たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

ペンギン・ハイウェイ

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ネタバレ全開です、閲覧ご注意ください!!

はじめに

私は本作を鑑賞後、この作品のアニメーションとしての美しさや躍動感に凄みを感じましたが、内容についてあっさりした感じを持っていました。

しかし、鑑賞後、いろいろと考えてみると、二度三度、深く味わえる、奥の深い作品だと思いました。「オネショタ」や「おっぱい」という言葉だけで感想を終わらせるには非常に勿体ないです。

特に私はお姉さんの存在や、お姉さんの気持ちについて、考えて、感じる事があったので、その辺りを中心に感想・考察をまとめます。(考察と言ってもある程度以上は妄想です)

これ以降、ネタバレ全開になりますので、ネタバレが嫌な方は、ご遠慮ください。

ちなみに、私は原作小説未読です。

考察・感想

ジュブナイル、SF、謎解き

本作がどんな作品か?いくつか列挙します。

  • ジュブナイル作品
  • SF作品(原作小説は、第31回SF大賞)
  • 謎解き作品

本作は、間違いなく、良質なジュブナイル作品です。

アオヤマ君視点で恋とも言えない淡いくて切ない思いを共感する事が出来ます。

そして、SF作品でもあります。

しかし、肩肘張ったSF専門用語による説明は無く、不思議な事象が次々起きるので、魔法やファンタジーに感じてしまうかも知れません。本作は、お墨付きのハードSFという事なのですが、私はその辺り詳しく考察・説明出来ておりませんので、他の方にお任せします。

また、本作は、謎解き作品でもあります。

郊外の住宅地で奇妙な事象が発生する。その事象は4つあり、互いに相関しているらしい。

  • ペンギン (「海」を壊す)
  • お姉さん (ペンギンやジャバウォックを作り出せる)
  • 「海」 (森の奥の巨大な水球
  • ジャバウォック (ペンギンを食べる不気味な生き物)

ただ、この謎についても、最終的な因果関係は何となく分かるのですが、個々の事象についての明快な回答が提示されるわけではありません。そもそもこれらの現象は、現代の人類ではとうてい理解不能な事象であり、本作ではその事象を見たまま精密に描く事はしても、何故?どうして?は語られません。また、ミステリー作品でもないので、犯行の動機や、手口や、トリックがある訳でもないのです。

こうした、謎を完全に明確にスッキリ解き明かす事が無く、ある程度の因果関係の分かる所までしか行きつかない。そうした所に拍子抜けと感じる人も居るかもしれません。

でも、解けていない謎がある状態が重要なんです。

本作のラストは未解決の謎もいつか解明し、お姉さんに合える日が来るかも知れない、という前向きな気持ちでエンディングを迎えます。謎解きは続いているのです。その余韻が本作の味わいなんだと思います。

お姉さん考察

鑑賞後、私はお姉さんの「気持ち」が凄く気になり始めました。どんな気持ちで、あの時間を生きたのだろう。ネットを少し見た感じ、そういう観点で観ている人は居ませんでしたので、私はお姉さんの考察をする事にしました。

なお、この考察は多分に私の妄想を含むものです。

お姉さんとは何者か?

まず、お姉さんについて気になったのは下記の2点です。

  • 人間ではない。(お姉さん=世界の歪を修正する何か≒神)
  • 幼少の頃を記憶がある。(故郷、両親)

お姉さんは人ならざるもの。だけど、お姉さんは幼少の頃の記憶、両親や、故郷の海辺の風景を思い出を持っていました。

ということは、お姉さん主観では、これまで平凡な女性として育ち生きてきたのに、何やら自分の体に信じられない異変が起きて、普通の人間では無くなってしまった事に気付き、これからの人生も普通に送る事が出来ないという、理不尽な事故に遭遇したと思うのではないでしょうか?

何が自分に起きているのか分からない。しかも、このようなオカルト的な超常現象的な事を他人に言っても取り合ってももらえない。

一人でこの正体の掴めない不安と対峙するには、楽天家のお姉さんでも、さすがに発狂してもおかしくないような状況じゃないだろうか?などと想像します。

でも、この話を真面目に取り合ってくれる人間が現れます。歯科医院に患者として通院する小学生のアオヤマ君です。

お姉さんが人間ではなくなってしまった理由

正直、何故お姉さんが、人間では無くなってしまったのか?については不明です。

お姉さんの力は「海」と関係しています。だから、あそこに「海」(世界の歪み)が出来た時にお姉さんも力を持ってしまったものと思います。パンフレットにウチダ君のプロジェクトアマゾンの地図があります。その地図によると、街中から外れたお姉さんのマンションと「海」の森はすぐ近くです。

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しかし、マンションが近くだからと言って、どうして人間であるお姉さんが物質変換能力(ペンギンなどを造り出す)を与えられたのかは謎です。他にもいろいろと謎だらけです。

  • 何故、原住民である、お姉さんが物質変換能力を与えられたか?
  • そもそも、物質変換能力を与えられたのはお姉さん一人だけか?
  • お姉さんの物質変換能力が先で、後から「海」が来た可能性はないのか?

お姉さんとペンギン

物語冒頭、アオヤマ君は空き地にペンギンの群れを観ますが、そのペンギンはお姉さんが造り出したものと思われます。お姉さんは、とりあえず特定の条件下で適当な物質をペンギンに変換する芸を習得していました。

お姉さんはバスターミナルでいじめられていた可哀そうなアオヤマ君を助けます。

  • 何故、マンションよりも少し離れたバスターミナルにお姉さんが居たのか?

そして、ぐらぐらの歯を抜くときに、コーラをペンギンに変えましたが、それは、その芸でアオヤマ君を驚かせて抜歯の痛みを紛らわすため、だったと想像しています。ここはお姉さんのユーモアだと思われます。

そうして見せた物質変換能力に、アオヤマ君は真面目に食いついてきます。普通なら手品と思う所を、科学的に何が起きたか?大人も信じないような現象を、謎を解明したいのだと。

お姉さんにとっては、この時、世界で唯一の味方、もう少し言えば、秘密を共有する仲間が出来たのかも知れません。

「私というのも謎でしょ。この謎を解いてごらん。どうだ、君には出来るか?」

そして、アオヤマ君に自分自身の謎解きを託してみます。

多分、この時点では、お姉さんは自分の謎について、まだ良く分かっておらず、ペンギンを出し過ぎると疲れ切ってしまうくらいにか思っていなかったのかも、と想像しています。

お姉さんのアオヤマ君への愛おしい気持ち

お姉さんは、アオヤマ君の実験に付き合います。最初は上手く実験が成功しませんが、天気により、ペンギンが出せる事が分かります。

こうして観測や実験により少しづつ謎が解けてくると、アオヤマ君が少し頼もしくなってきます。しかも、アオヤマ君はお姉さんである私に好意をもってくれている事も分かってくる。この小さなナイトを少しづつ愛おしくなってきたのでは無いかと思います。

はたから見たら大人の女性と小学生。恋人どうしのはずはないのです。アオヤマ君もそこまでの気持ちではない。でも、この理不尽で特殊なお姉さんの運命が、この世で唯一頼れる人間を、想ってしまっても不思議ではないのではないでしょうか?

マンションに連れ込みスパゲティを御馳走する。これは感謝の気持ちであり、ある意味デートなのだと思っています。

お姉さんの迷い

お姉さんがうなされながら生み出すジャバウォックは、ペンギンを食べるので「海」の修復を妨害する事になります。なぜ、お姉さんは、ペンギンとジャバウォックの両方を生み出すという矛盾した行動をとってしまうのか?

これは、お姉さんが自分の使命が「海」を修復する事、そして、その後、自分がこの世から消滅してしまう事を理解していて、アオヤマ君との別れたくないという気持ちの揺れが起こした矛盾だと思います。この世の未練。

お姉さんの逃避

お姉さんは一度、アオヤマ君を連れて海の近くの実家に電車で行こうとしますが、「海」から離れると消滅してしまうため、途中で引き返す事になります。

自分でも分かっていたはずですが、本当にこれが真実なのか?もしかしたら、本当は何もかもが嘘、思い過ごしじゃないか?そう思いたい。そんな気持ちで逃避してみたのかも知れないと思いました。

しかし、現実はどうしようもなく苦しくなり、自分の周囲のホームの一部が物質変換されそうになりました。嘘ではないと、現実を受け入れざるおえなかった。

お姉さんの決断

「海」が膨張しハマモトさんのお父さん達を飲み込み避難勧告が出る中、アオヤマ君がお姉さんの元に頼みごとに来ます。ハマモトさんのお父さんを助けて欲しいと。

お姉さんは、アオヤマ君を連れて、「海」の内部に入り込み、ハマモトさんのお父さんを救出に向かいます。何故、危険を承知でアオヤマ君を連れて行ったかと言えば、やはりこの謎の第一人者だから、だと思いました。依頼人でもあるし、頼りにもなります。

「海」に突入する際、アオヤマ君を抱きかかえるお姉さんが良いです。

「海」の中のヘンテコな世界のその先に、お姉さんのイメージする海の近くの故郷がありました。もしかしたら「海」の中でもお姉さんの物質変換能力が効いているのかも知れない、と思いました。

道中、「海」を消滅させると、全てのペンギンとお姉さんもこの世界から消滅してしまう事を二人で共有しました。このタイミングでこの事を確認するという事は、すでに、この世のためにも「海」を消滅させる決意をしていたのだと思います。

そして、ハマモトさんのお父さんたちを発見したのち、この世を救うためにペンギンに「海」を食べ尽くさせます。

そして、この世からお姉さんは消えてしまった。

お姉さんが「少年」と呼ぶ理由

お姉さんは、スズキ君の事をスズキ君と呼びますが、アオヤマ君の事を「少年」と呼びます。

演出的には名前で呼ぶと二人の距離感が近しいものになってしまうので、敢えて馴れ馴れしく出来ない距離を演出するために、少年と呼んでいるのだと思います。

しかし、お姉さんの気持ちとしては、なぜアオヤマ君だけ少年なのか?

やはり、アオヤマ君が少し変わった少年だったからなのかな?と思います。

いつも気さくな雰囲気のお姉さん

もともとが気さくで明るい性格だったのだと思います。

それでも、よくよく考えてみて、お姉さんはもの凄く思い運命を背負ってしまったのに、常に明るく気さくに振舞います。全く悲観した態度を見せない。

時に体調が悪くて辛い時もあったと思います。この世の未練があるからこそジャバウォックが出現しました。いろいろ悩んだり苦しいんだ事も、絶対に多かったと思います。

でも、アオヤマ君の前では常に明るい。その姿が、とても尊く思うのです。

その後のお姉さん

「海」に吸い込まれたと思われた探査機「ペンギン号」は空き地で発見されました。あちらの世界ではなく、本来存在すべき、この世で発見されました。

そこで思うのは、もしかしたら、お姉さん自身も、ペンギンも、ジャバウォックも、あちらの世界に属するもので、「海」という世界の歪が閉じてしまった後、この世から消えてしまったけど、あちらの世界に行ってしまったのかも知れない。

という事は、お姉さんはあちらの世界で生きている可能性があっても良いのではないでしょうか?(どのような姿かは分からないけど)

アオヤマ君は、お姉さんに合うために継続して、謎の解明を続けます。

もし、もう一度「海」が出てきたとき、あちらの世界にお姉さんが生きていても良いのではないか?そんな風にも捉えられる、希望の持たせてくれるラストだったと思います。

主題歌「Good Night」

映画のラストにかかる主題歌がなかなか良い感じです。主題歌と、原作者、監督のインタビュー記事の主題歌の感想のリンクを下記に列挙します。

アオヤマ君は、この日分からなかった謎を引き続き研究し、謎を解明し、お姉さんと再会する事を信じてる。だから、お別れじゃなく、おやすみなのだという気持ち。そんな風に思いました。

こう、生きる希望みたいなものを感じる、いい余韻のラストだったと思います。

おわりに

お姉さんの気持ちについて妄想していましたが、本作はアオヤマ君主観なので、お姉さんの隠れた気持ちは見せません。なによりお姉さんの存在自体が謎というかミステリアスでなければならないので、明け透けに性格を見せないのです。

出来れば、監督や脚本家や声の演技をされた方々に、お姉さんの気持ちがどんなだったか?聞けると嬉しい、と思いました。

それにしても、「この謎を解いてごらん。どうだ、君には出来るか?」の台詞の「君」は観客で、「謎」というのはペンギン・ハイウェイという作品そのものじゃないか?

本作の事をいろいろ考えていたら、そんな考えが浮かびました。

表面的に終わらせたら勿体ない。出来れば、もう一度映画を観たいし、原作小説も手にしてみたい。そんな風に思いました。