たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編(その3)

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

はじめに

第二楽章のキャラ毎の感想が長くなりすぎたので、みぞれと希美だけ分けました。

第二楽章後半のメインディッシュであり、映画「リズと青い鳥」に直結するであろう核の部分です。 武田綾乃先生の真骨頂である繊細で残酷な人間模様であり、そこを紐解くだけで結構な文字数になってしまいました。

みぞれと希美の長きに渡る関わり会いの中で、揺らめく互いの感情を時代を追って、まとめてみます。

なお、私はユーフォはアニメで入り、第二楽章以前の小説は未読ですので、アニメ一期+アニメ二期+小説第二楽章という流れでの感想・考察になります。

キャラ毎の感想

鎧塚みぞれ

南中時代

  • 希美との出会い
  • 南中吹奏楽部で希美と一緒に
  • 南中関西大会大敗

みぞれにとって希美は一番の友達。

引っ込み思案で自ら友達を作ろうとしなかったみぞれ。そんなみぞれに対しても、希美は他の人と分け隔てなく優しく声をかけてくれて、二人は友達になった。

希美は明るくて皆を引っ張ってゆく人望厚いリーダータイプでキラキラしてた。そんな希美に声をかけられて夢中になった。まるで白馬に乗った王子様が迎えに来た乙女の様に。

みぞれは、希美が夢中になっている吹奏楽部に入部してオーボエを演奏した。オーボエが上手く演奏できると希美も喜んだ。希美の関心を繫ぎ止めるために、みぞれはオーボエを練習し技術を磨いた。そんなお互いの気持ちが作用し共鳴し合い、みぞれのオーボエ技術はどんどん上達した。

当時から希美は人気者でいろんな友達と一緒にいるのが当たり前。みぞれは希美の事を独占したかったかも知れないが、当然そんな風にはならない。希美の関心が無くなれば、目の前から希美が居なくなってしまう、という不安をみぞれは常に抱いて居たのかも知れない。

興味深いのは、みぞれ自身は直接相手である希美の心に訴える事はせず、待ち続けてるという事。あくまで「待ちのみぞれ」の構え。

第二楽章後編に、関西大会に希美と来たのは中学時代ぶり、という台詞がある。みぞれにとってはコンクールは希美と一緒に居られるための舞台であり、みぞれ自身が勝ち負けにこだわるものではない事をうかがわせていた。

北宇治一年生時代

  • オーボエでコンクールメンバーに抜擢
  • 希美の大量退部事件
  • 希美トラウマ化

みぞれの一年生時代は、暗闇の中で一人うずくまっていた、という感じだと思う。

南中時代、希美は高校になったら一緒に金を取ろう、とみぞれと約束していたので、みぞれはそれを信じて希美を追いかけて北宇治高校に入学したのだと思う。

しかし、憧れの希美は吹部三年生の先輩といさかいを起こし、みぞれには何の連絡もせず一方的に、仲間を連れて大量退部という形で吹部を去った。

大好きな希美の気を引き、褒められたいためにオーボエを上手く吹けるように練習し続けていたみぞれ。なのに肝心の希美は私の事は何とも思っていない?嫌われている?その事実を直視する事が出来ず、大好きな希美と向き合う事さえ出来なくなった。

普通なら、希美に嫌われていると思うならば、オーボエは辛い思い出であり、手放して希美の事を忘れるという選択肢があってもよい。しかし、希美はその時でも輝かしいたった一人の友達であり、その繋がりを否定したくはなく、繋がっていた証であるオーボエを吹き続ける事しか出来なかった。希美への未練。

ここで、みぞれが極端だと思うのは、希美が退部しても、普通に、今はフルートは吹いていないの?などと会話できそうなものだが、たったそれだけ声をかける事もできないという引っ込み思案。みぞれは、いつでも自分から行動せずに、誰かの行動を待っていた。

北宇治二年生時代

  • 京都府大会突破
  • 希美との和解
  • 関西大会突破と全国大会銅賞

みぞれの二年生時代は、希美との復縁により、それまで心を覆っていた氷河が氷解し、喜びの感情が最高潮に達した、という感じだと思う。

希美が退部した後のみぞれのオーボエは精密機械の様に精巧な演奏だが、感情が伴わないマシンのような演奏だった。

合宿の日、久美子に、コンクールは嫌い、自分がなぜオーボエを吹き続けているのか分からない、と言った。でも、それは希美との繋がりの証だったから、オーボエを手放せなかっただけの事。

関西大会の前に希美はみぞれに接触し、みぞれは希美から逃げ出すが、最終的に希美はみぞれの事が嫌いでは無かったと誤解を解いて、みぞれと希美の友人関係は復縁した。

嫌われていると思った大好きな希美から、今まで通りの友達である事を切り出され、みぞれの気持ちはどん底から最高潮の喜びに反転して、感情の針はレッドゾーンを振り切った。そして、みぞれは生き生きとしたオーボエの演奏を取り戻した。

これで、みぞれの問題は解決したか?というと全くそうではない。本質的な問題は希美依存症という病気で、希美断ち状態から、希美が供給されるようになり、禁断症状が出なくなっただけ。

みぞれの「希美離れ」が一番重要な課題だが、二年生時代にはその問題は先送りとなった。

しかしながら、みぞれは感じていたはずである。全国大会出場まではコンクールを中心とした吹奏楽熱はあるものの、それ以降は、徐々にそれ以外の興味の比重も増え、吹奏楽以外の友達の付き合いの割合も多くなってくるだろう。みぞれは希美の事が一番好きで大切だけど、希美はみぞれの事は不特定多数の友達のうちの一人である。今までの濃度で希美を占有する事は、おそらく叶わない。

大好きで独占したい、だけど相手はそんな風には思っていない。いつも優しい微笑みをくれる、だけど相手はいつまでもこのような笑顔を見せてくれるのだろうか?

喜びと裏腹の不安。希美がみぞれに対し少しづつ離れて行ってしまう可能性。当然、そうなる可能性が高いのに、不安を増殖させながら、だけどその現実を直視できない。

みぞれは、受け入れがたい事に対しては、思考停止して考える事が出来ない、前に進む事が出来ない。そんな月日を過ごしたのではないかと思う。

  • 優子との関係

希美との復縁に関連して、優子の床ドンも触れておかねばならない。

優子は、基本的に弱者を救済する。みぞれは見た目通りにか弱い存在であり、みぞれの事が好きで気にかけている。

更に優子は大量退部の時に吹部に留まった側の人間であり、みぞれがトラウマになった希美の事を少なからず嫌っていた事は想像に難くない。

しかし、その優子の思いはみぞれには届かない、というところが切ない。ここが武田綾乃先生の優子に対する厳しさがにじみ出るところだと思う。

よくは分からないが、強く正しい優子は、みぞれの中では心を溶かして一緒にいて心地よい友達というよりは、一緒に居て肩がこり疲れる友達、として認知されていたのかもしれない、などと想像している。

一言でいうと、これがみぞれの残虐性。相手がどんな気持ちで思っているのか、想像が働かない。

北宇治三年生時代

  • 音大進学と希美

みぞれの三年生時代は、自らの意思で行動しはじめ、希美と離れる現実を直視し、未来の一歩を踏み出した、という感じだと思う。

新山先生から聞いたという音大推薦のみぞれの話に食い付いた希美。その希美が軽い気持ちで言った音大進学発言に私もと追従したみぞれ。ここでもあくまで希美が望む所に一緒に行きたいという気持ち。

希美が後輩を大切にした方が良い、と言えば梨々花達もプールに誘う。希美が望む事を実践するのは希美に嫌われないようにして希美を引き留めるため。

でも、その心の裏では、また希美が勝手に消えてしまうという不安を抱き、その点について希美を信用出来ない気持ちがみぞれの心を覆いつくしてた。好きだけど嫌い。

希美は本心とは裏腹に笑顔を偽造する様が描かれていたが、みぞれもこれまでの付き合いでそうした希美の嘘を感じ取っていたのだと思う。音大進学を約束した希美だが、一緒に音大に行かない可能性が、勝手に消えてしまうという不安を現実のものにした。

合宿の朝、久美子がみぞれに希美が音大を受けない可能性を示唆し、それについてみぞれは「分からない」と返した。都合が悪いことは思考停止するのがみぞれ。

新山先生のリズの気持ちではなく、青い鳥の気持ちでオーボエを吹くってのは、天才的な逆転の発想だと思った。

この助言でみぞれは、それまでの精密機械の様な感情の無い演奏から、総天然色の最高に生き生きした演奏する事ができた。

ここで面白いのは、リズが青い鳥のリズ離れを望んだために青い鳥は飛び立ったのだが、これは、希美が希美離れを望んだためにみぞれが飛び立つ事が出来る、というロジック。

リズと青い鳥」は、みぞれは生き生きとした演奏だけでなく、希美離れのチャンスも与えた事になる、と思った。その理由に、この直後、久美子に大好きのハグを自分からする事を言及している。これはみぞれにとっては成功体験の第一歩だった可能性があると思う。

もし、そこまで考えての新山先生の発言なら、新山先生は天才かと思う。

  • 太陽公園での希美と大好きのハグ

関西大会の二日前、みぞれから希美への告白。これは、先のオーボエ無双から少しづつ変化しているみぞれの心が勇気を振り絞った結果の行動。もしかしたら、関係が壊れてしまうかもしれない。でも、我慢できなかった告白。

希美が音大に行かない事を責めて、それでも希美が望んだ事だと受け入れて、大好きの告白として「大好きのハグ」をした。その時の台詞は「希美の事が好き」である。対する希美の台詞は「みぞれのオーボエが好き」であり、みぞれの事を好きとは言えない気持ちを出してきた。

みぞれはこの希美の言葉の意味を理解していたのかどうか分からないが、みぞれは思考せずに感じるタイプの人間なので、希美が埋めない溝がある事を直感で感じていたのだと思う。関係は壊れる事は無く、距離が変わる事は無く、いつまでも埋まらない溝が明確になった。これはこれで、ある意味残酷な事実を突きつけられた形のみぞれ。

今この瞬間を抱きしめ合いながら、その気持ちは本物だから。

多分、この時は、みぞれの考えはまとまっていなかったと思う。永遠にその時間を過ごしたかったのかも知れないが、わらわらと夏紀達外野が出てきてその瞬間は幕引きされた。

みぞれが勇気を振り絞った瞬間の夕焼け空がその瞬間だけ真っ赤に染まった演出が印象的だった。

  • 音大進学の決心

関西大会ダメ金後、植物園の演奏会の前のタイミングで久美子に告白するみぞれ。

合宿の時に久美子が指摘された希美が音大に行かない可能性について、「いっぱい考えた」という所がマイペースっぷりが半端なくて可笑しいが、みぞれにとっては大真面目。思考停止せずに前進した事の証。

希美が音大を諦めた事に対して、みぞれは音大を目指す事を決めた。理由は、音楽は希美がくれたものだから。

希美が好きなのはみぞれのオーボエ。希美が好きなオーボエを続ける事が希美が望む事ならば、そのためにみぞれは音大で音楽を勉強する。この下りは「リズと青い鳥」の青い鳥そのものである。

初回読了後、私はみぞれの希美依存症は治っていないように感じていたが、読み直してみると上記の通り、青い鳥になぞって見事に飛び立つ様が伺える内容になっていると思う。まるで合宿の日、飛びぬけた演奏を披露した時の様に。

この展開のロジックの美しさは見事。

正直に言えば、みぞれが希美だけが友達と思っていた感情に対し、久美子や梨々花やいろんなタイプの人間とも本気で友達付き合い出来る姿が見れれば、一番良いとも思うが、それにはまだ時間が少しかかるのだろう。

そうなったみぞれが、優子や麗奈の様な従来みぞれが苦手としていたと思われる人間とも、心を開けるようになっていれば、みぞれにとっての本当のハッピーエンドというか、一社会人としてやっていけそうな安心感が得られるのだけど、そこまでは欲しがり過ぎというか、読者の心の余韻で楽しんでください、という事かも知れない。

傘木希美

南中時代

  • みぞれとの出会い
  • みぞれのオーボエ
  • 関西大会銀メダルの敗退

希美は一人ぽつんと座るみぞれに声をかけたのは、ただ希美が良い子だったからだと思う。

希美は誰とでも明るく仲良く接し、持ち前のリーダーシップで周囲の人間を引っ張る存在。こちらから笑顔で接すれば向こうも笑顔で返す。相手の得意を誉めれば相手も喜ぶ。ただ単にそういう優等生だったのだと思う。

希美はみぞれを吹部に誘った。みぞれのオーボエの上達を素直に褒めた。そして、それを受けてみぞれは喜び、オーボエの腕を磨きより上手に演奏できるようになった。

希美は三年生で吹部の部長を務める。銀メダル敗退の帰路のバスの中で隣に座るみぞれに「高校で金取ろう」と言ったのも当時の悔しさを前向きに口にした。

ただ、それだけの事だったのだと思う。

北宇治一年生時代

南中三年生時代の雪辱戦としてコンクールで勝ちに行きたい希美に対し、北宇治吹部のコンクールを重視しない方針で出鼻をくじかれる希美。その事で不満が募り三年生といさかいを起こし、仲間を連れて大量退部した。

希美はプライドが高い人間なんだと思う。先輩からの嫌がらせに腹が立ち、我慢出来なくなりキレたのだろう。

希美は明るく接する事は得意だが、逆に利害の一致しない人間からのストレスが加えられた時は脆い。希美の結論は、無理に一緒に居る必要はない、その場から退散する、という潔いものであった。

一度言い出すと希美は後には引けない。「すみませんでした」とその場をお茶で濁してやり過ごす事は出来ない。そういう所は馬鹿正直で生きるのが下手とも言えるのかも知れない。

希美はその人望とは裏腹にいくつもの「負け」を背負って生きている。妥協と言い換えてもよい。この時の退部も希美の中では屈辱の大敗であろう。

ここで希美が特徴的なのは、こうした負債を背負い込んでいても、常に「良い子」として振舞う事を自らに課しているところ。そして、そのギャップを埋めるために無理やり口角を上げて笑顔に見える顔を作る事を日常的に行うようになっていったのだと思う。

この「良い子」を演じるという性格は親のしつけの賜物なのだろう。それ自体が悪い事とは思わないが、希美のそうした辻褄合わせの技が、希美という人間に表裏を作り、その性格に大きく陰影を落とす形となったのではないか?もっとはっきり言うと、希美はこうして体裁を取り繕うために嘘を付ける人間になった、などというと言い過ぎだろうか。

  • みぞれに対する嫉妬

大量退部で希美がみぞれを誘わなかったのは、みぞれがオーボエ奏者としてコンクール出場が決まってて活躍する舞台が約束されており、黙々と個人練習する様から、みぞれが吹部を辞める理由は無いと考えていたから。

前述のとおり希美はプライドが高い。みぞれに何も言わずに退部したのは、コンクール出場という勝ち組のみぞれに、負け組の希美がかける言葉がなかったからだと思う。

そして、この頃から、みぞれへの嫉妬は蓄積し始めたのだと思う。いつも寄り添って慕ってくる猫の様なみぞれ。しかし、その演奏の上手さを妬む嫉妬の気持ち。何故、みぞれは問題なくコンクールに出場出来て、私は退部しなければならないのか…。

それともう一つ気になる点として、退部によりみぞれは友達が誰も居なくなる事を、希美は理解していたと思う。これにより身寄りのない捨て猫になるみぞれの事を、仕方ないとケアを諦め退部した。希美自身は他人の事にかまけてる余裕は無かったのかも知れないが、この時、希美は後ろめたさを感じていたのだろうか?

最終的に、退部した希美は吹部に顔を出す必要もなくなり、みぞれとも自然に疎遠になり、みぞれの事も含めて、一旦遠くの方に追いやってしまったのではないかと思う。そうしなければ、希美自身が辛すぎたのだろう。

北宇治二年生時代

希美にとって、滝先生の指導の下、吹部が本気でコンクール目指す体制に豹変したことは、青天のへきれきだったのだろう。希美は京都府大会の演奏を観客として見に来てた。

この機会にお世話になったあすか先輩達をお手伝いしたい、そう思って、あすかにその件で吹部に戻らせて欲しいと嘆願するも、キッパリ断られ戻る許可を得られない。

あすかが希美復帰を拒む理由は、みぞれのメンタル崩壊を心配しての配慮だった。この件では夏紀が希美の復帰を手助けしていた。希美もここまで拒否される理由が分からず困惑状態に。

  • みぞれとの和解

みぞれとの和解は、希美がみぞれの事を嫌っていないと言い聞かせ、昔通りに普通に一緒に居られることを伝えた事で、満面の笑みと突き抜けたオーボエ演奏がみぞれの元に戻ってきた。

この時も、希美はみぞれに対する負の感情なんてまるで無かったように振舞った。

きっと内面の感情ではいろいろ思っても、表面では良い子を演じる優等生が染みついているのだろう。表面的には負の面を徹底的にみせないように。そして、この場を取り繕い、結果的に北宇治吹部の危機を救った。

  • 関西大会突破と全国大会銅賞

以降は、B編チームと行動を共にして、コンクールメンバーを支える側として北宇治吹部で行動し、自分のために吹くという、みぞれのオーボエの上手さにうっとりした。

そうこうしているうちに全国大会も終わり、従来通り様々な友達と様々に交流する通常モードに戻っていたのだと思う。

そして、来年度こそ私も念願のコンクールの出場するのだという思いを胸に。

北宇治三年生時代

  • 大学進路への迷い

みぞれの音大進学発言に単純に憧れて、音大に行きたいと言ってしまい、引っ込みが付かなくなった希美。実際に音大に行くにはお金も勉強も必要で非現実的な選択である事を思い知る。

希美はそのプライドからみぞれに音大諦め気味な事を告げる機会も持てないでいた。みぞれの方はお金も勉強も困った風ではない。か弱い子猫のふりして実際のところ随分と恵まれた環境と才能を持ち合わせており、無意識のうちにみぞれに対する嫉妬として蓄積されていく様が、息苦しい。

希美は音大を諦めるという形で、みぞれに対する裏切る事になる。そして、その事をみぞれに告げる事もできず、そのまま時間が過ぎるのを祈るように。

その裏切り者の自分を希美自身が責めている。良い子として振舞いたいのに、どうしても悪い子になってしまう面を消せない。自分の中の二面性に苦しみ、それでもなお、良い子を演じようと口角を上げて無理やり笑顔を作りスイッチを入れる。

第二楽章では、希美のこうした葛藤、苦悩が描かれる形となった。これまで、希美は基本的に笑顔で人気者で周囲を明るくするポジティブな存在として描かれてきたが、ここに来て初めてその問題の封印を解いた。

これまで、イマイチ掴み切れないと思っていた希美の気持ちというのは、実はダークサイドを見られないようにするために、ワザと掴めないように本心を隠して振舞っていたのだと思った。

この事で希美を嫌うというより、希美の人間臭い面が知れて、より希美の事が可哀そうな存在で有ると知ることが出来た。久美子は希美の事を、ひどいと思うけど、嫌いになれないと言った。私も、嫌いになれない、は同感である。

みぞれがオーボエ無双する前までは、希美の方がフルートを生き生きと吹いていた。みぞれをバックアップしなければ、と良い子の希美が考えていた。

しかし、新山先生アドバイスにより、みぞれがオーボエ無双したとき、希美はその才能・実力にあっけにとられ、自分との格差を思い知らされ、悔しくてその場でフルートを吹くこともできず、直後の休憩時間に外に飛び出し、一人で涙を流した。

それは、希美が大切にしてきたプライドを一瞬にして跡形もなく破壊するほどに。

その後、久美子と会話もするが、希美は改めて、みぞれのオーボエをバックアップする決心をして笑顔を作り、演奏に戻る。希美というのは、こんな状況でも良い子を演じ続ける。流石にこの時は、二面性の哀れというより、逃げずにみぞれに応えるという気概を感じた。

第二楽章において、基本的に希美はカッコ悪く卑怯な存在として描かれる。でも、このシーンの希美は頑張っていたし、良かったと思う。

  • 太陽公園でのみぞれと大好きのハグ

関西大会二日前の太陽公園での練習の後、夕方にみぞれから大好きのハグをされるシーン。

みぞれから音大進学を諦めた事を確認され、なぜ私に相談もなく勝手に決めるのか?という事を責められる。そんなのは、希美のプライドでこじれた気持ちのせいで、それをみぞれに相談する事も出来ずに、問題ごとを放置したからに他ならない。希美の負の人格のせいだが、そんな事は口に出すはずもない。

希美の一般大学への進学の件を「希美の選択、希美が幸せならそれで良い」とみぞれに言われて「のぞみにそれ言われるのキツイな」と言ったシーンの気持ちは重い。希美の罪の意識を知ってか知らずか、みぞれはその罪を不問にし、希美の幸せを考えている。希美はみぞれの幸せなんて、これっぽちも考えていなかったのに。あまりにも一方的な愛とその重さ。

希美はみぞれの「希美の事が好き」に対して「みぞれのオーボエが好き」と応えた。このシーンは痛烈で、希美はみぞれの愛を受け入れることは出来ない、溝は埋まらない、という回答だと思った。

みぞれに対する嫉妬心からみぞれを更に傷付けてしまうリスクからか?単純にみぞれの愛が重すぎるからか?希美自身がみぞれにとって害悪にしかならないと思ったからか?

真相は分からないけど、最終的に、この台詞は、みぞれが音大という世界に飛び立つ青い鳥となるために、リズである希美が自分の元から巣立たせるシーンと重なるシーンだと思った。

  • 希美の問題について

結局、希美の問題というのは、良い子で居続けるために表面を取り繕う、自分で罪悪感を感じてしまう二面性だったのではないかと思った。そして、その希美の問題は未解決だと思う。

希美には、カッコつけずに、悪い自分も表に出して、二面性をぶっ壊して、裸になって付き合える友達が必要だったのか?もしくは、良い子を演じ続ける事をやめ、時には羽目を外して悪い事も出来るようになれば、自身の二面性からくるストレスは軽減出来たのか?

可能性の話だが、みぞれが居なければ、希美はここまでストレスを溜める事は無かったのかもしれない。みぞれの持つ恵まれた才能と環境への妬ましさ。しかも、みぞれのオーボエは希美が好き故に上達してきた。みぞれの希美への好きの気持ちの純度が高い事が希美にとってのダメージに繋がるという皮肉。希美にとってみぞれはモンスターに見えていたのかも知れない。

武田綾乃先生第二楽章で希美深掘りした結果、第二楽章とそれ以前で落差が激しすぎた希美。久美子じゃないけど、それでも嫌いにはなれない。

最後に

私はみぞれファンなので、第二楽章でみぞれと希美の気持ちには自分なりに決着を着けたいと思っていたが、書き始めるとこれまでにない文字数に膨らみ自分でも驚く。

このあまりに奇形で不器用な二人の愛。好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。

アニメからずっと待ち続けたみぞれの希美離れがどんな形になるか悶々と考えていた私に、回答をくれた第二楽章。とても面白いエンターテイメント作品を存分に楽しむことができた。

話は小説から離れるが、みぞれと希美は映画の「リズと青い鳥」でも取り扱われる。その時に、山田尚子監督の更なる解釈に出会える可能性も期待している。自分の解釈との乖離も味わいたいし、山田監督の、奇麗で汚くて、美しくて残酷な少女たちのきらめきを楽しみにしてる。

第二楽章ネタとしては、あと第三楽章の予想みたいのをまとめたいと思っているが、これは少し先になるかも、です。