがなされたのは確実だと思う。パーカスでつばめがA編に選ばれたいと努力するなら、現在A編で選ばれている人もB編に落ちない為に努力する。小編成で自分がフロントで演奏する楽しさを味わいコンクールに対する情熱を持てた人も居るかもしれない。

来年はどんな新人が現れ、どんなドラマが生まれるのか?

是非とも、北宇治に全国大会金賞という第三楽章を読んでから死にたい。

おわりに

前回のブログからの繰り返しになりますが、本当に第二楽章が好きだったので、このホントの話が読めて非常に嬉しかったです。

ブログに感想を書こうと決めていましたが、こちらも思いのほか長くなり過ぎました。

一旦一区切りをつけ、直近では、これから封切られる「リズと青い鳥」がありますが、こちらも楽しみです。

ここまで来ると、北宇治が全国大会金賞を取るまで死ねません。まだ先になりますが、第三楽章楽しみに待ちます。