たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

どうにかなる日々

ネタバレ全開につき閲覧ご注意ください。

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はじめに

本作は、4編からなるオムニバス形式の短編アニメーション映画で、尺は54分と短めの作品です。

LGBTや小学生の「性」を描きますが、サラっとした後味の作品で堅苦しくなく観れました。

以下、いつものように、感想・考察です。ちなみに、私は原作小説未読です。

考察・感想

余計なモノが無いシンプルな演出

本作は、漫画原作だが、アニメーションとしても手触りが漫画的であると感じた。もっと言えば、短編小説的であると感じた。

特に登場人物は限られて少ないので、その登場人物の気持ちに迫るための情報を整理して流す。

非常にスッキリして透明感のある映像という印象。

背景は手描きの優しさを持っている。主張し過ぎず温か味がある。キャラデザインもまたシンプルな線で描かれ、ド派手な動きもなく、シンプルな日常生活の中での動作に留まる。要するに、絵が強く主張する事は無い。

また、演者の声や、SEの音もまた、必要最低限の意図した音だけで構成されていて、非常に繊細に感じた。

要するに、リアルに写実的に、写真の様に鮮明にしてゆくのではなく、描きたい中心となるものだけを、メリハリを付けて描く。だからこそ、繊細な芝居が映える。

変な話だが、本作の劇伴の印象が全く残っていない。それぐらいさり気ない雰囲気だった。

また、モノローグもあったと思うが、舞台説明や状況説明をしない。心情に言葉を軽く添える程度で、こうであると説明する事は無く、基本はその空間での台詞のキャッチボールを味わう。

短編オムニバスという形

映画では短編オムニバス形式というのはしばしば見受けられるが、アニメーションの短編オムニバス形式というのは少ない。

アニメーション作品は全てを創作しなければならないので、美術設定やキャラクターデザインは使いまわせない短編オムニバスは勿体ないという考え方もあると思う。

しかし、それぞれのエピソードの関連性を持たせず(ただしep3,4は連作)、登場人物もかなり少なめ、作画や台詞も詰め込みはなく余白を生かすスタイル。そのため、分業に向くとも言える。

また、短編という事で尺が短いという事は、総作画カロリーも抑えられる。特に今回の作風であれば、派手なアクションや複雑な動きのシーンはほぼ無い。その分、描きこみたいカットにリソースを回す事が出来る。個人的には、ep1のソファーに座ってる上に足を重ねて座るシーンとか肉体を感じる作画で好きなのだが、そうした部分にメリハリを付けて作画出来る。

何作品分も設定やキャラを起こすのではなく、逆に描くモノを絞ってリソースを集中させて品質を担保するディレクションだと感じた。

この場合の弱点は、カタルシスだとか、感動の涙とかの積み重ねの上の盛り上げには不向きな事。ただ、小説でも同じだが、感動の長編小説だったり、ちょっとした余韻をカラフルに味わう短編連作小説だったり、どちらも美点はあり存在意義はある。

これまで、佐藤卓哉監督は、「あさがおと加瀬さん」「フラグメントタイム」と直近で短編を作り続けてきた。今回はそれをより一歩推し進めた形で、より一粒がコンパクトな短編オムニバス形式に挑戦してきたのではないかと思う。

多様な「恋」と「性」のドラマ

本作は、それぞれの短編で、少々形の変わった「恋」を描いている、と思う。オーソドックスな男女の恋愛ではない点が、味わい深い余韻を残す。

そして、それらに少々エロさを感じる描写が入ることが、作品のスパイスとなっている。

ep1は、ある女性の結婚披露宴で出会った、高校時代のレズ彼女と、短大時代のレズ彼女が、意気投合して付き合い始めるという話。

ep2は、男子校の男性教員が卒業式当日に卒業生から告白を受け、驚き喜ぶがそれっきり。毎年、卒業生の告白を待つが誰も言ってはこないという、ある意味切ない感じの話。

ep3は、親戚のAV女優が勘当され居候中の小学生男子の仲良しの女子が、興味本位でAVを視聴しその後押し入れからそのAV女優が出て来てダブルの衝撃を受ける。男子は心でAVを否定しながらも夢精したり、女子は私より親戚のAV女優が好きなんでしょ、と拗ねたり、という話。

ep4は、ep3の続きで中学生になり不愛想で振り向いてくれなくなった男子と、それでも好きで後をついて行く女子が、再び向き合ってエッチをする、というお話。

どのお話も、好きの感情がメインにあり、それと切っても切れない「性」の部分がある。

ある者は相思相愛になり、ある者は相手の登場を待ちわびる恋に恋し続けたり、ある者は子供故に大人の「性」にコンプレックスを持ったり。

現代なら、これらの関係は認められるべきものかも知れないが、一昔前なら、許されざる背徳的な関係である。そして、作品世界は建造物やテレビなどの様式から考えると30年くらい前の昭和末期と思われる。登場人物たちは、これらの秘めたる恋心を誰にも言えず、内面に抱えて生きる。だからこそ尊く、そして微笑える。もし、これを2020年の現代でやったら、もっとカジュアルな作品になってしまっていただろう。

「どうにかなる日々」というタイトル

繰り返しになるが、本作はカタルシスや感動の涙はない。エッセイのように断片的で、軽快に日常の悲喜こもごもを描く。

誰かが誰かを好きな気持ちがあり、それが上手くいったり、いかなかったり。決して好きな気持ちや現状を否定する事無い。そんな状況でもなんとかなる。それでも地球は回っている。

オムニバス形式で描く事で、形は違えども、誰もがそんな気持ちを持ち生きているんだよ、というメッセージに感じた。

おわりに

いつも作品を食べ物に例えようとするのですが、大作映画がレストランのフルコースだとすると、本作は、紅茶と一緒に食べるジャムを塗ったスコーンのような感じで、肩ひじ張らないけど、バターたっぷりで素性の良いお菓子のような雰囲気に感じました。とはいえ、エロというスパイスも効いていて、ある種の駄菓子感もあります。

何も考えずに見ていると、サッと終わってしまいますが、自分とは違う感覚の登場人物の感覚を手繰ってゆくと、味わいがある。ある意味、スルメイカ味もある作品だと思いました。