はじめに
いつもの、2023年春期のアニメ感想総括です。今期の視聴は下記の4本。
- BanG Dream! It’s MyGO!!!!!
- わたしの幸せな結婚
- デキる猫は今日も憂鬱
- 僕とロボコ
視聴アニメ本数が毎期少なくなっているような気がする…。
実は「ゴールデンカムイ」とか「呪術廻戦」などもNETFLIXで観ていたりするが、こちらは過去作品というのもあり、こうした定期のアニメ感想総括からは省きます。
今期はなんだかんだ言って「MyGO!!!!」が話題だったような気がします。
なお、「僕とロボコ」の放送時期は2022年12月~2023年6月なので厳密には春アニメなのですが、NETFLIXが遅れて17話~28話を配信したので、夏アニメにカウントしています。
感想・考察
BanG Dream! It’s MyGO!!!!!
- rating
- ★★★★★
- pros
- こじれ気味の女子の関係性をド直球に描く重めの青春群像ドラマ
- ライブ映像が肝のアイドル・バンド物の中で、楽曲、脚本、演出の三位一体の融合レベルの高さ
- ミステリー仕立てで飽きさせないシリーズ構成
- cons
- こじれ気味の女子の感情を描くため、こってり度が高く濃い目の味付け
ブシロードの伝家の宝刀「バンドリ」の最新作であるが、バンド同士が仲良しだった過去作品群とは違い、地続きの世界でありながら次世代の「MyGO!!!!!」というバンド結成までをフォーカスして描く。
監督の柿本広大、シリーズ構成の綾名ゆにこ、制作サンジゲンは、はバンドリ2期以降の鉄板の座組だが、今回はシリーズ構成も映像も楽曲も新機軸を入れて攻めている。従来のバンドリから一皮むけて、バンドアニメ、アイドルアニメの1つの到達点になったと言えるかもしれない。
従来のバンドリは、キラキラ、友情、楽しさみたいなのがベースにあって、その中で友好関係や信頼関係があったり、という感じだったと思う。「音楽」って音を楽しむって書くんだよ!みたいな。無論、ハッピーだけでは物語は成立しないので、トラブルが発生したりバンド解散の危機はあるものの、総じてプラス側の範疇で振れていただけであったと思う。しかし、本作の「MyGO!!!!!」は、ギスギスしてメンバー同士が傷つけ合いながら最終的にバンドとして成立するまでの、マイナススタートからゼロ着地の物語である点が新しい。
もともとは、中学時代に結成した「CRYCHIC」が初ライブ後、言い出しっぺの祥子により突然解散。辛すぎた解散だったが新たにバンドをやり直そうとする橙、ミーハーで素人だがバンドで人生をやり直したい愛音、単純に橙が大好きな立希、CRYCHICKをやり直したいそよ、気まぐれで野良猫みたいな楽奈。それぞれの思惑が交錯し、時に本気で相手を傷つけ、それでも必死にもがきながら生きる。
9話で絶望的にバラバラになった後、10話の「詩超絆(うたことば)」で橙の詩と各々の演奏により、それぞれの心の底から湧き出るこのメンツでバンドがしたいという感情が爆発する。そこはもう、台詞のロジックじゃなくて感情の爆発。これを楽曲の歌詞と歌声と演奏の映像に、そのまま物語とドラマを乗っけてくる演出が凄い。最初は橙の独唱からはじまり、楽奈のギター、立希のドラム、愛音のギターが順番に添えられ、最期にそよのベースが加わる。そして、奏者たちはそれぞれの表情で泣きながら演奏する。演奏が楽しくて泣く、演奏が嬉しくて泣く、わけわかんないけど心に刺さっちゃってわめくように泣く。
順番に楽器が演奏に加わってくる流れも10話の流れそのものだし、歌詞は10話までの傷ついてきた経緯と離れたくない気持ちをダイレクトに伝えてくる。これ以上、分断して傷つきたくない橙の心の叫びを、屁理屈で分らせるのではなく、詩と演奏で分らせる。私は脚本のロジックをいつも気にしているのだが、このライブシーンの破壊力の前にはロジックが些末な事のように思えてくる。それくらいインパクトがあった。思うに、脚本だけで「そよが涙しながら演奏に加わる」などと無責任に書けるものではないだろう。楽曲制作や、ライブステージの雰囲気、演奏シーンのレイアウトやカットワーク、そうした要素が全て足並みを揃える必要がある。この辺りのバンドを魅せる総合力の高い演出が本作の凄みであろう。ある意味、遊びが全く無い、ガチガチの作りである。
キャラクター的には主人公の橙のアスペルガー症候群と思われるキャラ付けが攻めていた。直近では、「Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」も主人公が発達障がいを思わせるキャラ付けであったが、実は成績は優秀だとか、コミカルな作風ゆえにシリアスなキャラ付けはしていなかった。その点、本作の橙はどこから見ても、アスペルガー症候群と思われる行動パターンや仕草で破綻がない。
メンバーは、こいつとは分かり合えない部分を持ちつつも、トータル演奏してゆく仲間としては認めることで合意形成が出来ており、ミーハーな愛音にそよが嫌味を言ったりなどのテンプレ茶番劇みたいのは入るが、それはそれでリアルな距離感にも感じる。キャラクターが重要なソシャゲとの連携もあり、各キャラ毎に明確なキャラ付けが必要という背景もあるのだろう。その意味で、「MyGO!!!!!」のキャラ付けは11話で一度固まったと言っても良いだろう。
文芸面では、ミステリー仕立てというか、いくつかの謎を提示しつつ、少しづつ謎を解決しながら次の謎を提示するというスタイルで、飽きさせないストリー構成になっていた点もバンドリとしては新しい。そして、祥子が総合プロデュースする「Ave Mujica」というライバルらしき仮面バンドの存在を披露して、2期に続く流れである。こちらのバンドも、富豪から没落した祥子の狙いが分らず、集められたメンバーも今を捨て、仮面を付けて役を演じるような世界観重視のクセの強いバンドである。メンバーも知り合いが多いとはいえ、和気あいあいというよりもビジネスライク。「MyGO!!!!!」とは違った意味で、特に祥子にドロドロ、ギスギスしたモノを感じる。橙からの和解を拒否した祥子のメンタルが気になるところである。
総じて、謎を残しつつ視聴者の関心を弾き続けたシリーズ構成、安定したキャラの濃さ、百合味ある女女の関係性、痛々しい心の叫びのような楽曲群と歌唱、フルコーラスの迫力の演奏シーンなどなど見どころが多かった。単純に脚本、楽曲、3DCGレイアウト作画などが、個別に良い仕事をしているだけでなく、これらが密接にリンクしながら協業して最終的なゴールに向かって練り上げられていた、と感じられたところが本作の凄みだったと思う。
わたしの幸せな結婚
- rating
- ★★★☆☆
- pros
- 懐かしささえ感じるベタな恋愛メロドラマで、それが全然ブレないところ
- リッチな映像と音楽、直球な演出
- cons
- 若干、異能(超能力)設定が分かりにくかったように思う
大正時代風の逆境冷遇ヒロインのメロドラマかと思いきや、「異能」と呼ばれる超能力設定により超能力バトル物としても楽しめる、一粒で二度美味しい作りになっている。恋愛メロドラマ部分が肝であり手を抜かないところが本作の美点である。
原作は、顎木あくみ先生によるなろう系小説。制作は「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「メイドインアビス」のキネマシトラス、監督は久保田雄大。シリーズ構成は脚本と兼ねて佐藤亜美、大西雄仁、豊田百香の3人体制。音楽は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のエバン・コールというのは個人的にポイントが高い。
本作は、制作がキネマシトラスという事もあり、十分以上にリッチで美麗な作画・撮影で安心してみていられる。が、本作の強みはやはり、丁寧かつやや強めで分かりやすい演出にあると感じた。勧善懲悪な作風なので、憎たらしい相手を憎たらしく描くという意味で、本作のディレクションは分かりやすくベタなのが良い。
本作は、主人公の美世の感情の変化を丁寧に描く。美世は斎森家で常に否定され続け味方もおらず自己肯定感ゼロでのスタートである。清霞の元に嫁に出されて、徐々に人間性を取り戻し、一度は清霞とも誤解ですれ違うが最終的に美世が清霞を繋ぎとめるという流れ。声の演技は流石のCV上田麗奈で、当初のか細い声などボリュームを上げなければ聞き取れないような音量で、音響監督もかなり攻めていた。
総じて、絵コンテも作画、声の芝居も真面目にメロドラマを作っており、あまり深く考える必要もなく、ある種の心地よさと安心感を持って観ていた。
デキる猫は今日も憂鬱
- rating
- ★★★☆☆
- pros
- 軽い笑いと、たった一人の親愛な人への思いとの、笑いとしんみりの緩急のバランス
- cons
- 特になし
今期のダメ人間甘やかし枠。これまでは、ロリ少女などが社畜男性を甘やかしてきたが、今度は巨大黒猫が社畜OLを甘やかす。
まずもって、基本はコメディで楽しく観られる。小ネタのジャブを打ってくる感じだが、ジャブの応酬という感じではなく、若干パンチが散漫気味ではある。
巨大黒猫の諭吉は、人間よりも大きいくらいのサイズで二足歩行しエプロンを着て家事を完全にこなし買い物にも出かける。そして、子猫の時に拾って世話してくれたお礼に、ダメ主人公の幸来(ふく)のアパートで世話をする。諭吉が家事をこなす前、幸来は社畜OLとして汚部屋で暮らし毎日フラフラの状態だった。諭吉が家を掃除整頓して綺麗にし、きちんとした食事を作り、ちゃんと休ませ(寝かせ)る事で、今では幸来は社内では仕事ができるしっかり者として認定されている。それどころか、周囲の女子は幸来が好きになったりの百合っぽい部分もある。
きちんと生きるためには、身の回りの事をきちんとさえすれば自ずと正されるという話でもあるが、分かっていてもそれが出来ないからこそのファンタジーである。
本作が良いなと思うのは、甘やかし契約関係にある諭吉は拾ってもらったという恩返しから始まるが、諭吉も幸来もお互いに大切な存在という相思相愛的な部分がある事。とは言え、甘やかしすぎず、時に厳しく接し、やれやれと結局世話をするような距離感である。
やはり、主題歌の「憂う門には福来たる」ではないが、普通の幸せさえも遠く感じてしまう息苦しい世の中に対する救済的なテーマがあると思う。たった一人の大切な人に思い思われる事に帰結するというのが、本当に切実である。
最期になってしまったが、アニメーションとしての出来はなかなか綺麗で良い。制作のGoHandsの実力もなかなかだが、幸来の利き手が時々逆になったり、ちょっとしたところが色々と惜しい感じである。通勤電車やオフィスの3DCGも凝った感じも特徴に感じた。
総じて、そこそこ笑えたし、大切な人を大切にしたい気持ちが通底していて、地味に心地よく観れた佳作だったと思う。
僕とロボコ
- rating
- ★★★★☆
- pros
- 1話3分の超ショートアニメという制約による、ハイテンション、ハイテンポの勢いで笑える不条理ギャグ
- ロボコの可愛さ(非萌え)
- 意外としっかりしたドラマ作りがされている脚本(バラつきあり)
- cons
- 特になし
1話3分のショートアニメのハイテンションなギャグアニメ。原作は宮崎周平先生による少年ジャンプ連載漫画。
察しの良い人なら大地丙太郎監督で3分のショートアニメと聴いて「信長の忍び」を連想する人も居るだろう。本作の詰め込み度合、ハイテンション感はまさにそれと同じで、ハイテンポなギャグの応酬でかなり笑えた。それから、本作はかなりの部分にジャンプ漫画などのパロディを入れているのだが、元ネタが分らなくてもまったく問題なく楽しめた。シンプルに馬鹿笑いしたい人は一度観ていただきたい。
実は私は、NETFLIXで観たのだが、4話パック×7本=全28話となっており、全部観ても84分である。TV放送でブツ切りで観るよりも配信で連続してみる方が、笑いのツボを持続できる分だけ効果的に笑えるので、おススメである。
本作のキャラ配置だが、基本的に「ドラえもん」のまんまである。猫型ロボットの代わりに、オーダーメイド(メイド型ロボ)が居候するが、まん丸で愛嬌のあるブス顔、膝小僧の出っ張りがリアル、そして最強というキャラ付けが可笑しい。
主人公の凡人、友達のガチゴリラ、モツオ、円などのキャラのテイストはモチーフにしている作品そのものだが、暴力や金持ち自慢と見せかけて実はイイ奴というオチなのが新しい。この辺りは令和テイストの優しさでストレスなく気持ち良く観られる。
コンパクトにまとめながらも脚本の巧みさも感じる話もある。たとえば私が好きな15話のメイコ回。メイコはモツオの家のオーダーメイドだが、周囲のみんなを笑顔にするロボコに憧れがあった。多忙を極めるモツオだが父の嫌がらせで友達と遊べない事を嘆いているところを、ロボコを見習ってモツオの尻をひっぱたいて元気づけるというギャグシーン。メイコは普通のオーダーメイドだから規格内の行動しかできないところ、ロボコのように弾けてご主人様を励ませたというメイコの問題解決(=成長)の物語になっている。3分しかないからこそ、この辺りの情報の交通整理は大変だと思うが、これも過密カット割りで説明しているおかげで成立している。
ビジュアル面の基本は子供向け作品のそれだが、ギャグの元ネタなどに合わせて絵のタッチを劇画調やオカルト風味に変えたりと、芸が細かい。
色々と真面目に悪ふざけしている本作だが、2014年冬には劇場版を公開するとの事。本作の詰め込みは3分のショートアニメだから成立したものだが、劇場版の長尺で脚本やテンポ感はどうするのか? 想像がつかないことだらけだが、これはこれで楽しみにしている。
おわりに
今期はあまりアニメを観ていませんでした。そんな中で、「MyGO!!!!!」は出涸らし感のある女子バンド物というジャンルで、まだまだ視聴者を引っ張る作品の作り方があるのだな、と新しさが感じられました。
「僕とロボコ」は、3分間ショート枠ギャグアニメとして素直に馬鹿笑いできた作品でおススメです。ギャグアニメで素直に馬鹿笑いできる作品は少ないが、こうした詰め込み型ギャグのテンポ感がギャグアニメの1つのスタンダードになってきている感がありました。
最近、アニメ視聴をNETFLIXに依存している部分が多く、作品的に偏りが出ていると個人的には感じています。もう少し、知られざる佳作を見たいという気持ちもあり、秋期アニメは大作が多い時期でもありますが、その辺りのバランスを取れたらいいなと思いました。