たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

小林さんちのメイドラゴン

ネタバレ全開ですので、閲覧ご注意ください。

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はじめに

小林さんちのメイドラゴンは、2017年1月~4月に放送された京アニ制作のTVアニメ作品であり、私の超お気に入り作品である。

当初、あまり期待しておらず、京アニクオリティ作画で緩めの日常ギャグアニメが来たなあ、くらいな感覚で見ていたが、1話のラストに挟み込まれるトールの悪夢のシーンで、トールの過去に何があったのか気になり、その後の話で描かれるトールの恋愛ドラマの繊細な描写や、骨太なテーマにくぎ付けになり、最終回は涙なしに見れなかった。ターゲットは完全に大人だと思った。

その後、7.18の京アニ事件を経て、本作に関わった武本監督をはじめとする一部のスタッフも亡くなられてしまった。

コロナ禍の昨今、振り返るには良いタイミングであると思い、また、本作について深く書かれたブログが見当たらないため、この機会に私が思っているメイドラゴンについて、整理して残しておこうと思う。

下記、追加・修正しました。

  • 複雑な事情を抱えたトールと小林さんの恋愛ドラマ(2020.8.11修正)
  • 2期制作発表について(2020.8.11追加)

感想・考察

作風

本作はギャグを基本とした作品ではあるが、シリアスな人間ドラマもキッチリ描かれる。ギャグとシリアスは7:3くらいの割合でギャグの要素が多い。しかし、ラストの12話、13話はガチのシリアスで結ぶ。

ギャグは、人間とドラゴンという種族の違う者同士のコミュニケーションにおけるギャップを笑いのネタに昇華するのが基本。しかし、このギャップは、そのまま人間ドラマのテーマのコアでもある。

この辺りの、設定に対するキャラの感情の追い込みに、本作の生真面目さが伺え、好感が持てる。

スタッフ

監督は、武本康弘。1話、2話、3話、13話の絵コンテ、3話、7話、9話の脚本を担当していて、実質、武本監督のカラーの強い作品だと思う。

シリーズ構成は、山田由香。脚本は、山田由香(1話、2話、6話、11話、13話)、武本監督、西川昌志(4話、8話、10話、12話)、志茂文彦(5話)。

絵コンテ・演出は、京アニのそうそうたるメンバーが関わる。

(敬称略)

武本監督は、「氷菓」が代表作だと思うが、繊細な芝居が印象的である。本作はギャグをメインといるためテイスト違いに思うかもしれないが、骨太なテーマや繊細なトールの恋愛ドラマも含まれていて、作品としてのレベルは高く、京アニの良さをギュッと詰め込んだ印象。やはり武本監督の力量とバランス感覚が大きかったのだと思う。

テーマ・見所

大前提である、ドラゴンと人間の違い

本作は、あっちの世界のドラゴンと、こっちの世界の人間の異文化コミュニケーションが根底にあるため、その違いを把握する事が、本作の理解に必須である。

まず、あっちの世界のドラゴンの特徴を列挙する。

  • ドラゴンの特徴
    • 絶対的な強さ
    • 魔法
    • 高尚、プライドが高い
    • 長寿
    • 個人主義
    • 3勢力
      • 秩序を重んじる「調和勢」
      • 破壊と混沌を望む「混沌勢」
      • 組する事無く群れもしない「傍観勢」
    • 愛情表現は舐める

次に、ドラゴンと人間の対比。

項目 ドラゴン 人間
強さ 圧倒的に強力 脆弱
魔法 使える 使えない
活動スタイル 個人行動が多い チーム集団行動が多い
個性/異物 尊重(気にしない?) 排除
同調意識 無い 強い
問題に対するアプローチ 殲滅、排除 交渉による調整

ドラゴンは人間の事を、愚かで脆弱で下等な生き物と見ている。何なら殲滅してしまいたい。人間はドラゴンの事を良く知らないが、それでもその強大な力に恐怖を感じる。基本的には、互いに受け入れられない(受け入れにくい)存在である事には違いない。

トールは小林さんが命の恩人であるために特別大切な人として扱うが、それ以外の人間の事はやはり下等生物だと考えている。そんなトールやドラゴンたちが人間との同棲を始め、その中で様々なコメディやドラマが生まれる。

ドラゴンにとって人間の姿は窮屈であるが、それでも人間の姿でこっちの世界を生活する事は、とにもかくにも異世界には干渉してはイケないというルールがあるからである。異世界ではできるだけ目立たず干渉を最小限にして生活する必要がある。

ドラゴンは個人実力主義だが、人間はその非力さから群れを成して力を合わせて仕事をする。人間にとって当たり前のチームという概念はドラゴンには無いのだろう。そして、ドラゴンは人間の作り上げた文明を一瞬で破壊出来る。もはや、人間の営みに価値など感じないのだろう。

ざっくり、ドラゴンと人間の違い、主に価値観の違いはこんなところだと思う。

異種間コミュニケーション

本作は前述の通り、ドラゴンと人間の種族の違う生き物は共存できるのか? いかに共存するのか? というテーゼを持っている。

ドラゴンは、人間を見下し否定する。何なら殲滅したいと考えている。絶対的な他種族の否定である。

対する人間(特に日本人)は、他者と均一である事を望み、目立ったり理解不能だったりの異物を嫌い排除しようとする。

このテーゼに対し小林さんは、まずはドラゴンであるトールとカンナを受け入れ同居を始める。一方的な否定ではなく歩み寄りの姿勢があるならば、一緒にいる事から始めてゆく。友好だの信頼だのは、しばらく一緒に居て初めて実績として付いてくるモノであり、初めから信頼関係があるわけではない。逆に、そうしなければ、他者との友好関係や信頼関係を築く事も出来ないハズであり、そこに飛び込む勇気も必要である。

しかも、小林さんはSEという職業柄、コミュニティ内で対立する意見に対し、問題を明確化し、当事者同士の要求を明確にし、折衷案で妥協する、というプロセスを難なくこなす。問題を収束する能力に長けている。こうした人生経験が上記の行動の発想にも役立っていると思う。

本作では、たまたまドラゴンと人間だが、両者の関係は、国籍の違いだったり、宗教の違いだったり、所属するコミュニティの違いだったり、もっと言えば、嫁姑だったり、いざこざが発生し易い全ての線引きされる人間同士にも当てはめられる、と思う。そうした普遍的な問題意識が本作の根底にあると思う。

ぶっちゃけ、Netflixは本作を世界配信すべきではないか、とさえ思う。

果たして、小林さんは、信頼関係が無いところからトールとカンナとの同居を始めたが、約一年の同居生活を経て、信頼関係を互いに築くことが出来た。そこが本作のテーマだと思う。

複雑な事情を抱えたトールと小林さんの恋愛ドラマ(2020.8.11修正)

本作は「種族の壁」を前にして「異種族への愛」をいかに貫くか?という、ある種、ロミオとジュリエットや人魚姫を想像させる恋愛ドラマでもあったと思う。

トールの燃料は小林さんへの恋愛感情。それゆえに、トールが思い悩んで見せる表情、恋愛に輝く表情が、狂暴なドラゴンとは裏腹な、恋する乙女なトールを見事な作画と演出で描き出す。

また、その恋愛の相手の小林さんは、普段からクールで包容力がある人柄ではあるが、献身的な愛を注いても、小林さんからはその愛に対する返事はなかなか貰えないという、片想い状態とも言える時間が積み重なってゆく。

それは、大前提として、同居が始まっても恋人という関係ではなく、主人とメイドというビジネスライクな関係である事、そして、ゼロスタートから時間をかけて信頼や絆を経て作り上げて行くもの(=お試し期間)という小林さんの2話の台詞も効いてくる。

果たして、小林さんは異種族の娘トールの恋愛に対し、どのような回答を返すのか?という状況が続く。

この部分は明確に好きだの愛してるだのの言葉は使われず、意識的に幅を持たせて解釈できる余地を残して作っていると思われる。

ともかく、私はトールが能天気なだけじゃなく、そうしたアンニュイな表情も見せ、思い悩む恋愛感情もきちんと描いていたからこそ、トールが非常に魅力的に感じた。

個人的には、小林さんからトールへの愛の返事はあったものと思いたい。片想いから両想いへの移行は、クリスマスの日にプレゼントとして贈ったマフラーが、小林さんからトールへの愛の返事であり、婚約指輪的なモノで、終焉帝に私のモノだ!と言い放ったのは、プロポーズだったと解釈している。(イベントの順番が逆ですが)

勿論、これは個人的な解釈で有り、公式には結婚も、百合恋人も存在しないのかも知れない。しかし、それだとトールの報われない恋物語が哀しすぎる、とも思う。なので、ここは視聴者に解釈を委ねている所だと思う。

(疑似)家族のススメ

本作は、異種間コミュニケーションという大きなテーマとは別に、もっと小さな単位の、家庭内コミュニケーションもテーマにしていると思う。

小林さんは女性だが、ぶっちゃけ、面倒くさがりで、何となく縁も無く結婚できずにいる、独身オタク男性のサラリーマン(社畜)に置き換えらると考えている。

愛し尽くしてくれる嫁のトール。目に入れても痛くない娘のカンナ。

そんな、独身男性に、嫁さんや女の子との生活を疑似体験させ、家族って良いな、と思わせる。ある意味、家族賛歌の物語だったと思う。

最終的に小林さんは、トールの父親にトールは私のモノだ!と略奪まがいのプロポーズをし、トールとカンナを実家の両親に面会させる。これはもう、出来ちゃった婚で入籍して、両親に事後報告するようなモノである。

従って本作は、小林さんが疑似家庭を経て、トールにプロポーズし、きちんと家庭を築く物語とも言える。だからこそ、そうした独身男性にも強烈に刺さる内容だったのではないか?と想像している。

一年を通して見る日本の行事

本作は、こまめに日本の行事や生活を挟み込んで描いた。

例えば、鯉のぼり、節分、梅雨、海水浴、夏コミ、大晦日、正月、年越しの初詣と振袖、こたつ。

例えば、小学校の集団登校、入学準備、授業風景、給食、運動会の父兄参加とお弁当。

例えば、SEの仕事風景、デスマ、パワハラ、居酒屋、通勤電車。

こうした、日常や生活に密着した描写が丁寧に描かれる事で、作品のリアリティが強固なものになってゆくのと同時に、ちょっとした生の日本生活紹介にもなっていた。海外の視聴者には、それがまたウケ受けていたのかも知れない。

小林さんの物語

他人と調停しながら生きる、大人の小林さん

小林さんは、地獄巡システムエンジニアリングでSEとして働く25歳独身OL。極度のメイドマニア。職場では温厚で頼られる存在であり、日々激務に追われ疲労困憊。腰痛持ち。

小林さんは、常日頃クールな存在であり、他人に深く干渉しない。SEという仕事柄からか、問題を調整しながら解決するというマネジメントが得意。業務多忙という事もあるだろうが、おそらく基本的に独りが好きで、たまにマニアックな話を発散できる滝谷の様な存在が居れば良かったのだろう。

しかし、1話でトールが転がり込んでくる。トールの話を聞き、申し訳ないが一緒に暮らせないと一旦断るも、トールの涙を見てトールを追い返すのを思いとどまる。表向きクールだが、根っこの部分での人情は厚い。トールのやる気を削がずに巧みにトールをコントロールする(ちょろゴン)。そうした人間(部下)の扱いに長けている。

2話でトールが商店街で大捕物をしたとき、周囲から白い目で見られそうな不安な気持ちを察して、小林さんはトールの手を握って歩く。カンナを受け入れる時に、カンナを説得して頭に手を乗せる。相手がドラゴンであるがゆえに、言葉よりも、こうしたボディランゲージによるコミュニケーションで安心感を与える、という現代人が忘れがちな仕草も見せる。

3話では、引っ越し先の隣人たちの騒音問題を話し合いで解決する。

2話でカンナも家に招き入れるが、信用はいきなりできるわけじゃなく、一緒に生活を続けてゆくうちに信頼関係が築けるのだと説得するシーンがある(同様の台詞が13話でも使われる)。この台詞は、小林さんの他人との距離感を上手く表現している。つまり、信用たる人間とだけ一緒に生きるのではなく、信用できない人間とも落としどころを見つけて調和を保ちつつ一緒に生きて行くのが人間社会なのである。

その点で、現代のSNSに見られるような一方的なキレ方では物事は解決せず停滞する、という事をこれまでの人生で学び実践してきたと言える。大人になるという事が、こういう事を言うのであれば、小林さんは間違いなく大人である。

その意味で、小林さんは、世知辛い社会を生きる社会人からも、頼られ憧れられるヒーロー的存在である。

トールやカンナから元気をもらう小林さん

新居に引っ越し、トールが家事をしてくれたり、ダイニングの賑わいを得た事で、小林さんは徐々に生き生きしてくる。その事で仕事も順調に回る。

7話で海水浴に来た時も、付き合いで来たとは言うが、そこを無理やり連れてきて気分転換させている事の意味は大きいように思う。面倒くさがりの小林さんが、運動会や初詣にトールやカンナや仲間達と遊びに行く。小林さんは周囲に色々なモノを与えているが、小林さんもまた、トールやカンナから与えられているのである。

クールで照れ屋の小林さん

小林さんは気遣いが出来る人であるが、人と至近距離で生きる事を自然と避けて来た。独りを気楽と思ってきた。だから、内面をさらして人を好きと言ったりする事に照れがあり、茶化したりして、ストレートに相手を喜ばす事が出来ない面があった、と思う。

それが、今度こそオムライス美味しかったと、ちゃんと伝えたいという気持ちに繋がっているのだと思う。(11話)

もっと言うなら、トールが小林さんを好きな気持ちは薄々気付いていたと思うが、小林さんはその答えを保留してきた、と私は考えている。

同棲生活を始めた当初は、トールと一緒に居ても直接向き合わずに会話しているシーンがちょくちょくある。1話ラストの添い寝や、3話の休日の午後のうたた寝のシーン。トールは内面に関わる吐露を背中越しに聞き、優しい言葉をかける。これは、2話の台詞でいうところの、信頼はこれから出来て行く、という状況であり、小林さんとしても慎重になっている時期だから、ではある。

しかし、そうこうしているうちに、トールと弁当対決をしてムキになったり、トールを徐々に信じられる様になってゆく。1年かけて、ゆっくりと距離を縮めていった形である。

小林さんがそこをある程度ブレークしたのが、10話のクリスマスプレゼントのマフラーだったのだと思う。ただ、それでも、照れ隠しで、トールの事を好いている、とは言わないのが小林さんである。

失って初めて分かるトールの大切さと、終焉帝との対決

13話で、小林さんは突然にトールを失い、トールから与えられていたモノの大きさに気付く。

そして数日後、あちらの世界から逃げ戻って来たトールと、それを追って来た父親。

父親のロジックは明快である。誰も異世界に干渉してはならない。トールの気持ちは関係無い。それが世界のルールである。対して、トールは小林さんと一緒に居たいという気持ちである。父親は、人間と共に暮らしていても、いつか必ず破綻するから傷付く前に戻ってこい、と付け加える。一瞬、気持ちが揺らぐトール。

この時点で、父親のロジックが卑怯だと思いつつも、小林さんは口出しを差し控えている。トールの意思を尊重すべきだと。そして、トールの「嫌です」の台詞。これを受けて小林さんが、「あの…」と言った瞬間に吹き飛ばされる眼鏡。父親の威嚇。

父親の、世界の秩序を守るべきドラゴンが、例外を許せば他のドラゴンも次々現れこの世界を侵略するかもしれない、という問いに、小林さんは、きっかけのこじつけと責任のすり替えと返す。小林さんのブレないロジック。もう、気持ちの問題だけに焦点を戻そうとしている。

そして、なぜそこまでトールに拘るのか?トールの事が好きなのか?問いに、トールっていい娘じゃん。私のメイドを持っていくな!これは私のだ!と言い放ち、父親を激怒させる。常に物腰が柔らかく、自分の気持ちを主張しない小林さんが激昂するからこそ、迫力が凄い。

その後、トールは嬉しさの涙を浮かべながらも、小林さんを守るために父親と異空間で決着を着けにゆく。どちらかが倒れるまで決着が付かない親子喧嘩。そこに、小林さんは割り込む。

  • ドラゴンと人間は分かり合える?
    • 否。違いを知る事は単なるスタート。違いを確認しながら、近づいたり離れたりを繰り返していれば、尊敬や信頼や絆も出来る。
  • 共に暮らす事が出来る? 
    • 共に暮らす事はとっくに出来ている。問題は、ずっと続けられると信じられるか否か? 
      • 私は信じた。父親のあんたも、娘を信じてみせろよ!

これは、2話で小林さんがカンナに言った台詞に重なる。ずっと続けられると信じた、の部分は、13話までの同棲生活を経て導き出された小林さんのアンサーを付け加えた形である。その言葉を父親にぶつけた。

父親は、人間など認めない、バカ娘が、と言いながらも引き下がる。(正直、これで引き下がってくれるのか?とも思ったが、)親子の絆という観点で小林さんの言葉がよっぽど響いたのだろう。

小林さんのロジックの気持ちいところは、ルールを言い訳に、気持ちの問題をうやむやにしない所だと思う。

トールとカンナを実家に連れて行く小林さん

父親が去った後、飛んで抱きつくトールを抱き返さない小林さん。ごめんね、ワガママ言ってという台詞。

この時点で、既にノーマルモードの小林さんのテンションに戻っている。トールは私のモノだ!に対して謝罪しているのだと思うが、勢いで言ってしまった台詞でも、そこに嘘は無いし、トールは理解していて守ってくれた小林さんを凄く感謝している。

後日、実家にトールとカンナを連れて行く小林さん。事実上の結婚前提お付き合い宣言(?)で終わる。あまり百合百合する事もなく、綺麗な終わりだと思う。この上品なディレクションは上出来。

トールの物語

孤高の戦士トールの意識を変えた盗賊の少女

時系列で言えば、まず、12話の盗賊の少女に触れなければならない。

あっちの世界で混沌勢のドラゴンとして破壊の限りを尽くしてきた戦士としてのトール。圧倒的強さを持ち、自由に世界を飛び回る事が出来る存在のハズだった。

しかし、偶然、廃墟で出会った盗賊の少女と関わりトールの意識が変わる。

この世を自由に生きられるドラゴンってどんな気持ち? 私は自由を手にしたらメイドになりたい。(自ら隷属する事になるとしても)私が選ぶの。自由に選ぶの。

この会話の中で、トールは自分自身が何一つ選択権を持たない不自由な存在である事を察してしまう。過去一度も選択する事が無かった事に気付いてしまう。

この気付きは非常に重要なポイントである。普通に考えると、いくら命の恩人とは言え、下等な人間に召し使える事を許容する気持ちが無ければ、本作は成立しない。メイドになる、その原点の気持ちをキッチリ描いているところが見事だと思う。

命の恩人小林さんとの出会い

トールは神々や人間との戦いの中で、神の放った剣で致命傷を受け、次元を越えてこっちの世界の人里離れた山の中に逃げ込んできた。瀕死だった。(1話ラストの悪夢)

そこに酔っ払いの人間が来て神の剣を抜き、一命を取り留めた。それが小林さんであった。例え下等な人間であっても命の恩人には礼節を尽くす習わし。盃を酌み交わし意気投合する。行く当てが無ければ、ウチに来てメイドになれ、と頼まれる。独りぼっちのトールは、嬉しくて泣いて快諾する。(12話小林さんの夢の中の回想)

そして、翌朝、押し掛け女房的に小林さんのマンションを訪れる。メイドとして住まわせてもらう約束をしたと切り出すが、記憶に無いと断られ追い返されそうになる。干渉が許されないこっちの世界で身寄りもなく独り放り出された形。結局、トールの涙を見て小林さんが同居を認めて事なきを得る。(1話冒頭)

ここから、トール自身が選択する、異世界で人間のメイドとしてのトールの第二の人生が始まる。

トールの心境を考えると、下等な人間に合わせての生活は、ペットの犬猫に変身して生活するようなもので、苦労しか想像できない。それでも、他者と関りを持ちながら生きるという新しい価値観に、一点に希望を見出しての捨て身の行動だったのだろう。

急速にメイドとして馴染んでゆくトール

メイドというのは下僕ではなく仕事である。メイドが主人に召し使えるのも仕事であり、それに対する評価のフィードバックが無ければ働き甲斐もない。

その点、小林さんはメイドの在り方をトールに示し、出来ていない事は叱り、出来ている事は褒めるという、ある意味、的確にペットの躾けをこなし、トールにはメイドの仕事としての不安は余り感じさせない対応をしていたと思う。それでも、服を舐めたり、唾液で洗濯したり、尻尾肉を食卓に出したりするなどの習慣の違いについては、繰り返し叱られる事になる。

また、インターネットの存在を知り、自力でこっちの世界の情報を吸収し、あっという間にこっちの世界に馴染んでゆく。

異業の者としてのトールの不安と迷い

新居に引っ越し直後の休日の昼下がり、トールは小林さんに、私もうるさいですか? 迷惑ですか? と問いかける。小林さんは、こういう生活もありかな、と否定はしない。(3話)

ファフニールの新居を探している時、こっちの世界の人間にかぶれすぎている。あっちの世界に戻ったら人間を殺せるのか? どうせ人間は100年もたたずにすぐ死ぬのだから、肩入れし過ぎるな。とファフニールから警告される。しかし、トールはあっちの世界には戻らない。すぐ死ぬとしても今を大切にしたい、死に別れて悲しみが訪れたとしてもそれを後悔とは言わないと思う、と返す。(5話)

TV番組で超能力を見て超能力に異常な感心を示す。人間には負けたくないとトールは言うが、小林さんは人間の分からない部分にリーチしたい気持ちがそうさせると見ていた。トールはトールに出来る事をすれば良いと言われて、悲しい表情をするトール。(5話)

このシーンは、おそらく小林さんと添い遂げるために人間になりたいという深層心理と、それは叶わない事を再認識してしまった距離感の寂しさを描いたのではないかと思う。

海水浴場で、小林さんの両親の話が出て時に、自分の親に合わせたいが、合わせたら人間で有る小林さんは殺されてしまうな、と想像する。なぜ、普通の人間である小林さんは、ドラゴンと共生できるのか?その不思議について考えてしまうトール。(7話)

コミケ会場で、コミケ参加者を支える強大な力が、今ここに居る時間を大切にしたい気持ちと分かり、トール自身も小林さんを好きな今の気持ちを大切にしたいと、納得する。(7話)

7話では海水浴場でも、コミケ会場でも、トールのホームシックがキーワードになっていたと思う。両親の話、ドラゴンの姿で羽を伸ばしたい気持ち、そこを汲み取ってケアする小林さんの優しさが伺える。

カンナの弁当の件で小林さんと対決する事になるが、ルコアから小林さんと喧嘩するなんて珍しいと言われる。トールの居ない所で小林さんは、メイドと主人の関係だけど友だち関係でも良い、二人は対等だと思ってる、と言う。(8話)

エルマが小林さんの会社のOLになり、小林さんとエルマが近づいた事で嫉妬する。(8話)

8話では、今までも片鱗はあったが、メイドという立場を越えて小林さんが好きな気持ちが先行して行動してしまう戸惑いを見せた。

整理すると、メイドと主人の関係で始まったトールと小林さんではあるが、トールは内心から小林さんの事が好きであり、共に暮らしてゆけばゆくほど、好きの気持ちが肥大化してゆく。小林さんは優しいが主人としての優しさである。しかも小林さんが照れ屋でポーカーフェイスなので、トールを一個人として愛してくれているか見せない。小林さんに愛されたい。メイドという設定がミソなのである。

トールは明るく元気な表の面とは裏腹に、小林さんに近づきたいのに近づき切れない、という切ない悩みと葛藤を常に持っていた。そこがトールの魅力、というか本作のドラマの最大の魅力になっていたと思う。

終焉帝(父親)との親子喧嘩

13話で終焉帝(父親)が有無を言わさずトールをあっちの世界に連れ戻した。

そして、数日後、トールは小林さんのマンションの玄関に戻って来た。

この間、あっちの世界でトールは世界のルールに反しても、自分の選択と小林さんを好きな気持ちを大切にする事を信じて、タイミングを見て逃げて来たというところだろう。小林さんの顔を見て、てへっ、と弱々しい表情をするトールが切ない。

小林さんがトールは私のだ!というシーンで涙ぐむトール。親子喧嘩のために別の場所に移動するにあたり、小林さんに一回にっこり笑ってその場を立ち去るトール。「有難う、嬉しかった」であろう別れの台詞を省いた演出。

また、父親のそんな事(トールが良い娘である事)は分かっておる、の台詞にトールが赤面するカットを挟んでくるところが上手い。親だからこそ子供を心配する気持ちが有っての親子喧嘩である事を一瞬で理解させる演出が憎い。

最後は、フルパワーでぶつかる親子喧嘩に小林さんが割り込み、トールを信用しろ!の決め台詞で父親が元の世界に帰ってくれた。

トールはあっちの世界では2度死んだ。そして2回とも小林さんがトールを救った。好きとかの感情を超えた感謝の気持ち。小林さんに飛びつき、何をあげればいいですか?全部、全部あげます、の台詞でまた泣ける。

エピローグは、小林さんとの出会いを絶対に後悔しない、ただ今この時間を大切に…、とトールのモノローグで結ぶ。これは、5話の後悔しないと思う、から、13話までの経験を経て確証を持って、絶対に後悔しない、と断言できるに至った変化である。

カンナの物語

異質の中で共に生きる、を選ぶカンナ

2話でカンナは、いたずらの結果、あっちの世界から締め出されてこっちの世界に来た。親の怒りが静まるまでは戻れない。

事情を知った小林さんに、行く当てが無いならウチに来ないか?と言われ、最初は人間は信じられないと反発する。しかし、最初は信じられなくても一緒に暮らすうちに信用はできてくる、友達になろうとは言わない、一緒に居よう、と頭を撫でられながら諭される。

小学校に行く、を選ぶカンナ

4話でカンナは、小学生の集団登校を見て、自分も小学校に行きたいと言う。期待に胸を膨らませながら文房具を買い揃えてゆくカンナ。途中、学校指定の上履きが統一されているのは、男女、人種などの差異を無くすためであり、人間は異物を好まず時に異物は排除される事もある、と小林さんが話してカンナを不用意に不安がらせてしまう。

小学校デビューは、無事、好意を持って迎えられたかに見えたが、放課後、才川リコに目立ちすぎると因縁を付けられるも、ウソ泣きでその場を解決した。

カンナは他者に飢えている。友だちが欲しい気持ちが先行している。だから、敢えていじめられるリスクを承知で、人間の集団の中に身を置いた、という事だと思う。それは、2話の小林さんの言葉に通じる。怖がっているより、まず一緒に行動する、を始める。カンナはそのスタートの一歩を踏み出した。

才川と親友になるカンナ

とりあえず、カンナの立ち位置はスポーツも勉強も出来る人気者として定着してゆく。

友だちの中でも才川は、カンナの事が大好きで、カンナと才川は一緒に遊ぶようになり、急接近する。要するに、親友が出来た形である。

数話かけて、カンナと才川の距離は徐々に縮まってゆくように描かれていたが、才川のカンナへの憧れが強すぎて、少し肌が接触しただけで、沸騰して昇天する、というギャグ描写として活用された。

運動会を優勝に導くカンナ

9話の運動会というイベントは、小林さんという家族、クラスという仲間、両方と深く関わる特別なイベントであり、その事をとても楽しみにしていた。しかし、小林さんは仕事で来れないと断られその事で拗ねてしまう。他の子は、親が来てくれるのに、自分だけ親が来れない、というのが嫌なのである。

才川からは、親が来なくても、クラスで一致団結して勝利を勝ち取る、という楽しみもあるとたしなめられる。カンナは小林さんの仕事を覗き見して、納得して、来なくいいと小林さんに言う。その我慢の仕方がいじらしい。結局、小林さんは、そんなカンナの姿を見て、運動会に行くべきと考えが変わり、深夜残業などで仕事をやりくりして、運動会に参加する事にする。前日にその事を知り、大喜びするカンナ。

この集団で成果を出す醍醐味は、単独行動のドラゴンには無く、人間特有のモノである。運動会に向け、皆で練習を重ねてこその集団競技であり、運動会で勝つ。それは、カンナが人間社会に馴染んで生活する事の、集大成だったとも言える。

結果、カンナの3年2組は、3年生の中で優勝する。

カンナの物語は基本的に、運動会でほぼ閉じている。小林さんとも信頼関係にあり、小学校という集団の中でも溶け込んだ存在になっていた、という事だと思う。

サブタイトルリスト

最後になるが、本作のシリーズの流れを俯瞰して見るためのサブタイトルリストを下記に示す。OVAとして14話が存在するが、ここでは割愛させていただく。

見てわかる通り、本作は小林さんとトールが出会い、過ごした1年の物語である。

サブタイトル イベント
1話 史上最強のメイド、トール!(まあ、ドラゴンですから) 冬。トール同棲開始。滝谷と居酒屋。添い寝で悪夢。
2話 第二のドラゴン、カンナ!(ネタバレ全開ですね) 商店街の人気者トール。カンナ同棲開始。
3話 新生活、はじまる!(もちろんうまくいきません) 引っ越し。4月。引っ越しパーティ。
4話 カンナ、学校に行く!(その必要はないんですが) カンナ入学準備。登校開始。殺人ドッチボール。
5話 トールの社会勉強!(本人は出来ているつもりです) 5月。トール会社見学。ファフニール同棲開始。超能力TV番組。
6話 お宅訪問!(してないお宅もあります) 6月。才川家訪問。ルコア同棲開始。ファフニール同棲順調。
7話 夏の定番!(ぶっちゃけテコ入れ回ですね) 8月。海水浴。コミケ
8話 新たなるドラゴン、エルマ!(やっと出てきましたか) 9月。弁当料理対決。エルマ登場。エルマ出社。トール嫉妬。
9話 運動会!(ひねりも何もないですね) 10月。運動会。小林トール父兄参加。学年優勝。
10話 劇団ドラゴン、オンステージ!(劇団名あったんですね) 12月。劇団ドラゴン。X'masプレゼント。
11話 年末年始!(コミケネタはありません) 年末年始。こたつ。おせち料理作り。初詣。特別なオムライス。
12話 トールと小林、感動の出会い!(自分でハードル上げてますね) 2月。言いそびれるトールへの感謝。トールと小林の出会い。盗賊の少女。
13話 終焉帝、来る!(気がつけば最終回です) 父親の終焉帝。トール不在。トール父娘喧嘩。親子の信頼。終焉帝撤収。小林帰省。

2期制作発表について(2020.8.11追加)

2020年8月10日、原作漫画単行本10巻の発売日に合わせて、2021年京アニ制作で2期がOAされる事が公式に発表された。

もともと2期制作は発表されていたが、その後、7.18京アニ事件があり、白紙に戻ったモノと諦めていた。

正直、武本監督以外の方が監督しても、1期のメイドラゴンとは違うモノになってしまうかもしれない。出来れば、TVアニメの京アニ復帰作品は別の新規の作品でやった方がよいのではないか?という気持ちが強かった。

しかし、2期制作が公式に発表された以上、出来たものを額面通りに受け取るしか私には出来ないし、また、他の監督の方のメイドラゴンの新しい解釈が見られるのであれば、それを素直に受け止めて行こうと思う。

京アニファンとして、複雑な心境ではあるが、これからも京アニ作品を観続けて行きたい。

おわりに

私の好きなメイドラゴンについて、いつかブログを書こうと思っていて、やっとそれを整理する事ができた。

今回、ブログを書くにあたり何度か見直したが、本作は京アニの良さが凝縮された作品だと改めて感じた。

文章が長くなり過ぎましたが、長文お読みくださった方、ありがとうございます。