たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

ぼっち・ざ・ろっく! 1話~8話

はじめに

「ぼっち・ざ・ろっく!」がかなり面白い。

1話から8話まで視聴した時点の感想です。原作漫画は未読です。

8話は原作漫画1巻のラストの話という事で、最終回的な綺麗な〆になっていますので、一旦ここまでで感想・考察ブログを書きなぐりました。

感想・考察

作風

可愛い、カッコいい、緩い、心にしみる、なんでも有りの幕の内弁当

原作がきらら4コマなので緩くて可愛いのは当然なのだが、1話の終盤にイイ感じのシーンが入ってジーンと来たり、演奏シーンが凄くカッコ良かったりと色々と楽しませてくれる要素が多い。

そもそも、重度のコミュ障で今までただの一人も友達が居ないという、主人公ぼっちのキャラ設定のエッジが効きすぎている。そして、誰とも絡まない押入れの中では「ギターヒーロー」として技巧派のギタリストという二面性がなお面白い。この設定により、素人スタートでギター上達してゆくドラマという時間のかかる作劇から決別している。

ぼっちは深層心理では他者を求めているが、他者に傷つけられるかもしれないリスクに怯えてストレスを蓄積し、バリアを張って他者に飛び込めず距離を開けている。そのくせ、他者から優しく声をかけてもらうのを待っているという、小動物的なゆるゆるな可愛さもある。そんなぼっちの心の呟きや叫びのボケやツッコミがイチイチ面白い。コミュ障ゆえにストレスをため、それを笑いに転化する。この緩急が本作の笑いの基本である。視聴者は、小心者のぼっちの弱さを笑いながらも、ぼっちにも寄り添って見てゆくことになる。

基本の劇伴はゆるいモノだったりするので、視聴者にも緩い笑いである事は十分伝わってくる。

そして、バンド演奏シーンは非常に力が入っている。後述するが、バンド曲がカッコいいと思える出来栄えで、なおかつ分りやすくドラマと直結している。ここは、ある意味、ぼっちという小市民がギターヒーローに変身する爽快感がある。

そして、各話の終盤には、ちょっとイイ感じのシーンが入る。8話の虹夏とぼっちの会話は最たるモノである。4話のリョウの「個性を捨てたら死んでるのと同じ」という台詞でありのままのぼっちを肯定するシーンも好きだし、何なら2話の「また明日」の台詞でぼっちが虹夏とリョウと関わり続ける意思を見せた事にもちょっとジーンときてた。

まず、私が本作で気に入っている点を列挙する形となったが、より詳細なポイントを引き続き述べてゆく。

有り余る「余白」に力を込める

本作は、原作漫画の1巻の内容を1話~8話にかけて映像化している。原作漫画の消費速度としては遅い方だと思う。その分、原作を深く解釈し、アニメーションとしてデコレーションを大幅に乗せてゆく作りになっていると思う。

ぼっちという人間のドラマとして書き出すと脚本的にはかなりコンパクトになるだろう。本作は、その分、ギャグを引き延ばしている感じだと思う。そのギャグに使う尺の長さや映像表現の多彩さに力が入りすぎていて、それさえも笑いに転化する。

それは、ぼっちの妄想が暴走するシーンに顕著に現れる。ぼっちのテンパってる時の内面を画風を変えて極端に描いたり、時に実写映像を挿入したり、それもゾートロープと呼ばれる実写アニメーションだったり、人生ゲームを模した盤面を作り駒を動かす実写のシーンをいれたり。とにかく、飽きさせずにあれやこれやの手法をトライしてくる。

5話のオーディション後にぼっちがゲロを吐くが実写のダム放流シーンが映し出される。それも、30秒かけて4基のダムを映す。昨今のツメツメの絵コンテでは考えられない贅沢な尺の使い方である。

普通はこんな多彩な表現を本編中で一瞬だけ使うために実写アニメを作ったりはしないだろう。こうした無駄とも思える余白にも全力投球で投げ込んでくるスタッフには頭が下がるし、笑わせられるだけでなく敬意まで感じてしまう。

バンド演奏とドラマの直結

私自身は、バンドやバンド曲に詳しい訳ではないので、詳細は他の方にお任せするが、本作のバンド演奏シーンがアニメーションとしての出来が良いことは分る。百聞は一見にしかずと思うので、何はともあれ公式で公開されているバンド演奏シーンを貼り付けておく。

個人的には、あまりロックバンドの楽曲を興味を持って聞いてこなかった。ド素人ゆえに演奏テクの凄い凄くないの違いも分らないという感じだった。

しかし、以前ハマった「響け!ユーフォニアム」というアニメ作品で、生楽器の音の聞き分けの楽しさみたいなのを少し覚えて、吹奏楽あるあるなどの話も聞きかじり、少しづつ興味を持てたという事もあった。

結束バンドは、打ち込みとかもない完全に生バンドゆえに、曲で鳴っている音は全て楽器の生演奏である。ギター奏法などの知識はないが、原作側の解説動画などを見ると理解度がUPするので、良ければ合わせて見てもらいたい。

私が凄いなと思ったのは、8話の1曲目のダメダメ感が視覚的な演出だけでなく、音だけでもヒシヒシと伝わってきたところ。そして、2曲目で挽回して、見事に決めるところ。この落差を映像と音響だけで視聴者に信じさせる。その本気度がロックである。

他のアニメ作品だと「響け!ユーフォニアム」の吹奏楽部の演奏の上達具合や、「シャインポスト」のTiNgSのダンス技術の違いが、映像や音響でダイレクトに表現されていた。こうした肝心なところをハッタリでなく、分らせるというところがストイックでカッコいいし、見てて鳥肌が立つ。もう、こうした事が当たり前に描かれているから麻痺しているけれども、楽器演奏やダンスの映像と音楽を合わせつつ、上手下手や緊張感を映像で伝えるというのは、かなり高レベルな表現であり、アニメーションを作る上で難易度がかなり高い。

激しすぎる緩急がもたらす快楽

繰り返しになるが、本作は色んな意味で緩急の落差が激しい作りになっている。

  • 作品の風味
    • ギャグ(この中にも、ゆるいのからハードまでの緩急あり) …体感70%
    • シリアス(ライブの緊張感、カッコ良さ) …体感15%
    • ドラマ(ちょっといい感じのぼっち成長ドラマ) …体感15%
  • ぼっちの側面
    • ギターヒーローのぼっち(動画配信の人気者)
    • 学校のぼっち(極端なコミュ障、郁代の練習相手)
    • 結束バンドのぼっち(極端なコミュ障、初バイト、作詞担当、初ライブのヒーロー)

本作は、とにもかくにも小心者のぼっちが、他者との関わりに極度のストレスを感じて繰り出されるギャグシーンを緩く楽しむ部分がベースである。それが途絶える事無く、作品全体の70%を占めている。なおかつ、それはイイ感じのドラマやシリアスなシーンの後にも挿入され、緊張感を緩和する作りになっている。

そのギャグシーンにもグラデーションがあり、特にぼっちが極端なストレスによりフリーズしてしまう際の描写がハードである。絵柄が変わったり、時には実写になったり、しおれて呪いの因子がぼっちの部屋に充満して遊びに来ていた虹夏と郁代も呪いで倒れる、という暴走気味のギャグシーンがある。こうした突き抜けたギャグシーンは視聴者にもストレスを与えており、ゆるいギャグシーンで緩和される。

また、本作が、ライブシーンやイイ感じのドラマばかりであったら、ここまでウケなかったのではないかと思う。ライブシーンはここぞという所で入るので、メリハリをもって効果的に作劇にスパイスを与える。ベースにあるぼっちの成長ドラマを毎話途切れることなく終盤に薄く的確に入れる事で、ちょっとイイ感じの余韻に浸れる。このあたりのさじ加減が絶妙で心地よい。

筋の通ったストーリー構成と脚本

話数 ぼっちイベント
1話 高校友達ゼロ、虹夏から助っ人ギター依頼、完熟マンゴー演奏(ド下手)
2話 ライブハウスバイト開始、初接客、「また明日」
3話 ぼっち→郁代を勧誘、逃げたギター、ぼっち→郁代を引き留め、ぼっち→郁代ギター練習
4話 ぼっち→郁代ギター練習、アー写、作詞難航、個性捨てたら死んでるのと同じ、歌詞完成、アー写貼りまくり
5話 オーディション、前日気を遣う虹夏、(結束バンドを)ここで終わわせたくない、合格、チケットノルマ5枚
6話 チケットノルマ5枚、きくり登場、路上ライブ、ファン1号2号を見て演奏、客の笑顔、ノルマ達成
7話 虹夏郁代→ぼっち宅訪問、ぼっち思考に慣れる虹夏、ぼっちに歩調を合わせる虹夏
8話 初ライブ台風、1曲目で折れるメンバー、2曲目でぼっちギター炸裂、虹夏→ぼっち感謝、結束バンドで有名になりたい

ぼっちがバンドを始めたかったのは、ギタリストとして有名になるステップであったと思う。しかし、虹夏に無理やり結束バンドに引き込まれ、流されるままにバイト、ボーカル勧誘、ギター先生、作詞、チケットノルマ、と慣れないことをこなしてきて、ぼっちの生活自体は他者との関りを持つ特別なモノに変化していった。もちろん、はじめは無理やりでキツめのイベントが多く感じていたが、次第に結束バンドの一員として、結束バンドとして有名になりたいという夢に変化してゆく。その流れが、毎話わずかながら丁寧にドラマを紡いでいるという点で、本作のシリーズ構成は信頼できる。

また、郁代のギター上達など、時間経過で変化を表す描写も丁寧に入れている。

本作のドラマが、各話の終盤に薄く挿入されている点も狙いであろう。前半のギャグで引き付けて笑わせて、最後に少しだけいい話を持ってくる。視聴者もこのテンプレートに慣れてなじんでくるので、各話見やすい。

シリーズ構成、全話脚本は、吉田恵里香。実写ドラマの脚本家という事だが、私は本作が初めてだが、かなりツボを押さえた脚本だなと感じた。

キャラクター・ワンポイント

後藤ひとり

基本、陰キャでコミュ障なのだが、ぼっちがイイのはネクラじゃないところではないかと思う。

  • 陰キャ → 極度の心配性
  • コミュ障 → 傷つきたくない、褒めてもらいたい。

という表現になっていると思う。このテイストが令和時代というか、念がこもっていなくていい。

虹夏に引っ張りこまれて、はじめて結束バンドに関わってゆくが、無理やり連れてこられた事がぼっちにとって良かったのだろう。そのまま拒否れずに流されるようにバンドとしての様々な体験をしてゆくうちに、結束バンドで有名になりたいという気持ちが芽生えてゆく。

ぼっちにとっては、逆に虹夏が白馬の王子様に見えてのではないかと思う。

伊地知虹夏

無理やりぼっちを結束バンドに引き入れて引き留めた、というのが実情であろう。だから、5話でオーディション前日に辛そうな表情で帰宅するぼっちに気を使って声をかけた。ぼっち自身はバンドをやりたいと言っていたが、結束バンドのスタイルはぼっちの意向に沿ったものなのか?

虹夏は結束バンド作りを焦っている側面があり、それゆえに熱くなり過ぎるときがあると。

虹夏はぼっちの事を測りかねていたところがあったと思う。しかし、7話のぼっち宅訪問でぼっちは裏表なくぼっちである事を理解し受け入れられたのだと思う。だから、ぼっちの気持ちに少し寄り添うことができ、ぼっちに歩調を合わせられるようになった。

ただ、何もかもが新米バンドとしての自分たちを、常にブレイクし一歩前に進めてくれたぼっちを、虹夏のヒーローと感謝した。姉の分まで結束バンドを盛り上げるという夢を支えてくれて、そして演奏もカッコいい。ぼっちの事を頼もしくも嬉しく思ったのだと思う。

山田リョウ

基本マイペースだが、それゆえに個人を尊重し無理強いしない。そこは虹夏とバランスが取れているところである。

リョウは4話の台詞が全てだと思う。個性を捨てたら死んでるのも同じ。バラバラの個性がぶつかり合って結束バンドの色になる。名言だと思う。

喜多郁代

郁代は、ぼっちの対照的な存在で面白い。ぼっちを恐れておらず、悪意無く、ポジティブにどんどん入り込んでくるからぼっちとコミュニケーションが成立しているのだろう。

ポジティブ過ぎてねじが飛んでいるところも見受けられるが、一度結束バンドから逃げたことで自分を責めており、罪滅ぼしではないが、今度こそ諦めずに何か成し遂げたい気持ちが伺える。

そのポジティブさは理解するが、前回バンドから逃げたというのは、かなりのストレスだったのであろう。ただ、ポジティブゆえに自己防衛のために逃げる事ができた点も、ぼっちと対象的である。

おわりに

勢いで書きましたが、2022年秋期アニメで一番ハマっている作品です。

本作の魅力の断面が多すぎて、とっちらかった感じもありますが、好きな気持ちを吐き出す事ができてスッキリしました。

多くの配信サイトで配信されているため、今からでも視聴できる環境は結構あると思いますので、興味があれば是非。

見る人によって、ゆるくも、ピーキーにも見れる、奥行きのある作品だと思います。

ちまたの噂では12話は文化祭ライブまででは、という事ですがもう一山あるのか、このままゆるく行くのか、残り4話も楽しみです。