ネタバレ全開につき、閲覧ご注意ください。
はじめに
湯浅政明監督はインタビューでテーマを直球で語る人だな、と思っています。「作品に全て込めたから作品を観ろ!」というタイプじゃなく、割と細かく丁寧に語ってくれる。本作は、いろいろと衝撃的な要素が多数あり、テーマについて掘り下げるために、ネット上で確認出来るインタビュー記事、レビュー記事を読み直した上での考察を少し整理します。
一回、ブログ記事を書いていますが、今回は別記事に分けます。
テーマ考察
反ナショナリズム
結論から言えば、本作は反ナショナリズムを貫く作品である。それは、リンク先の湯浅政明監督のインタビュー記事を観ても明らかである。
本作は、国家や民族を崇拝しないし、他国や他民族を否定しない。それが潔い。ドラマは残酷だが演出は超ドライ。感情的な盛り上げは無い。
本作が2020年東京オリンピックの開催直前を配信日に設定していたのは、ガンバレ!ニッポン的なナショナリズム喚起の意図があるのではないか?と勘ぐっていたのだが、全く逆のディレクションである事が驚きでもあった。
では、ガンバレ!ニッポンをどのように表現したのか?
個人が作る集団、先人の礎の積み重ねが作る未来の礎
それは、2028年の日本で、日本沈没という危機的状況を乗り越え生き延びてきた個人個人の横の繋がりや、先人と礎の上に積み重ねてゆく縦の繋がりを持って、集団(国家)のアイデンティティが作られ、それを尊く思い、自らも重ねていくというスタイルである。
単純に国民だから愛国心を持つ、というような従来のナショナリズムとは異なる次元で、日本選手(歩や剛)を応援する姿が描かれる。
スクラッチ&ビルドではない、他者や過去の全否定はしない
本作は、一度日本沈没し再生する。当初、私は、これに対してスクラッチビルドを連想した。スクラッチビルドは、現在あるモノを全て破壊し、綺麗に消し去って、その上に新しいモノを作る事である。よくある都市部の再開発計画である。
本作でも人間やコミュニティの嫌悪すべき描写がいくつも描かれる。世間的には悪として描かれるカルト教団。大麻などの違法行為とか実体は暴力団とか金塊巡り仲間割れとかも描くが、弱者救済だったり良い面も描かれる。何事も前と悪を表裏がある。それを一旦、日本沈没でスクラッチして浄化する、と考えられなくもない。
スクラッチする事で良い面も悪い面も消え去ってしまうがそれでいいのか? 本作の答えは否である。
本作は過去を肯定し、過去の人の礎を尊いモノとして、日本復興の断面を描く。金継ぎがクローズアップされたように、過去を消し去るのではなく、過去の人の礎を大切にする、という解釈である。やはり、基礎、土台は生きる上で必要不可欠なのだと描かれる。
ある意味、そこを一般的に言われるナショナリズムとして解釈しているように思う。
それは、国籍人種の横軸で否定をしない事と同様に、過去も未来の縦軸も肯定する事とも言える。
本作にはそうで無い人も皮肉めいて描かれるが、それは物語の薬味であり、本質的な所はそうしたテーマで貫かれている、と感じた。
参照情報
- 湯浅政明監督インタビュー記事
- 『日本沈没2020』湯浅政明監督が描く問い、容赦ないストーリーが誘う"おもしろさ"のその先へ | マイナビニュース
- “国ってなんだろう、生まれたところや、その人種とされるものに生まれたからどうなんだ、ということが改めて問い直されている。 国というところに普段は恩恵を受けながらも、「なんだこの国は!」と不満を言う。でも、自国籍のスポーツ選手が世界で活躍するとやっぱりうれしかったりする。国っていう塊ってなんだろうとか、自分が立っている地面ってなんだろう、それがなくなることによって、それがなんなのか確認したいという気持ちがありました。”
- 「日本沈没2020」震災の実体験とエンターテイメントの両立を目指して…湯浅政明監督が語る、アニメ化の意義【インタビュー】 | アニメ!アニメ!
- “その時点でキャラクターで気にした点は、ジェンダーにおける平等さと活躍具合、国籍などです。日本が沈没するとなったら、どうしても「日本は良かった」とか「日本人だから」「日本民族だから」という風な民族意識的な題目に流れがちです。そうではなく、現代の人たちのごく普通一般の視点、たまたま日本に生まれて日本人ということになっているけれども、普段自分がどういう地面に立っているのかも、日本人であるからとかもあまり意識していない、ニュートラルで周囲の些末な中で生きている人を中心に描こうと思いました。”
- “ひとつは、自分が立っている“ここ”は何か。日頃あまり気にしていませんが、多くの人たちが作ってきた結果のうえに今の自分が立っていて、その恩恵も享受しながら生きているという事。日常というものが、本当にいろいろなものの積み重ねでできあがっていること、善良な人たちの行いの積み重ねから恩恵を受けたり、邪悪な人たちの行いのつけが自分に回って来て被害を被ったりもする。日々努力して報われない事もあるけど、決して自分1人の力で立っている訳もない。そんな自分が立ってる礎を「感じられる」ストーリーになればいいなと思いました。 日本が沈没してしまうなんて怖ろしく怖い事ですが、また変わらず日が昇り、それを生き抜いた者達が、礎や礎となった人々の善行を糧に再び立ち上がっていく。そんな風に観てもらえるといいですけどね。”
- 宇多丸、「日本沈没2020」湯浅政明監督に生インタビュー。 ※音声
- 「日本沈没2020」の湯浅政明監督に生インタビュー! - シネマトゥデイ・ライブ - YouTube ※動画
- 『日本沈没2020』湯浅政明監督が描く問い、容赦ないストーリーが誘う"おもしろさ"のその先へ | マイナビニュース
- 牛尾憲輔音楽監督インタビュー記事
- ニメ『日本沈没2020』で描かれている「そこにある希望」湯浅政明との信頼関係で生まれる劇伴とは――音楽監督・牛尾憲輔インタビュー | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
- “ちょっと長い話になってしまうのですが、最初に湯浅さんが話してくれたのが、今回は「家族の絆の話である」であるとともに、「壊れてしまったものをもう一度再生する、何度も使う話である」ということでした。”
- ニメ『日本沈没2020』で描かれている「そこにある希望」湯浅政明との信頼関係で生まれる劇伴とは――音楽監督・牛尾憲輔インタビュー | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
- レビュー記事
- 『日本沈没2020』を観るべき4つの理由。日本社会の崩壊と再生に彩られた物語 - QJWeb クイックジャパンウェブ
- 湯浅政明監督が小松左京の名作をアニメ化『日本沈没2020』レビュー
- 日本沈没2020 - えいざつき ~映画ポエマーの戯言~)
- →個人的には、この記事の「反ナショナリズム」の記載に非常に納得しました。
おわりに
今回は情報整理の意味でまとめました。究極的なテーマは「国家とはなにか?」かと思いますが、本作のテーマは結局、
- 偏見だけで相手を否定しない。当人同士で見極める。(9話)
- 苦労を共にした横の繋がり、過去の人の礎、そうした拠り所は必要。そして未来に繋げる。(10話)
というところだったと思います。それは、従来の国家だからと盲目的に愛国心を持つのではなく、現場を生きる個人が考える、という現代的なメッセージだったと思います。
私個人はネトウヨだのパヨクだの、そうした議論はあまり関心がありません。こうした思想的な部分に触れてしまいそうな物語でありながら、思想的な薬味を大量に使っているのに、本質的には思想を全く語らないという作風が、今風というか器用な感じがしました。