たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

アサルトリリィBOUQUET

ネタバレ全開につき、閲覧ご注意ください。

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はじめに

2020年10月~12月に放送されていた「アサルトリリィBOUQUET」の感想・考察ブログです。

本作は、百合+美少女バトルアクションという、ありそうで無かった要素の組み合わせですが、文芸、演出、作画、音響など高次元にバランスよく、それでいて下世話な感じが無く、総じて上品にまとめられた作品だと思います。

なお、本作は、2021年1月から稼働しているソシャゲ「アサルトリリィ Last Bullet」の宣伝の役割もあり、ソシャゲアニメとしての位置付けもありましたし、さらに、放送前からキャストによる舞台も公演されていたり、さまざまなメディア展開がありました。

今回、本作の見所や、物語、テーマを整理しようとしたら、結構な長文になってしまいましたが、以下、いつもの感想・考察です。

  • 「アサルトリリィとシグルリの対比」を追加(2021.5.8追記)

感想・考察

基本は、百合×バトルアクション

本作の基本は、王道とも言える美少女バトルアクションである。

巨大な武器を手に未知の敵ヒュージと戦う、リリィと呼ばれる美少女たち。リリィはマギと言う未知のテクノロジーを使う事で、巨大な武器を手に、制服姿のまま、驚異的な身体能力で、無機質なヒュージを相手に戦闘する。マギという設定のおかげで細かな事を気にせずに、より直感的な迫力ある美少女バトルアクションの絵面を楽しむ事ができる、という作風である。

もう一つ、本作の重要な要素に百合モノという側面がある。

リリィたちはある意味隔離された全寮制の女子高で生活しているため、そこは秘密の花園的な展開である。強くて美しくて気品ある上級生に対し、下級生の人気が集まる。そんなテンプレ展開の人気の上級生に夢結、夢結に憧れて白百合女学院に入学してきた新米リリィの梨璃という、鉄板の構図でのスタートである。例えるなら、「エースをねらえ!」のお蝶夫人岡ひろみがダブルスペアを組む、といえば分かりやすいか。

白百合女学院にはシュッツエンゲルと呼ばれる、上級生と下級生がペアを組む際に婚約にも似た契約を交わすという、という百合感溢れる設定がある。

夢結は、シュッツエンゲルの契約を交わした上級生の美鈴を、ヒュージとの戦闘で失っている。そのトラウマがあるから、夢結は誰ともペアを組もうとしない。慕う梨璃、突き放す夢結という片想いの構図が物語の開始。その後、シュッツエンゲルの契約を交わし、共に戦う中で夢結の過去のトラウマを解放し、互いに強く支え合う関係を築き上げて行く、というのが物語の軸である。

他にも、 神琳×雨嘉やミリアム×百由など、百合要素には事書かない。この辺りは、ソシャゲ的なキャラの厚みを感じる。

後半にアニメオリジナルを感じるシリーズ構成

本作は、下記の四部構成に分けられると思う。

話数 梨璃 夢結
第1部 1話~3話 出会い 甲州撤退戦の真実
(ミステリードラマ仕立て)
第2部 4話~6話 一柳隊(レギオン)結成 因縁のダインスレイフ回収
第3部 7話~9話 結梨の誕生から死別
第4部 10話~12話 リリィたちの解放 美鈴の呪いとの対峙

本作の物語には、大きく2つの軸がある。1つは、梨璃の白百合女学院のリリィたちの解放の物語。もう1つは、美玲の残留思念に悩まされ続ける夢結のトラウマ克服のドラマである。この2つの軸がある事が、本作の流れを複雑に見せている。

また、ソシャゲが控えていたコンテンツであるために、前半でキャラや世界観や設定などの紹介を手堅く済ませ、後半でアニメオリジナルの文芸要素を入れてきたように感じた。

個人的には後半の結梨関連とラストのリリィたちの解放は、美少女バトルモノとしては、割と思い切ったテーマを扱っており、アニメで観れて良かったと思う。

夢結のドラマは、ルームメイトに見えていた美鈴が実は夢結にしか見えない幻影だったとか、夢結のショックが多すぎて記憶が混乱していたのかと思われていた事が、実は美玲自身に記憶改竄能力があったとか、視聴者の観点も揺るがす設定を使い、斬新なサスペンス仕立てのトリッキーなドラマ運びで凝っていたと思う。

それから、美玲の愛しすぎて呪いをかけるくだりとか、なかなか高尚な文学的雰囲気も漂わせていた点は私好みであった。

美麗な作画、切れのよい演出

本作は、総じてバランスよく出来が良いが、全編で作画が安定していたと思う。キャラは可愛く描かれ、アクションは迫力満点。

シャフト味がある、と簡単には表現したくないが、レイアウト的にも情緒を表現したり、迫力を表現したり、意図が明確でセンスがあったと思う。

演出も、美玲絡みのサスペンス調の緊張感や、一柳隊のほっこりする緩くてテンポの良いシーンや、海中のヒュージネストに降下して、帰還するシーンのファンタジー感など、どんな球種も自在に的確に投げ込んでみせてくれていた。

個人的に好きな話数は5話、8話、12話。

5話は、夢結が梨璃の誕生日プレゼントを買ってくる話であり、日常回なのだが、いわゆるシャフトっぽい心象風景的な、日常感の薄い背景美術で、不器用な夢結がシルトである梨璃のために能動的にアクションするという、ツンデレ初期の心の変化を独特の雰囲気で描いていた。百合百合しい日常回。個人的に、夢結が好きなので、特に印象に残っている。

8話は、戦闘競技会を通して、結梨がリリィとして急成長する回だが、終始コミカルに描かれる競技シーンが、各々のレアスキルなどの説明もこなしながら、かなりの高密度で、キャラを引き立てながら、楽しく描かれる。かと思えば、終盤の結梨のアクション作画の凄さに持っていかれた。かなりの手練れた演出だと感じた。また、8話の特殊EDは、一柳隊(含む結梨)の10人が私服で過ごしているという多幸感溢れるもので、特にお気に入りである。

12話は、Aパートの戦闘シーン全部良い。特に全員で繋ぐノインヴェルト戦術。ここもかなりの高密度で、テンポよく子気味良い。台詞もカットをまたいで別のキャラに繋ぐイメージでかなりの高圧縮をかけているが、状況を的確に盛り上げながら繋いでゆくカット割りに、観てるこちらも盛り上がる。

今回、盛り上がる部分だけをピックアップして書いているが、全体的に、ストレスのかかるシーンも、しんみりくるシーンも、ギャグのシーンも、的確に高レベルにこなしていた感じがあり、満足度はかなり高かった。

テーマ・物語

ギオン(=チーム)という強さ

リリィはレギオンというチームを組んで戦う事で強くなる。

その象徴的な必殺技として、ノインヴェルト戦術と呼ばれる、9人のリリィが魔法球(マギスフィア)をパスしながらマギの力を上重ねして敵に叩きこむ技がある。これは、ビジュアル的にも分かりやすくチームの熱い団結を演出する。

主人公の梨璃は、リーダーとなってレギオンの要員を集め、一柳隊を結成する。集まったリリィたちは梨璃に好意的で、その信頼感でリーダーに体を預けて戦う。

中には楓のように、普段から梨璃への片思いや、夢結へのライバル心を表に出す者もいるが、戦闘中はみな協力して力を合わせてヒュージと戦う。

メンバーがチームメイトに依存しているのではなく、個人個人が自立した存在である事がミソである。そういった、私情を超えたチームワークの信頼感が、本作の気持ち良さの一つだと思う。

リリィたちが抱える悲哀

8話で結梨が一柳隊のメンバーの匂いをかぎ、「みんなも悲しい匂いがする」というシーン。結梨の「リリィは何故戦うの?」の問いに「みんなを守るため」「誰だって怯えながら暮らしたくない」というのが梨璃と夢結の回答であるが、それはリリィたちの犠牲の上に平和が成立している事を意味する。

それだけでなく、リリィそれぞれに事情があり、死神として呪われた悲しみ、祖国を奪われた悲しみ、強化リリィとして人体実験を受け精神的なトラウマを抱えて生きる悲しみなど、さまざまな悲しみを背負っている。

そうした傷を抱えながらも、リリィたちは命懸けでヒュージと戦う。

さらに言えば、リリィは人間に恐れられ疎まれる側面もあり、ヒュージという敵がいなくなったら軍事利用されるのではないかと不安を抱くリリィもいる。

その意味で、リリィはどこまで行っても束縛され、その犠牲を受け入れざるを得ない、悲哀に満ちた存在として描かれる。

結梨のアイデンティティと差別

人間とヒュージは50年間も争い続けており、敵対関係は当然のものとなった。ヒュージの研究は続けられていたが、人間と対話が成立する兆しもなく、時間は経過した。

リリィはマギの力でヒュージ化した人間であり、人間とヒュージの中間に位置する。それゆえに、リリィは人類に唯一のヒュージからの防衛手段として頼られる一方で、一部の人間はその力を恐れ、疎ましく思っている。それゆえに、人間→リリィは分断のリスクを背負っている。

7話で登場した結梨は逆に、人造リリィと呼ばれるヒュージが人間化したものであり、こちらもヒュージとリリィの中間に位置する。ただし、その出生経緯からヒュージとみなされ、白百合女学院もリリィとして保護する事が出来なかった。最終的には、結梨=人間の証明が間に合い政府への引き渡しは阻止できたが、一つ間違えば敵とみなしていた危うさがあった。

敵対するグループ間にあって中性的な存在が、両者から疎まれる。それは、リリィも人造リリィも同じ。例えるなら、敵対国の間に生まれた二世や、敵国から戻った帰国子女のようなものであろう。同じ人間なのに敵とみなして拒絶する事の危うさ。

結梨自身は、人間にもヒュージにも属さないとしたら、自分は一体何者なのか? という不安を覚え、自分はリリィでありたいと強く願い、リリィとして認められたい一心でヒュージを倒すが、相打ちとなり戦死する。せっかく、戦闘直前に人間として認められるに至ったのに、リリィとして生き急いだ結梨の人生は無慈悲に幕を閉じた。

結梨の件は、こうした差別やアイデンティティがテーマがあったと思う。

結梨の死は、強引なお涙頂戴ドラマ展開とか、ソシャゲがあるのでアニメ独自キャラしか殺せなかったとか、そういった否定的な意見もSNSで散見した。まあ、そういう見方も間違いではないだろうが、12話の梨璃のリリィ解放の流れの中では、絶対必要なエピソードだったと思う。

美鈴→夢結←梨璃の三角関係のドラマ

美鈴の呪いのくだりは、脚本、演出的にかなりトリッキーなサスペンス仕立てとなっており、新情報が分かる度に、ドキドキ、ハラハラしながら観ていたが、一旦ここに整理してみたい。

話数 美鈴関連のメモ
3話 甲州撤退戦の真実は、
(1)結夢がルナトラ発動
(2)美鈴に致命傷
(3)美鈴がダインスレイフの契約と術式書き換え
(4)美鈴ダインスレイフ持ってヒュージに突進
(5)美鈴ヒュージに串刺し
6話 美鈴のリリィだけがマギに操られない発言(結夢回想)
ヒュージからダインスレイフ回収
10話 墓前の結夢の前に美鈴幻影再登場
11話 美鈴のカリスマ上位スキルのラプラス疑惑(百由仮説)
6話でダインスレイフを回収後、鎌倉のヒュージの行動が狂暴化した(百由分析)
美玲のソメイヨシノ=ヒュージ=リリィ論(結夢回想)
美玲の結夢の存在だけが生きる意味発言(結夢回想)
美玲の愛しすぎて傷付けてしまいそうになったら殺してくれ発言(結夢回想)
12話 ヒュージがルナティックトランサーに似た波形を放出
美鈴は結夢が好き過ぎて自分を呪った(梨璃が感じた美鈴の残留思念)
美鈴はヒュージを暴走させる意図は無かった(梨璃が感じた美鈴の残留思念)

夢結が幻影によりかなり錯乱していたという状況もあり、まずはその辺りをマイナスして美鈴視点のポイントを整理する。

12話で梨璃がダインスレイフから読み取った美鈴の残留思念が真実なら、美鈴は夢結を愛しすぎて自分自身を呪ったが、夢結を呪ってはいない。美玲がダインスレイフの契約と術式を変更した目的は夢結を守るためであり、後のヒュージの異常行動の意図は無かった。

しかしながら、本来マギの操り人形であるヒュージが、6話のヒュージはマギを操り、9話11話のヒュージは海底のヒュージネストからマギを吸い取って狂暴化していた。この件については、想像だが、ダインスレイフに宿りし美玲のマギが、海底のヒュージネストに伝搬し、蓄積され、ヒュージに影響を及ぼした可能性が有る。

ちなみに、この仮説は12話で梨璃と夢結の帰還を守った結梨の幻にも当てはまる。9話のヒュージと結梨は相打ちになったが、ヒュージを通してか、グングニルが回収されたのか、何らかの手段で、海底のヒュージネストに結梨のマギが蓄積され、最後に作られたヒュージを結梨の意志がコントロールして帰還を守り、ヒュージ自体は海岸に骨格だけ残った。

最終的に鎌倉のヒュージネストは殲滅されたので、これでマギを操るヒュージの狂暴化はリセットされたと思われる。

話を美鈴と夢結に戻し、本作のドラマの軸となる、錯乱した夢結の葛藤のポイントを整理する。

夢結は甲州撤退戦で美鈴殺しの疑惑をかけられていた。美鈴の幻影に苦しみ、その心は氷のように冷たく硬貨していた。

3話で戦闘中に梨璃と刃を突き合わせる事でルナティックトランサーが解除。甲州撤退戦でルナティックトランサー発動中の意識が無い時に夢結が美鈴をダインスレイフで指していた記憶が戻り、その夜自室で一人涙を流し、その事実に向き合った。それを同室の祀に目撃され、それ以降、美鈴の幻影は出ない。

6話で因縁のダインスレイフを咥え込んだヒュージとの戦いで、夢結が再びルナティックトランサー発動。自分の醜さ弱さを梨璃に吐き出し、何度でも守ると梨璃に言われて戦線復帰し、一柳隊初のノインヴェルト戦術でヒュージ撃退。

10話Cパートと11話で再び美玲の幻影登場。何故このタイミングなのかは不明だが、百由がダインスレイフを解析して徹夜で対ヒュージ用のウィルスを作っていた事が、美鈴のマギが結夢にアクセスしやすい状況を作ったのかもしれない。6話までは自分の過失を攻めていた夢結だが、今度は離れられない美鈴の呪いとの戦い。美鈴が記憶改竄能力をもちえたという情報もあり、疑念の渦に巻き込まれ自分を見失い、呪いを自分一人で解決するともがく。

12話で美鈴のダインスレイフを手にルナティックトランサー発動して梨璃を守る夢結。お互いに、パートナーを守るために自分勝手に暴走しないで!との痴話げんかを経て、最終的に再び二人が協力してヒュージを倒す。ここで夫婦の絆がより深まったという演出だったと思う。

こうしてみると、美鈴→夢結←梨璃の三角関係のドラマとも言えなくない。美鈴が死してなお夢結をガラスのケースに閉じ込めて縛り付けようとしていたか? 美鈴は梨璃に嫉妬していたか? がポイントになると思うが、この辺りの詳細は分からない。ただ、12話の戦闘を経て、自分一人だけでなくパートナーを信頼して行動できるようになった事で、夢結の過去は吹っ切れたとも言えるし、ネスト殲滅からの帰還の時に美鈴は幻影を見せなかった事で、美鈴は身を引いたとも考えられる。この辺りは、曖昧な余韻を楽しむところなのであろう。

本作が百合を特徴としている事、好き過ぎて自分が怖くなり自分自身を呪うという文学的な雰囲気、それをサスペンスタッチで描いてきた部分では野心的で凝っていたと思う。それゆえに、夢結の感情に寄り添うのに若干難易度の高さを感じないでもなかった。この作風は私好みだが、好き嫌いは別れそうに感じた。

梨璃による、リリィたちの救済と解放

娘同然だった結梨の喪失により、梨璃は失意のどん底に落ちる。それを救ったのが一柳隊や百合ヶ丘女学院のリリィたちだった。四葉のクローバーの髪飾りはリリィたちの梨璃を気遣う気持ちの象徴となり、梨璃はそれを受け取る。そして、梨璃はもう誰一人としてリリィを失いたくない気持ちを強くする。

11話で自分のCHARMだけ機能する状況下で、夢結と女学院のリリィたちを守るため、単身でヒュージに立ち向かう。本来、制御不能になるルナティックトランサー発動後の夢結が、自制心を持って梨璃の助太刀に来る展開が熱い。さらに、女学院のリリィ全員によるノインヴェルト戦術でヒュージを倒すシーンでさらに高まる。そして、その代償にリリィたちが持つCHARMが全て壊れるという展開は、リリィたちの戦闘からの解放を示唆する。

12話Bパートの海底のヒュージネスト破壊作戦は、夢結と梨璃の2人でヒュージと対峙する旅となった。鎌倉のヒュージを殲滅し、因縁のダインスレイフを深海に沈めた。帰路は亡くなった結梨の魂に見守られながら、由比ガ浜の海岸に帰還する。

こうして、梨璃とリリィたちによる、リリィの戦いからの解放を描いた。

梨璃のレアスキルは、カリスマの上位スキルのラプラス(?)。人間とヒュージや、人間と人間の理解し合えない断絶が悲劇を生むものだとしたら、梨璃の力は分かり合ってしまう能力だったのかも知れない。相手の気持ちを知り、梨璃の無欲で犠牲を出したくない気持ちが伝搬する事で起きた奇跡。

それは、ご都合主義とも言えなくも無いが、梨璃やリリィたちの悲哀を描いてきた物語の結末としては、こうありたいという祈りとシンクロし、気持ち良く見られた結末であったと思う。

余談(メタ考察)

美少女キャラの犠牲の上の平和と、美少女キャラの幸せ

メタ的は話をするが、アサルトリリィというコンテンツは、美少女バトルアクションというファン向けの要素を前面に押し出しており、フィギュアも小説もソシャゲもそれを中心にして売り出すというコンテンツである。

しかし、アニメーションというエンタメにおいて、令和の時代に、みんなのために自己犠牲で死と隣り合わせで戦う、という設定や物語自体が、受け入れられにくい時代になってきているという側面があるように思う。

特に、ソシャゲという事であれば、キャラを好きになってもらうのが一番の燃料なので、キャラクターの個性こそ尊重するが、キャラクターを虐げたり、物語の都合で戦死するような事は、マイナスという事もあるだろう。大好きになってもらったキャラクターたちをないがしろに出来ないし、いつまでも愛して欲しい。キャラを肯定して欲しい。

その意味で、リリィたちを戦争から解放し救済する、というストーリー自体は、個人的には非常に良かった。私もキャラ寄りに作品を観てしまう傾向があるので、物語の都合でキャラクターが悲惨な目に遭うのは心が痛む。一柳隊の9人は全員気に入ってしまっているので、なおさらである。

しかし、本能として、美少女バトルアクションという映像が好きな事も、本作を観て再認識した。

だから、本作は、前提としての美少女バトルアクションモノの文芸面を上手く処理して現代にマッチさせている、という点で見事だと思うし、評価したい。

しかしながら、美少女キャラを自己犠牲の戦争に参加させている時点でどうか? という潮流もあるだろう。

まどマギは、大義名分ではなく、個人の願いを叶える契約履行という、ある意味自己責任で命懸けで魔女と戦う。ガルパンはチームで敵と戦うが、生命の危険は無く、試合後は敵とも和気あいあいである。その意味で、ガンダムみたいに主人公が命懸けで敵と戦うアニメは、近年まれというか、直ぐには思いつかない。

(後で気付いたが、2021年10月に放送予定のマヴラブは、美少女オンリーではないが、死と隣り合わせの兵士を描いている作品かと思うが、ただしこの作品も原作の起源は古い)

この先、美少女バトルアクションは、どのように進化するのか? それとも、退化して消滅するのか? その辺りを興味深く思っている。

アサルトリリィとシグルリの対比 (2021.5.8追記)

ブログを一旦、公開した後、同時期に放送されていたシグルリ(戦翼のシグルドリーヴァ)が、がっつり戦う美少女の犠牲を描く作風であった事を思い出したので、本作についても触れておこうと思う。

戦う美少女の犠牲の上に勝ち取る平和、という観点でのシグルリのポイントを整理する。

  • 人類 vs 圧倒的な強さを持つ北欧神話の神オーディン の戦い
  • ルールは神であるオーディンが決める(=無理ゲー)
  • オーディンは、ピラーとよばれる無機質なメカを出現させ人類と戦わせる
  • 何故か、美少女(ワルキューレ)とレシプロ戦闘機(英霊機)だけが、ピラーに対抗できる唯一の戦力という設定
  • 美少女だけでなく、通常の軍隊も戦闘する(オッサンたちがジェット戦闘機で護衛する)
  • 人類は虫けらのように死んでゆく。美少女もたびたび戦死する

圧倒的不利という状況で、戦わなければ人類滅亡という状況下を設定し、美少女だけが敵に対抗できる手段という事では、美少女バトルモノのテンプレ通りである。

アサルトリリィとの違いをピックアップすると、下記となると思う。

項目 アサルトリリィ シグルリ
戦況 侵略を食い止めている(防衛)
人類の平和を守る
既に壊滅状態
人類の平和を勝ち取る
死の描写 死の描写は最小限 死は当然でありふれてる
人類→美少女 一部の人間から疎まれる 英雄として人気者
美少女の成り立ち 敵の技術で武装(&改造) 敵(神)が選抜
一般人 ほぼ描かれない 共に戦い死にゆく姿を描く

一般的に美少女アニメは、美少女以外の登場人物をあまり描かないというディレクションが主流であり、それは気持ち良いモノだけで満たされたい視聴者にとって美少女以外の登場人物がノイズになる、という発想からきていると思われる。そのため、美少女だけの閉じた社会だけか、その社会と限られた範囲での外部を描くことになる。アサルトリリィもその文脈で作られている。

しかし、シグルリはその鉄板の法則から大きく外して作られている。美少女以外の一般人(軍人、民間人)を描き、その中に生きる頼られるヒーローキャラとして描いている。

シグルリの世界では人類が絶滅の危機に瀕しているが、ワルキューレだけを戦わせたり、責任を負わせるものではない。ワルキューレが特殊な能力を持っているからといって特別な悲しみを持つわけではない。ワルキューレの悲哀=人類の悲哀である点が、アサルトリリィとは決定的に異なる。

無理ゲーとも言える神との戦いなので、人類の勝てる可能性は0%ではないかと思ってしまう。しかし、人類とワルキューレはその可能性を0.0001%くらいはある、という事を信じて絶対に諦めずに戦う。

戦うたびに、人類側には甚大な被害。ワルキューレも大切で大好きな先輩を失い、戦意を喪失してしまう後輩ワルキューレもいる。そうして、数を減らしながら生き残る人類の傷と絶望は、深く大きく広がってゆき、戦う事を諦めそうになる。自己犠牲の戦死が嫌だから戦わなくても良いというロジックは、戦わなくても世界が存続するケースが前提であり、ここでは戦わない事も死を選択する事と同義である。だから、この無理ゲーの中、戦えるものは無駄死に覚悟でも、未来を信じて戦いを挑む。

物語としては、弱点が無いと思われた神の側が、実は一度滅んでおり、神の家族を失くない為に茶番を組んで滅びの戦いを人類に代行させ、滅ぶ前である事を演じていたかったみたいな、過去に拘り摂理を捻じ曲げる的な、神様の拗れた個人的感情みたいな事が分かってくる。

これに対して、人類の強みは、小さな個人の小さな命が尽きても、残された者がその死を弔い思いを引き継ぎ積み重ねるという継承と、死にゆく命に対して生まれ来る命があり、その新陳代謝で未来に繋ぐ、という2点である事を描く。そして、必要なのはゴキブリの様にしぶとく、諦めない心であると。

神の側の事情を知れば、過去に拘るという心の弱さがあり、未来永劫続くものなどない、というルール違反をしている事から、人類側の勝機が見えてくる。最終的には、苦しい戦いの果てに、人類の存続を勝ち取る事ができる、という流れで結ぶ。

シグルリのロジックは、昭和時代の古い展開とも言えるが、この物語の流れは納得はできるし、アリはアリである。

こうしてみると、シグルリは美少女バトルアクションアニメの中で、カウンター的な要素を持っていたとも言える。それは、選ばれし美少女が戦わない=美少女も人類も滅亡するというハードな二択設定と、美少女たちだけに責任を負わせないこと、この2点で従来の美少女の犠牲の悲哀を軽減していた事である。

ただ、令和時代において、このロジックは例外的でもある。また、視聴者の中には、この無理ゲー感溢れるストレスフルな展開に疲れてしまい、途中で視聴を中止してしまうケースもあっただろう。

シグルリは美少女バトルアクションの一つの回答である。今後、数は少ないだろうが他の回答も出てくる事を期待しつつ、そうした作品を楽しみに観て行きたい。

おわりに

個人的に、2020年秋期のアニメは豊作で、作品も視聴カロリーを使う作品が多かったのだが、本作をいつもの感想・考察で書くには、物語の掴み切れていないところを、掴み直す必要もあり、ブログの更新タイミングがかなり遅れてしまいました。

実際に、物語・テーマだけ整理しようとしても、かなりの分量になりましたので、この大型連休の間に書けて良かったです。

改めて、観直したりしていましたが、百合の一本調子で終わらせるには勿体ないほど、カラフルな作品だと思います。観て楽しめる要素満載なので、「美少女バトルアクション」に抵抗なければ、是非観ていただきたい作品です。