たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

はじめに

第二楽章に続く響け!ユーフォニアムの短編集ですが、期待を超えて良かった!

もう、短編は本当にいろいろです。全体的に短い作品が多いので、もう日常の一コマだけで終わる空気みたいな作品もあり、今まで見せないキャラの側面が見える作品もあり、変化に対してそれぞれの覚悟や変化を見せてくれる作品もあり。

見直してみても、本作は後味の悪い気持ちになる作品は無く、ほぼ清々しい気持ちで読める作品です。

また、優子部長の代はこれが最後であり、今後南中4人組とも会えなくなるのは、とても寂しくはあります。(OBとして大会に応援は来ると思いますが)

それぞれを、サッと感想を書こうと思っていましたが、思いがけず文章が多くなりました。

第十二章は別途、投稿します。

第一章は、第十三章とのセットの物語のため、第十三章側に考察・感想を集約します。

考察・感想

一 飛び立つ君の背を見上げる(FIne)

本章は、第十三章とのセットの物語のため、そちらに考察・感想を集約します。

二 勉強は学生の義務ですから

8月末、緑輝で勉強会をする久美子と麗奈と葉月と緑輝の雑談の話。

他愛の無い雑談の中でさりげなく、4人の進路希望が語られている。

  • 緑輝は、デザイン系の学校
  • 麗奈は、音大
  • 葉月は、進路未定
  • 久美子は、進路未定

緑輝のデザイン系の学校に進学したいというのは意外。

てっきり音楽続ける事を考えていたのかと思っていた。緑輝は、コンクールでも全く物怖じしないし、常に次の大会の事考えているし、タフなメンタルの持ち主で、これこそがプロなんじゃないか?とさえ思ってた。

葉月の進路未定は、不明確な自分の立ち位置を示していたと思う。

緑輝や麗奈が明確な進路希望を持ち、やるべき事を理解し、やるべき事をやる。そうした姿をみて、緑輝や麗奈は「強い」と葉月は感じていた。この葉月の、どうしたら良いのか分からずに困っている様子は、第十二章の布石にも思う。「どうせ、A編なんて無理」「A編とのレベル差を埋める方法なんて分からない」そういったダメ元な気持ちの表れを意味しているのではないか?と思った。

久美子の進路は、第三楽章でも大きなテーマになりそうな話。

少なくともこの時点では何も考えていないが、この先9月には新山先生から音大のパンフを受け取る久美子だが、その先の話は第三楽章までお預け。

また、久美子たちが1年生の学力に触れるシーンがあったので、メモ。

  • 奏は、頭がいい。(久美子情報)
  • 梨々花は、数学学年一位(久美子情報)
  • 夢は、日本史はすごいらしい(麗奈情報)
  • 求は、かしこいってイメージはない(緑輝主観)
  • さつきは、葉月と同じくらいあほ(葉月主観)
  • 美鈴は、間違いなく頭いい(葉月主観)

久美子や麗奈は人づての情報なので、多分間違いないのだろうが、緑輝と葉月のは主観なので、あまり確実な情報とは言えない気がする。そういうフェイクがあるか否かは不明。

三 だけど、あのとき

香織からあすかへの手紙の形式を取りつつ、香織があすかの何に惚れてしまったのか?を掘り下げるお話。

第二楽章で関西大会の応援に駆け付けたあすかと香織とその種明かし。

香織とあすかの話を考えるといつも思うのは二人の対比

  • あすかは、愛に乾き、愛を欲してない
  • 香織は、愛に溢れ、愛を押し売りする

基本的に、あすかの行動に優しさや愛は無い。そして気に入らなければ容赦なく攻撃する。その破壊力は半端なく、常にあすかの賢さ、強さが強烈に描かれる。それでいて、愛が無い事に寂しさや孤独を感じていない。だから、愛が無い事が弱点にならない。

香織は多分、あすかの特別(賢さ強さ)の他に、愛に乾いている事を不憫に思って、その事に対して愛情で包み込もうとしていたのだと思う。

1年生の秋の帰り道のあすかは、香織があすかの告白に対して、あすかの特別が無くなったら好きじゃなくなるのか?と香織に質問してしまう。そして、案の定、レトリックな攻撃に回答を窮してしまう香織。

いつものあすかなら、これで終わっていたはずだが、この時は少し違ってた。

いざ帰るときに、ふと悲しい顔をするあすかの表情の描写が入る事で、香織からの愛に対する複雑な気持ちを見せていた。

多分、あすかにここまで愛の告白をした人は過去居なかったのだろう。そして、それ自体は嬉しいと思う気持ちが、わずかでも確かに有った。でも、それを受け取れなかったのは、いつもの他者を寄せ付けない攻撃。その条件反射的な行動が、せっかくのチャンスを殺してしまった、のだと思う。そう考えると切ない。

分かれ道に立つはずの卒業式の日、香織があすかに託す手紙は「好き」だけじゃなく「一緒に住みませんか」とあすかを追いかける宣言ともとれる内容が書かれてた。

第二楽章を見た感じ、ルームシェアはしているの可能性は高いと思うが、あすかが香織の同棲を受け入れた気持ちは分からない。「あのとき」の一瞬の寂しさが、本物の気持ちになったのか?はたまた別の理由か?その辺りを第三楽章で入れてもらわないと、この話は着陸しないような気がするので、是非お願いします。>武田綾乃先生

看護学校に入り看護師になりリアル白衣の天使になるであろう香織の行く末は、あすかにかかっている。いずれにせよ、香織の大胆過ぎる行動が強烈すぎる話だった。

四 そして、あのとき

大学で伊藤杏子や晴香に出会い、葵が吹奏楽に戻る話。

第二楽章で府大会に晴香と共に応援に駆け付けた葵とその種明かし。

入学式で出た伊藤杏子。キャラが正反対の杏子と葵の対比。

  • 葵は、地味で真面目な元北宇治吹奏楽部のサックス奏者(途中退部)
  • 杏子は、派手でアクティブな元修大付属吹奏楽部のトランペット奏者

葵が大学に入り、最初にできた友達はトランペット奏者の杏子だった。パンツスーツで赤い口紅。大学でもトランペットを吹きたくて仕方ない杏子。吹奏楽を軸に、お互いに無いモノを持ち、補い合えそうな二人。

大学の吹奏楽部の新人歓迎会で再開した晴香と葵の対比。

  • 葵は、吹奏楽部を止めた事に対する後悔してるのに、無理やり納得してた。
  • 晴香は、吹奏楽部の部長をやり遂げて、嫌な事よりも良かった思い出をいっぱい持ってた。

大学受験を優先するから、退部した人たちへの申し訳ないから、自身に言い聞かせて納得して吹奏楽から離れてた。でも今、我慢と妥協の産物だった高校時代に別れを告げて、心から欲する吹奏楽に杏子や晴香と一緒に能動的に楽しもうとしてる。

私は葵が好きなので、こうして輝き取り戻した姿を見られて嬉しく思う。

五 上質な休日の過ごし方

梨々花と奏が休日にお菓子を作る話。ちなみに、話題になっていたお菓子は下記。

馬鹿馬鹿しくふざけていても、息ピッタリの二人だが、人当たりには差がある。

  • 梨々花は、計算ずくの柔らかさで相手の懐に飛び込むタイプ
  • 奏は、見た目の可愛さで武装し皮肉交じりの丁寧な台詞を盾にするタイプ

可愛いものが好きだし、可愛くありたい。その気持ちを互いに持ち、互いに高め合う良い関係。

だがそれは、二人が等身大から少し背伸びをしている事も意味している。もう少し言うと、周りを飾り立て、素を隠しているとも考えられる。二人が抱える素の部分にドラマがあるのか?それは分からない…。

面白いのは梨々花がリードしながら奏と共同作業を行っている事。みぞれとの付き合いもそうだが、あくまで梨々花がじゃじゃ馬を乗りこなす構図だと思う。そう思うと久美子の次の代の部長は、やはり梨々花なのかも知れない。

梨々花の家は飲食業という事なので、モノによっては梨々花が負担する材料費もタダだろうし、お金を掛けなくても工夫次第で楽しく過ごせてる。普通の高校生みたいに手軽だからとマクドナルドで世間話をするような事はしない。こういう所をみると、梨々花という人間の堅実さも感じる。

梨々花はまだまだ謎多き不思議なキャラ。

六 友達の友達は他人

芹菜が梓を思いつつ、緑輝にカツを入れられる話。

  • 芹菜は、「好き」「頑張っているね」とか照れがあり過ぎて、隠してしまう。
  • 緑輝は、「好き」「頑張っているね」を直接相手に伝えるし、そうすべきと主張する。

芹菜と梓は1年のマーコンの全国大会前に和解している。このタイミングであれば、忙しい梓が電車で偶然芹菜に遭遇し、手帳に「マーコン!」を勝手に書き込むことは十分にあり得る。

それにしても、大勢の人数を相手にし活躍する陽の梓と、ただなんとなく身近な友人と一緒にいるだけの陰の芹菜の対比。たまにしか合わないから、余計に盲目的に思いが募ってしまう芹菜が痛い、痛過ぎる。

梓の友達の芹菜の友達の緑輝、すなわち、梓と緑輝は他人というタイトル。実際に梓と緑輝は知り合いでは無いが、おせっかいな所は似ている二人。でも、頼られる事に喜びを感じ、人の心のデリケートな部分に触れてしまうのは、はやり梓の特徴であり、二人の違いなんだと思う。緑輝はいい意味で鈍感(なフリ?)だと思う。

余談だが、久美子と秀一が付き合っている事がクラス内で周知されているのは、はやり六月の縣祭以降の目撃情報が多発していたのだろうと想像。噂は怖い。

七 未来を見つめて

卒業記念に北宇治吹部の卒業生が一泊二日の温泉付きスキー旅行をして、晴香とあすかと香織の3人がスキーをして温泉につかってお土産を買う話。

第二楽章で関西大会の時にあすかから久美子に手渡したひまわりの絵葉書をあすかがお土産として購入。

卒業後なので、香織の手紙がすでにあすかに届いた後になる。

気になったシーンはあすかが別の風呂に移動する際の香織と晴香のやり取り。

「私だって、いつもあすかと一緒にいるわけじゃない」という香織の台詞。あすかに一生付いていきます、くらいなノリの手紙を渡した後だとしたら、温度差があり過ぎるように感じた。でも、香織の本位はあすかと肩を並べる存在になりたい、という所にあるとすると、意味は合う。

あすかは香織に対して返事をしたのか?保留しているのか?この辺りの解釈は微妙な感じ。

香織の「多分、全部全部、これでよかったんだと思う。葵も、あすかも」から「晴香は相変わらずだね」のあたりの晴香とのやり取りも、二人だからこその言葉じゃないコミュニケーションを感じられて良かった。

あすかに今を共に生きた証の記念品を残させようとする晴香の想いとは裏腹に、結局、あすかが買った唯一のお土産が絵葉書一枚というのも、あすかっぽい。絵葉書は手元にとっておくものではなく、手離れしてしまうものだから。

八 郷愁の夢

滝先生の奥さん(千尋)、新山聡美先生、滝先生、橋本先生の大学時代の話。

千尋先輩と滝先輩は仲睦まじい恋人同志で、聡美は心優しい千尋先輩が大好きで、滝先輩が羨ましい。

千尋先輩への気持ちを全く包み隠さない聡美のストレートさ。聡美は、美人なのに飾り気無しの性格で、恋愛感情は激しモノという、カッコいい女性像で描かれてて新鮮だった。

遡れば遡るほど、偏屈っぽくなる滝先生。ならば、子供の頃の滝先生の一体どれほど偏屈なのか?という素朴な疑問。

ラストの聡美が願う千尋先輩の永遠の幸せ。未来を知る読者にはとても切ない。

九 ツインテール推進計画

休日練習の昼休みに、さつきがみんなをツインテールにしてゆく話。

ここは、各キャラの髪型を確認しながら読み進めたい。

あらすじは下記。

さつきの「みっちゃんはやっぱ優しいね」に対し、美鈴の最期の心のつぶやき「どっちが優しいんだか」が意味深。

普通に考えると、さつきの行動に優しさは無い。強いて考えるとすれば、クローバーの花飾りのピン留めを特別に付けてくれた事? この辺りの解釈は微妙。

十 真昼のイルミネーション

クリスマスイブの日、四条の喫茶店でガレット食べながら希美と夏紀が雑談する話。

夏紀のカレッジ・ブルー。夏紀は、自分が大人になり年を取る過程で、今の自分が変わってしまうかもしれない、という漠然とした不安を抱えてた。

  • 電飾の輝きが無ければ良さが分からない人は悲しい。
  • (優子のように)物事の本質で良さを見極められる人間は凄い。
  • 大切なモノが価値を知らない人間に曲げられ壊される事に対する不満。
  • そして、自分がその加害者側になる不安。

これに対し、希美は根拠なく大丈夫と夏紀に言う。根拠なんてなくてもその言葉が助けになる。

  • 「後悔しても、そのときは引き返してまたやり直せばいいだけだし」
  • 「夏紀はさ、そんなひどい大人になったりしいひんと思う」
  • 「ただ、夏紀はいいやつだって知っているから」

希美は根拠は無いというが、これまで、常に人を気遣い、他人を傷つける事のない夏紀を見続けて、そんな心配は無いと直感的に思ったのだろう。

夏紀が弱さ不安をさらけ出すのは珍しい気がする。相手が優子なら絶対無理だろう。素直な状態の夏紀と希美の距離感。良い感じ。

途中、立派に部長をやり遂げた優子に対する希美の気持ちに触れた時の一文。

  • 自分の中の醜い部分から目を逸らさない人でありたい。

みぞれの独り立ちを受け止めて、希美が大人っぽくなったと感じた。

個人的に、第十章は、全体的に薄いグレーで柔らかくて優しいという印象を持った。ユーフォという作品の中にあって、少し珍しい、この静かな温かさが良いな、と思った。

十一 木綿のハンカチ

東京暮らしを始めるため、京都駅で新幹線の卓也の旅立ちを見送る梨子の話。

卓也は寡黙で男らしく梨子の事をエスコートしてきた。梨子はこれまで卓也に尽くされてきた。

見送りの日、待ち続けるのではなく、待てなくなったら押し掛ける、と言った梨子。涙をふくハンカチは女性から男性に渡された。多分、梨子から積極的にアクション宣言したのは、珍しい事だったのではないかと思う。

木綿のハンカチーフ」の頃からは時代は変わった、という話。

十二 アンサンブルコンテンスト

長くなりそうななので、別途ブログ起こします。

十三 飛び立つ君の背を見上げる(D.C.

第一章とパラレルに進む話なので、こちらのまとめます。

卒業式の朝、優子とみぞれと夏紀と希美が一緒に最後の登校をする話。そして、優子が夏紀に今までの感謝の手紙を手渡しする話。

希美。

希美にとってみぞれとは何だったのだろうか?

第二楽章で、みぞれのオーボエは大好きだけど、みぞれ演奏技術や音大受験に嫉妬し、みぞれに対して酷い事したのに、みぞれからは全て許すと言われた。

希美にとっても直ぐには治らない心の傷。みぞれがプロになれるか?について少し否定的に言って後悔したり、みぞれが自分だけを見なくなった事を感じたり。

希美にとってもみぞれの事は心の傷なのである。完治はしていない。だけど、無理やりな作り笑顔は無くなった。その意味では、より力を抜いて自然に生きられるようになったようにも感じられたのは、良かった。

優子とみぞれ。

みぞれは卒業式のこの日に言わなかったら後悔すると思って、走ってきたのだと思う。最期の最後に交わす「ありがとう」の台詞。

この瞬間、見ているこちらも泣けてきて、自分でも驚いた。

ずっとみぞれを気遣ってきたのに、みぞれに気持ちが届いていないと思い込んでいた優子。その不憫さを読者もずっと共有してきたし、優子とみぞれの気持ちが通じ合える日を待ち望んでいながら、もう諦めてた。

今やっと積年の想いが、みぞれの台詞ととに成仏できた。

本当に、ありがとうございました。武田綾乃先生。

おわりに

私は響け!ユーフォニアムのファンではあるが、小説は第二楽章から読み、第二楽章が大好きな人間なので、この短編集が発売されると聞いたとき、とても喜びました。

でも、短編集なのだから第二楽章ほどの感動は無いのだろうと思っていました。

しかし、ずっとストレスを感じ続けてた、優子とみぞれの事を奇麗に精算してくれた事がとても嬉しくて、これは作者からの、優子に対する最大のプレゼントでもあり、読者に対する最高のプレゼントでもありました。

第三楽章(仮)は、久美子が部長として、全国大会金賞を目指す物語になるでしょうから、それはそれで久美子と吹部のストレスを共有しながら、上を目指す、前に進む話になると思います。先は長いですが、次回作も楽しみしています。