たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

ヴァイオレット・エヴァーガーデン 11話『「もう、誰も死なせたくない」』

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感想・考察

クトリガル国、メナス基地の内戦

大戦は終結したが、内戦状態で戦闘が続く国もある。今回の依頼人は、船旅で一週間かかる大陸北端のクリトガル国の一兵士だった。

我々の住む世界も、第二次世界大戦後、イデオロギーの対立により西東分裂した。終戦を迎えた多くの国とは別に、この東西の対立の代理戦争の形で朝鮮戦争ベトナム戦争が継続して行われた。ここまでの話では無いと思うが、大戦後も不安定で戦闘が継続されている国は珍しくはない。

メナス基地は雪山に囲まれた基地。その近くの収容所のガルダリク残党が武器を得て反乱を起こし、クリトガル国のメナス基地がそれを抑える任務にあたっていたが、ガルダリク残党の方が戦闘能力が高く押され気味。

Aパートで描かれたのは、メナス基地の部隊がガルダリク残党を鎮圧すべく作戦行動を起こすが、逆に待ち伏せされ、部隊は壊滅するというところ。

この戦闘でメナス基地の兵士は戦闘マシンではなく、只の人間として描かれる。大陸縦断鉄道ができたら南の国に行きたいだとか、非番でのバーでの仲間との交流だとか、負傷した仲間の「見捨てないで」の言葉に必死に応えて助けようとするとか。そんな、普通の人間が次々に任務中に死んでゆく事を描いていた。

一方、ガルダリク残党の兵士は、状況的に有利な立場にはあるが、殺人鬼だとか狂人だとかはおらず、自身の信念で戦闘に参加する、こちらも普通の人間として描かれていた。

要するに、今回の戦闘の描写は敵も味方も悪人が居ない。戦争という状況下で、作戦行動中の兵士が無数に戦死ししてゆく様を淡々と描いている。戦争による大量の命の消耗。そして戦死者のこの世への未練。

今回のテーマは戦争という人類の大罪を扱っているものと感じた。

エイダン・フィールド

クルトガル国の若き一兵士。それこそ、どこにでも居るような素朴な青年。高原で空気の奇麗そうな農業を営む田舎の家庭に生まれた。兄弟は不明。幼馴染の女性マリアに恋心を抱くもキスもする事も出来なかった。

エイダンは故郷を離れ兵士として過ごすうちに、マリアが自分にとって掛け替えのない存在で、帰国したらキチンとその事を伝えようとしていたのだろう。

故郷の映像があまりにも戦闘からかけ離れた農場のイメージであり、なぜこの戦争に志願したのか?徴兵されたのか?は分からない。

殉職寸前で、ヴァイオレットに代筆を頼むとき、この世への未練と残されるものへの気持ちを託した。

死に際にダイアモンドダストが舞い上がるシーンは、エイダンと、無数の戦死者の無念の思いが天へと舞い上がっていく事を想像させた。

ヴァイオレット・エヴァーガーデン

エイダンへのキス

エイダンの命の灯が消えそうになったとき、ヴァイオレットはエイダンの心に、死にゆく者の無念に寄り添った。

エイダンはマリアを愛している事をきちんと認識しマリアとの初めてキスをイメージしていた。それが叶わない事を無念に思いながら三途の川を渡っていた。

ヴァイオレットのキスは、死にゆく者への手向けなのだろう。エイダンが成仏出来るようにと。

「息子を返してくれて、ありがとう」

ヴァイオレットは自分自身で手紙をエイダンの両親とマリアに届ける郵便業務も行った。

エイダンの手紙を受け取った時、エイダンの母は「息子を返してくれて、ありがとう」と言った。

戦死する直前のエイダンの気持ち。両親には、これまで育ててくれた感謝の気持ち。マリアには、今まで直接言われなかったが、エイダンもまた私の事を愛してくれていた気持ち。それらのエイダンの気持ちを遺された人たちに届けられた事で、エイダンの死を受け止められる事が出来たのだろう。

多くの兵士は、残された人たちと気持ちを交わす事も無く、いきなり殉職となり、独りぼっちで死んでゆく。

その意味では、手紙を通して息子の死に目に会えた、という感謝の気持ちだと思う。

「守ってあげられなくて、ごめんなさい」

次のシーンではヴァイオレットは泣き出して、残された両親とマリアに謝罪する。

「いいえ、守って、あげられなくて、ごめんなさい。死なせてしまって、ごめんなさい」

エイダンはヴァイオレットが到着した時には既に銃弾を受けて瀕死の状態だったので、ヴァイオレットが助けるもの何も、救いようが無かった状況である。

にも拘わらず、ヴァイオレットが自分に責任を感じるというのは、戦争を体験し、戦争が生みだす悲しみの渦の大きさに打ちひしがれている、という事なのだと思う。

自動手記人形の仕事をする前の戦争経験と、その後の多くの人々に会い気持ちを重ねてきた事で、戦死者と遺族の気持ちが痛すぎるほど強い嵐の様に襲ってくるのだろう。

戦争を無くしたい、という大きな命題。

今回の手紙は今までの手紙とは全く異なる悲しいだけの手紙。

大量に消耗され死にゆくだけの兵士達の、生きたいという気持ちに対し、死にゆく人たちの無念と、遺された人たちへの想い。

「もう、誰も死なせたくない」というサブタイトルは、戦争という悲しみの渦を断ち切りたい、という非常に大きな命題に行きつく。

そしてこの単純に答えの出ない命題は、視聴者各々の心に問いかけるエンターテイメントとしては悪くない命題ではあるし、普通ならこれ以上の掘り下げは難しい。

本来なら、ヴァイオレット一個人が何とか出来る問題ではなく、そこまでヴァイオレットが背負い込む問題では無いと思う。でも、本作は毎話の積み重ねと連鎖で成立しているので、11話の気持ちが何らかの形で12話以降に繋がるのは間違いないと思う。

その意味で、12話にどう繋ぐのかは非常に興味深い。

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