たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

リズと青い鳥(その2)

映画と原作小説のネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

はじめに

2回目の「リズと青い鳥」の鑑賞をしたので、あらためてブログを書きます。

私は「虚無感と味気無さ」とという強烈な感想を初見のブログに書いてしまいました。

それは事実として気持ちの中に有ったので、自分なりに下記の分析をしました。

  • 原作小説が大好きで、みぞれと希美の気持ちを味わいつくしていたという事、
  • 他の登場人物の役割をカットしたり変更したりはあったが、そのみぞれと希美に絞り込み、心情と変化を正確に再現しており、その意味で意外性は無かった事、
  • 押しつけがましいドラマチックな展開を完全に排除し、その空間ごと切り取り、観ているものに共有させるストイックな演出がなされていた事、
  • ドラマ自体には全く壮大さは無く、みぞれと希美の繊細な心の揺れを描いていた事、
  • だから、きっと「虚無感と味気無さ」を感じたのだと思う。

その後、SNSや他の人のブログを拝見して、2度目以降に良くなる、という話を多数見かけました。これは2回目の鑑賞して、ブログを書かなければいけないと思いました。

そして、私の2回目の鑑賞後の感想は、とても気持ち良い映画、という初回とは正反対の感想を持ちました。

今回は、初回と2回目の鑑賞の違いについて、下記の3点にポイントを絞り書きたいと思います。

  1. 序破急の物語のテンポ
  2. 傘木希美について
  3. 童話パートの「リズと青い鳥

序破急の物語のテンポ

下記は、山田尚子監督のインタビュー記事。

 山田監督が描きたかったのは、「彼女たちが成長していく、年を重ねていく過程の1ページ」
と話す。2人の関係性を「始まりから終わりを描くのではなく、途中から途中を描く。彼女たち
の抱えている問題や悩みは、映画の中で始まって映画の中で終われるほど、簡単なものじゃな
い」

出展: リズと青い鳥:「少女たちのため息を描く」 山田尚子監督がこだわり抜いた表現 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

この言葉は非常に興味深い。

この部分だけ読むと、2人の物語は完結せずに、物語の途中から始まり、物語の途中で終わる様に見える。それは、私が初見の時に感じた、物語が捉えどころがなく、肩透かしと感じた事にも通じるものである。

しかし、本作の流れを理解し、2回目の鑑賞を終えた今、それは私の勘違いだったと明言できる。本作は、映画としての青春の1ページは、きちんと90分の中で物語になっていた。

その物語の流れは、下記の序破急の型に当てはまると思う。

  • 序:問題提起 - みぞれの希美依存症、希美のみぞれへのよそよそしさ、不協和音。
  • 破:変化 - リズ、青い鳥の役割交換、みぞれの才能解放、希美のみぞれの才能への屈伏。
  • 急:安定 - みぞれの脱希美依存症の兆候、希美のみぞれの実力差の受け入れ、一瞬の同期。

初見では物語として着地していないからスッキリしないと思っていたが、そんな事は無かった。

私は、この序破急の物語のリズムを理解して観直す事で、この物語を気持ちよく受け入れる事ができた。

なお、序破急ではなく起承転結ではないか?という異論は認めるが、私は序破急の方がしっくりくると思っている。

ちなみに、劇中曲の「リズと青い鳥」は第一楽章から第四楽章までで構成される起承転結の型であるが、このみぞれと希美の物語とはシンクロしていないところが面白い。

キャラ毎の考察・感想

傘木希美について

本作の最重要人物は、みぞれよりも希美だと思う。

本作は、思いを直球な台詞で語らせず、瞬きや、足さばきの演技で伝えようとするため。しかし、その演技は常に意図を持って正確に描かれるため、そのポイントを抑える事が出来れば、感情に到達する事が出来ると思う。

みぞれの考えというのは、比較的分かりやすいが、希美はより何を考えているか掴みにくい。初見で見逃していた希美の思いも、2回目では感じる事が出来た。

希美の心の流れを箇条書きにすると下記という感じか。

  1. フルートは、そこそこ自信あり。自由曲「リズと青い鳥」第三楽章のフルートソロ吹きたい。
  2. 傍目には仲良しでも、みぞれとはかみ合わず。
  3. 進路希望は白紙。みぞれの音大のパンフを見て、音大受験をみぞれにほのめかす。
  4. 音楽室で優子夏紀にみぞれの「希美が行くから音大に行く」をみぞれのジョークとはぐらかす。
  5. 第三楽章のみぞれのオーボエ、希美のフルートはかみ合わない。
  6. 新山先生に音大受験を切り出すも、みぞれの才能との扱いの差を知る。
  7. 音楽準備室で優子夏紀に一般大学受験をほのめかす。
  8. みぞれのオーボエ覚醒。余りの音楽の才能の差にフルートを置き涙する。
  9. 理科室でみぞれの大好きのハグ。みぞれは「希美の全部が好き」で希美は「みぞれのオーボエが好き」と「ありがとう」
  10. 藤棚で「神様、どうして私に籠の開け方を教えたのですか」
  11. 一般大学の受験勉強に励む。みぞれは青い鳥の練習に励む楽譜に希美の「はばたけ!」の書き込み。二人の分岐。
  12. みぞれと下校中「みぞれのオーボエ支える」発言の後、「本番、頑張ろうね」でハモる。

項番1~7が、序破急の「序」。希美の屈折した思いの蓄積。

希美はフルートが大好きで自身はあった。そして、もともと、みぞれのオーボエの上手さが特別な事も知っていた。希美は、自分の後ろに付いてくる、少し理解出来ないところがあるみぞれの事を、とびきり好いたりするでもなく、突き放すでもなく、の少し離れた距離感で付き合ってきた。

みぞれの音大受験と比較して、新山先生に声もかけられず、才能も無く、お金も無く、全てを持っていたみぞれに対する嫉妬。みぞれの音大の件で、みぞれの才能に嫉妬し、思い付きで自分も音大受験すると言い、収拾が付かなくなるが、みぞれには一般大学受験を言い出せない、という罪悪感。

こうしたものが、混然となって希美を覆っていた。希美の混沌。

項番8、9が序破急の「破」。リズと青い鳥、希美とみぞれの役割交換。

みぞれの才能が目の前に突きつけられて、その現実を受け止めきれず、音楽室を飛び出す希美。みぞれは希美に「希美の全部が好き」と告白するが、それに応えられない希美。「みぞれのオーボエが好き」に対する「希美のフルートが好き」の言葉をもらえず、諦めて「ありがとう」という希美。

この時、希美はズタズタに傷ついていたハズである。

項番10~11が、序破急の「急」。みぞれとの実力差の受け入れと希美自身の前進。

みぞれのオーボエ覚醒を通じて、初めてみぞれ自身の事を思いやり考える希美。そしてみぞれの才能と音大を受け止める事が出来た希美。受け止めた事で、一般大学受験とコンクールでみぞれを支える決心が出来た希美。

希美の心の傷は、きっと、この時点で自力で心に折り合いを付けていたのだと思う。この辺りを、初見では見切れていなかった。

実は、原作小説では、大好きのハグ以降の希美の描写が無い。だから、その後、みぞれの演奏を支えた希美の心情というのは明確には描かれていない。希美というのは優子夏紀や、久美子麗奈や、久美子秀一のような、困ったときに支えてくれる人間が居ない。みぞれは希美が好きだけど、希美の気持ちは分からない。

その意味で、希美というのは孤独であり、ユーフォの中では特別なキャラだと思う。

童話パートの「リズと青い鳥

童話パートの「リズと青い鳥」が劇中劇のレベルを超えて良くできていた。

架空の童話。著者はヴェロスラフ・ヒチル。ちなみに、リズと青い鳥のPVには「Liz und ein Blauer Vogle」はドイツ語のタイトルが書かれてた。劇中劇は下記のパートで構成されていた。

  • 導入
  • 第一楽章「ありふれた日々」
  • 第二楽章「新しい家族」
  • 第三楽章「愛ゆえの決断」
  • 第四楽章「遠き空へ」(断片のみ)

最後の第四楽章は、正確には童話パートとして描かかれていない。ただ、希美とリズが交錯する形で断片的に描かれていて、それが第四楽章の一部だったのではないか?と想像している

童話パートは、彩度が高く、背景は水彩画調で、BGMも賑やかで壮大。現実パートとのメリハリをつけていた。

この童話パートのBGMは、劇中曲の「リズと青い鳥」そのものであり、北宇治吹奏楽部の自由曲になるハズ。ただし、第三楽章の演奏にピアノが入っていたような気もするので、もしかしたら吹奏楽Verは、また少し違うのかも。

各パートごとのあらすじとポイントをまとめる。

導入

  • リズが森の動物達に餌を与えていた。
  • 離れた所に美しい青い鳥が一羽。
  • その場を飛び去る青い鳥。

リズと青い鳥がお互いに惹かれ合った瞬間。

第一楽章「ありふれた日々」

  • 湖畔の家に一人で暮らすリズ。
  • リズは街にパン屋に出勤。トラムも走る街並み、坂の途中にリズの働くパン屋がある。パン屋の主人は大男のアアルト。
  • リズは仕事を終えて帰宅。一人でご飯を食べて、一人でベッドに入るリズ。

それまでの、リズの慎ましい独り暮らしの様子を紹介。

第二楽章「新しい家族」

  • 嵐の夜が去って朝になり、リズが表に出るとそこに少女が倒れていた。リズは少女を助ける。
  • リズは元気になり、とても明るく、にこやかで、のびのびしていた。強い風の中、はためく青のスカートと青い空が印象的。
  • 少女は赤いベリーの実が大好き。リズが少女の髪に赤いベリーを飾ると、少女は喜ぶ。
  • リズは少女を勤め先の街のパン屋にも連れてくる。少女は大はしゃぎする。
  • リズはパンと赤いベリーの実を食べるが、少女は赤いベリーの実だけを食べる。

リズと少女が出会い、二人の暮らしが始まる。リズも嬉しい。少女も大はしゃぎ。

赤いベリーの実は、少女の好物として、そして少女が鳥である事の象徴として描かれていた。

第三楽章「愛ゆえの決断」

  • リズと少女は一緒にベッドに入る。
  • 少女は窓を開けて鳥になり外に飛び立ち、朝までには戻ってきていた。
  • ある夜、リズが夜中に目を覚ました時、少女がおらず、窓が開き、鳥の羽が落ちている事に気付く。
  • ある日、リズは、少女が大空舞う二羽の小鳥を羨ましそうに眺めている事に気付く。
  • ある夜、リズは、少女から「寒くなったらどこに行くの?」と尋ねられるが、どこにも行かないと答える。
  • リズは、少女が小鳥であり、少女が本能的に鳥の暮らしを欲している事を察する。

リズは少女が好きなのだけども、少女は人間の姿で居続けられない、鳥の暮らしに戻してやる必要がある、だから別れを決断する。

原作小説では、少女が鳥の暮らしに戻る必要性を説明していなかったが、この童話パートの第三楽章ではキッチリその必要性を説明している。

青い鳥が大空を飛ぶ自由を本能的に欲しているのに、それを束縛していいのか?

季節が変わり、寒い冬が来たら、本来、青い鳥は暖を求めて南に移動するのだろう。青い鳥はこの湖畔で冬を越す事が出来るのか?今、判断しなければ、取り返しの付かない事になるかも知れない。そういう時間的制約もリズの判断にはあったのだと思う。

リズの表情が少し硬く厳しいところに、リズの決断の辛さがにじみ出る。

みぞれと希美がお互いに相手の幸せなんて考えていなかった事に対して、リズは相手の幸せを考えて決断してた。この対比が皮肉だと感じた。劇中劇なのに、なんか、ここで泣けてきてしまった。

第四楽章「遠き空へ」(断片のみ)

1本の童話パートといての第四楽章は劇中劇にな無かったが、そのシーンの断片が使われていたと思う。

  • 飛び去る青い鳥を観て、リズの「神様、どうして私に籠の開け方を教えたのですか」の台詞。

それが正しい判断と理解していて、それでもふと言葉にしてしまう、青い鳥との決別の悲しさ。元の独りぼっちに戻る寂しさ。リズは強い面と脆い面、その両面を持ち合わせていて、それを物語から感じられるからこそ、物語は着陸出来る。

希美の場合は逆だったと思う。別れの運命を受け入れ、その意味を藤棚で考えていたのだと思う。この辺りの微妙なずれも、味わいなのだと思う。

まとめ

2回目の鑑賞をしてから、数日経過してしまったが、初見の感想から大分変わり、その事をすぐにブログにアップしたいと思っていました。

ただ、初見の感想というのも、その瞬間思った真実であり、私の様に「虚無感と味気無さ」を感じた人も、2回目以降で馴染んできて、本作の味わいが分かってくる事は多いと思います。

その意味で、やはり本作は、初見でダメでも余力有ったら複数回観たい、という作品だと思います。

いろんな「リズと青い鳥」のブログを興味深く拝見しましたが、私の様なブログでも、そんな見方もあるのか、と思っていただければ幸いです。