たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

ゆるキャン△

ネタバレ全開につき閲覧注意ください。

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はじめに

ゆるキャン△』は、2018年1月~3月に放送されたアニメ作品。晩秋から冬にかけてキャンプをする女子高生たちの交流を描く。

私は、放送当時は観ておらず、2020年8月に3日くらいかけて一気見したのだが、非常に鑑賞後の余韻が気持ちの良い作品で、その辺りの理由を考え整理したので、その事をブログにまとめる。

ちなみに、私は「へやキャン△」は未履修。なお、2021年1月からは、2期放送が予定されている。

公式HP

感想・考察

「キャンプ」と「旅」の魅力を余すことなく描く

日常から切り離された非日常の時間を過ごす

キャンプは大自然の中でテントを張って野営する。まずは、キャンプの特徴を列挙するとこんな感じか。

  • 日常の人間関係の煩わしさから、一時的に解放される。
  • 日常の生活空間から、一時的に解放される。
    • 日常=便利で快適 → キャンプ=不便で不快という側面

現代はスマホの存在により、完全に遮断状態されるわけではないが、それでも基本的には非日常空間で邪魔は殆ど入らない。(逆に、本作ではスマホによる緩めのコミュニケーションを積極的に楽しみむ描写がされていた)

キャンプ生活は日常生活に比べて、不便で不快である。日常生活は電気、ガス、下水などのインフラが整備され、住宅という守られた空間があり、空調やテレビなどの設備も充実しており、ゲームやインターネットなどの娯楽にも溢れている。しかし、そうしたモノの恩恵を受けない空間で生活する事は、その場で必要な最低限の事をコンパクトに自力で行う必要がある。

住宅はテントに、暖房は焚火やカイロに、布団はシュラフに。こうした道具も必要だが、キャンプ道具を使うという事が、日常を忘れ、非日常を過ごす演出となる。

こうした非日常の何が嬉しいのか? おそらく、日常で受けるストレスや不自由を、キャンプという非日常で自由を味わい、一旦リセットしてまた日常に戻るというガス抜き的な意味があるのではないかと思う。

非日常の絶景の贅沢(=美麗で凝った背景)

キャンプのご褒美の一つとして、自然の中で過ごすからこそ見られる絶景がある。

本作では、夜や明け方の富士山だったり、山から見下ろす街の夜景だったり、見事な紅葉だったり。

  • 絶景
    • 1話:本栖湖キャンプ場の夜の富士山
    • 2話、3話:麓キャンプ場の昼、夕、夜、早朝の富士山
    • 5話:高ボッチ高原キャンプ場の夜景
    • 5話:イーストウッドキャンプ場の夜景
    • 6話:四尾連湖キャンプ場の紅葉
    • 10話:陣馬山キャンプ場の夜景
    • 11話、12話:朝霧高原キャンプ場の高原と富士山

その場所に居て、ゆっくり時間を過ごすからこそ、綺麗な一瞬に出会える。

本作では、そうした絶景が手描きの背景で見事に再現されていた。しかも、絶景だけでなく、キャンプ場の小屋、炊事場、道、そうしたキャンプ場の雰囲気も、絶景同様に手抜きなく描く。背景リッチなアニメだったと思う。

非日常のキャンプ飯の贅沢

キャンプのもう一つの醍醐味として、自炊によるキャンプ飯や、旅先のグルメがある。

  • キャンプ飯
    • 1話:カレーカップ麵(リン)
    • 3話:餃子鍋(なでしこ)
    • 5話:スープパスタ(リン)
    • 5話:鍋煮込みカレー(なでしこ)
    • 6話:炭火串焼き+タラ鍋(リン、なでしこ)
    • 6話:ジャンバラヤ(鳥羽先生妹)
    • 10話:ブタまんホットサンド(リン)
    • 11話:すき焼き+トマトすき焼き(あおい)
    • 12話:焼き鮭牛肉ごはん+野菜納豆味噌汁(なでしこ、リン)
  • 家飯
  • 旅先グルメ
    • 4話:笛吹公園のカフェのソフトクリーム
    • 4話:霧ヶ峰のカフェのボルシチセット
    • 5話:笛吹公園の温泉卵
    • 6話:四尾連湖のカフェのホットチャイ
    • 7話:みのぶまんじゅう
    • 9話:駒ヶ根温泉のミニソースカツ丼

キャンプ飯は、自ら自炊する事で、体感美味さが3割増しとなる。別に高級食材など無くても良い。キャンプ場という制約の中で、事前準備や廃棄物を減らす工夫も楽しい。そうした楽しさを簡易レシピや食事時の仕草や笑顔込みでキッチリ描く。食べる時には必ず、美味しいという台詞が入る。そうした事を念入りに描いた飯テロアニメでもあった。

最適化されていないツーリングの贅沢

本作は、キャンプだけでなくツーリングの楽しさも描く。

本作でツーリングを担当するのはリンである。年中、バイクツーリングが趣味の祖父の血を引き継ぎ、孤独の中に身を置く事が好きなリンに向いているとも言える。

当初、リンは自転車で自宅周辺のキャンプ場に出かけていたが、4話で念願の原付と運転免許証を手に入れ、150kmのツーリングを行う。早朝や日没後の移動もある。季節は冬で、原付での長旅は寒く辛い。

キャンプが非日常であるなら、ツーリングも非日常である。TVやインターネットの様なノイズは無く、ただひたすらに運転する。時折、家族や友人の事が脳裏をよぎるが、深く思考を巡らせる事もできず、ぼんやり考えては、また運転に集中する。

9話で南アルプスをショートカットするルートを計画するが、マイカー規制により通行できず折り返す。道中にある温泉でうたた寝して寝過ごす。理想通りに、スマートにツーリング出来るわけでなくアクシデントも経験する。

しかし、本作はアクシデントを悪とは描かない。南アルプス越えできず折り返した夜叉神峠の登山口で、見知らぬ登山客との交流も有り、ほうじ茶を貰う。そのほうじ茶は夜食と一緒に頂く。そうした想定外の出来事も旅の味わいとなる。

会社や学校で効率的な活動を求められる日常に対し、最適化されていない行動の方が、時に豊かな人生を送れる。そういった事も本作では描いていたと思う。

冬季キャンプという着目点

私は、本作を知るまで、キャンプは夏にグループでするものと思い込んでいた素人である。

冬であっても必要な装備さえあれば、寒さの中でも寝泊まりできる。冬の方がキャンプ客が少なく自然を満喫できる。虫も居ない。空気が澄んでいて景色が綺麗。

もこもこに着ぶくれた女子高生を描き、無駄な色気はゼロ(入浴というサービスシーンは有ったが)。景色も霞が無く、静かで空気の張り詰めた風景を綺麗に魅せられる。キャンプ客を描かなくてもリアリティを保てる。などなど、アニメーション的にもメリットが多いと感じる。

何より、キャンプが持つ孤独感は、冬キャンでこそ際立つ。

なので、女子高生の冬キャンをテーマに掲げた事は、非常に的を得た設定なのだと感じた。

キャンプ用品選定、購入における葛藤と妥協

地獄もキャンプ場も金次第で楽に生きられるのがこの世の中ではあるが、本作の主人公は女子高生なので、貧乏キャンプにならざるを得ない。バイトで稼いだお金で大切なキャンプ道具を買う。時に安物買いの銭失いとなってしまう事もあるが、それもまた経験。

キャンプ場の利用料の1,000円とか、燃料のまきが500円とか、道中のランチが1,200円とか金銭は中々シビアではあるが、制約の中で主人公たちは楽しく行動する。

また、キャンプ用品をカタログや、キャンプ用品店で触れて、知識と物欲を増やしてゆくという楽しみも描かれる。

11話では、キャンプ初参加の斉藤さんが親に45,000円の冬用シュラフを購入してもらい、野クルの連中が羨望の眼差しで見たりする。リンの使いこまれたキャンプ道具を興味深く眺める。こうした他人の装備を見るのも楽しい。

綺麗ごと言うなら、値段じゃなくてハートなのである。こうした入門者視点でのキャンプを描く所に好感が持てる。

物語・テーマ

ある意味、非ドラマッチックで物語希薄なシリーズ構成

誤解を恐れずに言うなら、本作の良さは、物語やドラマが淡々としているところにある。

大会でライバルと戦い勝ちぬけるとか、何か大きな目標を達成するとか、組織や個人の問題を解決するとか、そうした従来のドラマチックな展開やカタルシスはない。

本作が描くのは、ずばり、キャンプや旅の疑似体験であり、キャンプ地やツーリング途中の出来事である。寄り道的な一見不要とも思えるイベントも含めて体験であり、それは楽しかったり、しんどかったり、寒かったり、美味しかったり、大小は有れど様々な感情を巻き起こす。その積み重ねを描き、その先の絶景を見て美しすぎて感動したり、綺麗と思う気持ちを伝え合ったり共有したりする喜びがある。

その意味で、感動的なシーンはあるが、そのために目の前の絶景を絵でキチンと描いて再現し、映像を通して視聴者に感動を伝える。背景は真っ向勝負で風景を切り取り、そこに手抜きは無い。余計な台詞も、これ見よがしの演出も不要である。

ドラマは旅の中にある。だから、人間ドラマの部分は最小限で良い。その代わり、「キャンプ」「旅」については、逃げる事無く丁寧に描く。そうしたディレクションだったのだと思う。

他者否定の無い大人な世界観

本作は、なでしことリンのダブル主人公の形を取っていたと思う。そして、メイン5人の女子高生は、大きく二つのグループに分かれていたと思う。

  • 千明+あおい+なでしこ=野クル(野外活動サークル)メンバー
  • リン+斉藤=友人(図書室、スマホで雑談)

ただし、なでしことリンは1話で運命的な出会いをし、互いに惹かれ合う関係にある。

  • なでしこ+リン=1話で運命的な出会い、互いに引力で惹かれ合う

この関係の中で、リンは野クルの千明たちの賑やかさが苦手なため、野クルもリンも適度な距離を取っている。また、斉藤は寒がりで面倒くさがりな面もあり、キャンプには参加せず傍観している。

本作では、リンのようなソロキャン派も、野クルのようなグルキャン派も、互いを否定する事は無い。スタイルの差があっても、多少話しかけにくいだけで、互いを尊重しており、無理強いはしない。

それぞれのスタイルをそれぞれに楽しむだけである。そこが大人で心地よい。

5人一緒という、クリスマスキャンプの奇跡の物語

このような距離を持つ5人が、クリスマスキャンプで一同に会する事は、数々の偶然の積み重ねの結果だった。その流れを下記に整理する。

  • 8話
    • 理科室でスキレットのシーズニング中の千明とあおいを斉藤が手伝う。
    • 斉藤をクリスマスキャンプに誘うあおい。だが返事は保留。
  • 9話
    • 風邪のなでしこを見舞う千明。
    • 上伊那ツーリング中のリンにスマホでふざけたナビする千明となでしこ。
    • 千明にクリスマスキャンプ参加表明(メッセージ)する斉藤。
    • すかさず、リンも誘いたいと千明に相談するなでしこ。
  • 10話
    • 陣馬山キャンプ場入口の通行止めがそのまま行けると電話でリンにアドバイスする千明。
    • 夜に電話で千明にお礼を言うリン。
    • 千明のクリスマスキャンプにリンの誘いを一旦は断るリン。
    • 直後にリンを一緒にクリスマスキャンプに行こうと誘う斉藤。
    • その後、「やっぱり、考えとく」と千明にメッセージするリン。
    • キャンプ場に朝霧高原をチョイスするリン。

5人が集結出来た一番の功労賞は斉藤なのは間違いないだろう。しかし、5人全員が本件に関わっており、5人の誰一人欠けても実現出来なかった。

あの日、斉藤が理科室の前を通らなかったら、なでしこが風邪をひかなかったら、千明が見舞いに来なかったら、クリスマスキャンプは5人集まらなかったかもしれない。クリスマスだから起こせた奇跡であり、本作の物語的な要素とも言える。

奇跡の後、5人の距離は多少縮まるが、何かが激変するのでもなく、これまで通りの日常に戻る。斉藤が野クルに入る事もなく、野クルの部室は狭いまま、今まで通りに。

本作では、こうした奇跡も日常も、淡々とフラットにギャグまじりに同列で綴ってゆく。キャンプというハレの舞台のお祭りはあっても、最後は日常に戻って終わる。ラストだからと言って、特別何かが変わるわけでは無い。

12話アバンの良さ

12話のアバンは、10年後、朝霧高原で5人が再会する様子を、なでしこの妄想という形で描く。

本編では日常に戻って終わるためにカタルシスが弱いという事もあり、個性を認め合いながら、継続する5人の関係を希望を込めて映像化してくれたものだと思う。

これは、なでしこの妄想という事もあり、漫画原作に干渉する事無く、希望を見せてくれたアニメスタッフに感謝したい。

12話Cパートの良さ

12話のCパートは、1話でのリンの行動をなでしこがトレースする形で4月の本栖湖畔でソロキャンをする。自分用のキャンプ道具はなでしこの成長を意味し、ガスランタンはなでしこの自己スタイルの確立を意味する。

そして、同じくソロキャン中のリンとメッセージのやり取り。偶然にも同じキャンプ場にソロキャンしに来ていた事が分かる。天気は晴れ。富士山の景色は良好。上出来である。

彼女たちは、互いに依存する事無く自由。そして、たまにこうして交差する。

本作は全編に渡って、こうした自由さ、ドライな味わいが、非常に冴えていて心地よいと感じる、私好みの作風だった。

OP/ED/劇伴

劇伴が非常に心地よい。

キャンプを題材にしているという事で、デジタルではなく、アコースティックで軽快なケルト民用っぽい雰囲気になっていて、繰り返し聴いても飽きない。何なら、作業用BGMとしても使えそうな感じである。

ちなみに、特に静かな夜のシーン用の寂しさを醸し出す曲が好みである。

EDは、劇伴と同様なテイストで、アコースティックギターの静かな曲でこれもまた良い。

OPは、ちょっと賑やかで落ち着かない感じだが、本作のワチャワチャした感じとのバランスをとるためには、こうした選曲もアリだったのだと思う。

おわりに

色々書いたが、私は、ゆるキャン△の心地よさというのは、他者を否定しない、勝つための根性・努力をしない、とにかく楽しさを描く、という点にあったと思う。その意味で、とても大人でドライな作品だと思う。もしかしたら、2018年冬期アニメのエポックメイキングな作品だったのかもしれない。

本作はノンストレスの作品か?というと私は少し違うと思っていて、ソロツーリングで行き止まりにあったり、寝過ごして焦ったり、非日常ゆえに慣れずに起きるアクシデントは存在し、そうした「旅」に関するドキドキも本作で体験で来ていたと思う。それを込みで非日常を楽しむ。

キャンプブームが追い風になった面もあるが、一所懸命に働くだけでなく、生産性や効率の追求ばかりの日常から離れ、一時的に非日常の時間をゆっくり味わい楽しむ。そうした願望が少なからずあり、そうしたニーズにハマったのかな、とも思う。