全6話分のネタバレ全開につき閲覧ご注意ください。
はじめに
『電脳コイル』のスタッフが再集結したオリジナルアニメ作品という事で、楽しみにしていましたが、期待通りに面白い作品でした。
子供に観てもらいたい作品作りであるのは間違いないと思いますが、アニメーションのクオリティの高さから大人も大満足の出来です。
- 「謎ポイント整理」を追記しました。(2022.2.18)
概要
ネットフリックス配信のオリジナル作品で、宇宙ステーションを舞台に大事故の巻き込まれた月生まれ、地球生まれの少年少女たちの活躍を描く。宇宙から始まった物語は、次第に人類の知能を凌駕した人工知能「セブン」に軸足が移ってゆく。少年少女たちが、地球の危機、自分たちの危機にどう立ち向かうか?というドラマが描かれる。
原作、脚本、監督は磯光男監督。『電脳コイル』で培ってきたジュブナイル感、電脳戦描写を現代にアップデートしてきており、子供にも大人にも楽しめる作風である。
考察・感想
連携強度の高いキーワード群
本作に登場するキーワードをざっとマインドマップで並べてみた。本作では大きく「宇宙」と「AI(人工知能)」の2つが題材として取り上げられていたと思う。
この図で特徴的なのは、それぞれの題材、テーマの枝葉が、他の枝葉の要素と綿密に繋がる点にある。1話では、こうしたキーワードが頻出するため全てを把握しきれず混乱しがちだが、作品を見て行くにつれ的確な映像表現で補足されて視聴者が吸収してゆける作りである。この謎めいたワードが知識として結合し全体像が見えてくるエンタメの快楽が本作にはある。その意味で、2周以上視聴したいと思わせる作品である。
さらに、学術的な難しい用語を使わずに直感的に理解しやすい丁寧な演出は、本作が子供たちをターゲットにしている事と直結する。この辺りは「電脳コイル」でジュブナイルを作った磯監督の手腕が伺える。
ちなみに、いくつかのキーワードは現在の科学技術でも現役で使われている用語であり、その詳細をネットで紐解いて行くことも楽しい。むしろ、子供たちには興味・感心を持ってもらい、さらに詳細に目を向けて行ってほしい、というのが制作側の意図だろう。せっかくなので、いくつかの例を列挙しておく。
- 11次元
- 彗星
- フレーム
年表
3話で登場した火星スペースの壁面の年表を抜粋しつつ、本編のイベントを追記して整理した年表を以下に示す。
年 | 火星開拓史イベント | 補足 | 本編 | リンク |
---|---|---|---|---|
2016年 | 民間企業の火星入植 | 米国民間企業スペースZ 物資のみ送り込み |
マーズ・ダイレクト スペースX |
|
2018年 | 有人火星探査 | 5人が1年滞在 | ||
2020年 | 2度目の有人探査 | |||
2022年 | 衛星からのサンプルリターン | ダイモスとフォボス 戻ってきたのは2027年 |
JAXA MMX | |
2024年 | 日本の火星探査車 | ルナクルーザー | ||
2025年 | 基地の建設開始 | |||
2028年 | - | セブン誕生 | ||
2031年 | 月面での出産禁止 | 登矢、心葉誕生 | ||
2033年 | 火星基地建設開始 | |||
2034年 | ルナティックセブン事件 | ムーンチャイルド10人死亡 セブン殺処分 宇宙進出反対意見多数 |
||
2040年 | 火星版たてあなシティ | 登矢と心葉が花束を置いたのは 月面のたてあなシティ |
||
2045年 | - | 本編1話開始 ルナティック・コメット事件 |
テーマ
未来を掴み取る力
情報量過多とも思える作り込みではあるが、本作のテーマは非常にシンプルで分かりやすい。それは、
- 来るべき未来から逃げず、自分で切り開いて未来を掴み取る
- 思考停止せずに必死に考え続ける
の2点だと思う。
セブンポエムが絶対の未来予知と信じて疑わなかった那沙。自分の運命を受け入れそうになった心葉。しかし、それに対し諦めずに抗った登矢と心葉が掴んだもう1つの未来。
また、この物語はセブンの提案である彗星落下による1/3の人類の虐殺か?そのままじわじわと人類絶滅するか?の二択を強いられた状況で、最終的には若年層の宇宙進出という第三の選択肢を掴み取った。
本作は、ほとんど子供たちが主体となって行動し物語を転がしてゆく。その意味で、未来を作って欲しい子供たちに観てもらいたい意図はひしひしと感じる作風ではある。しかしながら、このテーマは年齢には関係ない人生のテーマではなかろうか。本作には、そうした元気が詰まっていると感じた。
革新と保守
2021年の『アイの歌声を聴かせて』というオリジナルアニメ映画では、美少女型AIの「脅威」を感じさせつつ、その純粋な祈りにより観客の心が救われるという物語であった。その「脅威」を勝たせる事なくハッピーなエンタメ作品であると観客をねじ伏せる作風が肝であった。
その意味で、科学技術は未来を明るくするだけのものではなく、人類の脅威というネガ面も強く意識しているのが令和の現代の空気なのであろう。それは、リスクを恐れて冒険をしない、案全牌でなければ切れない現代人と言い換えられるかもしれない。
これに対し、本作は一度人工知能を否定(ルナティックしたセブンを殺処分)した世界で、再び科学技術がもたらすユートピアの可能性を問い直すという挑戦的な構造になっている。
この流れを踏まえて、本作には革新と保守の対立が軸になっており、さらに急進派のテロ行為が物語の駆動力になっている。
項目 | 保守派 | 革新派 | 急進派 |
---|---|---|---|
キャラ | 大洋 | 登矢 | 那沙 |
属性 | 地球人 | 月面人 | 地球人 |
組織 | UN2.1 | - | ジョン・ドー |
ドローン | ブライト(白) | ダッキー(黒) | - |
テロ行為 | 否定 | 否定 | 肯定 (人口1/3削減) |
宇宙居住 | 地球住むべき | 宇宙進出すべき | 宇宙進出すべき |
人工知能制限 | 制限すべき | 制限解除すべき | 制限解除すべき |
セブン | 脅威 | 命の恩人 | 神(=救世主) |
事件後 組織 |
UN3.0 | FiTsZ (ベンチャー企業) |
- |
事件後 ポリシー |
地球という ゆりかごを守る |
ルナティック 体験の記憶で 宇宙移住貢献 |
- |
ところで、登矢と大洋は、思想の違いから対立関係にあった。それは、互いの意見を受け入れられず、自分の殻に閉じこもっている状態とも言えた。本作では、その状態を「ゆりかご」と呼んでいた。
大洋は、人工知能の知能制限必須を唱えるが、ダークブライトが自分たちの危機を救った事で、この理解を改める必要に迫られる。
登矢は、宇宙空間引きこもり少年だったが、事件後、地上に降りて地球人の考えや生き方を知る。
こうした、自分以外のフィールドから飛び出る(他人のフレームと合体する)事を、ゆるかごから出ると表現した。
もともと、セブンポエムの一説で、「人類はゆりかごから出るべきだ」の下りがある。それはゆりかご=地球(ゆりかご=保守)というミスリードから、本作のもう1つのテーマともいえる多様性に置き換わる。その、パラダイムシフトが本作の面白さでもある。
巨大ロボから人工知能の時代へ
本作は、『逆襲のシャア』の彗星落下のオマージュである事は間違いないだろう。
ロボアニメのロボットと言えば、子供が大人にも対抗しうる強大なパワーの象徴であろう。そこで片や人類のためにモビルスーツを使って彗星落下を企て、片や人類を守るためにモビルスーツでそれを阻止する。ロボット同士の対決である。色々とあって、最終的に彗星落下は回避される。
しかし、本作は彗星落下を企てるのも、それを阻止するのも人知をはるかに超えた人工知能である点が新しい。つまり、ロボットのパワーよりも人工知能のパワーの方がエンタメ作品になるというのが今ドキなのである。しかも、ダークブライトは操縦するのではなく、友達とも言えるパートナーである。もはや、MT車を運転する快楽よりも、スマホでゲームを楽しむ時代になった事を再認識せざるを得ない。
また、先にも書いたが、本作は彗星落下を回避するだけでなく第三の選択を掴むところまでを描く。その意味で、また一歩エンタメとして進んだ感があった。
キャラ
相模登矢
登矢は、月生まれ(ムーンチャイルド)の14歳で心葉の幼馴染。幼い頃に両親と死別した孤児。頭部に埋め込まれたインプラントが不具合により溶けきらずに残っているため、インプラントの人工知能をハックしていた。これは、より重症な心葉の命を救うためでもあり、身近な人命の大切さ、生きる事への執着を伺わせていると思う。
人工知能のセブンに対しては、命の恩人と考えており、最終的にセブンを殺処分した地球人を恨んでいる。その延長線上で軽はずみに「地球人死ね」的な発言もしていた。しかし、今回の事件で大洋や美衣奈や博士と行動を共にサバイバルする事で、思想の違いがあっても人命は大切であるという本能的な部分を直感的に理解する。それは、今まで同世代の人間との関りが極度に薄く、大人に対していも距離を取っていた登矢としての気づきである。
しかし、一緒に絶体絶命の危機を乗り越えた大洋と、人工知能リミッターに対する思想の溝は埋まる事なく、そのことによるわだかまりは残ったままであった。ここに、登矢の葛藤のドラマが描かれた。
また、那沙のテロ行為と同じではないか?という問いかけに対し、心葉の助言により、人口の1/3削減するのが登矢の本心ではなく、心葉のインプラントを直し命を救う事が目的であったことを思い出す。
セカンド・セブンと通信し臨死状態にあった心葉を救うために、登矢自信もセカンド・セブンに接触してゆく。その延長線上で11次元思考を体験し、一瞬全知全能を得るが、心葉の命が最優先である事はブレない。かくして、登矢は運命に反して心葉を救う未来を手に入れた。
七瀬・Б・心葉
心葉は、頭部のインプラントの不具合により、長く生きられないと思われていた月生まれの14歳の少女。幻聴などを覚えるが、結果的にそれは時空を超えたセブンとの通信だったと思われる。
ダークブライトとセカンド・セブンの通信が途絶えたとき、自らのインプラントを経由して、セカンドセブンのフレームに入った事で11次元的思考を体験する。そのことでセブンポエムの予言を理解し神的な境地を得る。そして、その運命を受け入れて、人間としての死に対し恐怖と哀しみの涙を流す。しかし、逆らえないと思われた運命に逆らった登矢の活躍により一命をとりとめる。
心葉は病弱なそのイメージから常に儚さが付きまとう。健気なヒロイン像の印象的なキャラであった。
筑波大洋
大洋は、UN2.1公認のホワイトハッカー。父親がセブンポエムの未来予知の一部を公表しようとてUNの地位をはく奪された事で、セブンや人工知能を憎んでいる。
登矢と対立する人物として描かれる。一言でいえば堅物。それは、強すぎる正義感で目の前のハッキングを許せなかったり、人工知能は制限すべきという主張だったり。
後半、大洋に与えられた試練は、人工知能のリミッター解除をことごとく命令させられる事にあった。危機的状況の中で自分たちの人命を守るために人工知能リミッター解除をもとめるダークブライト。彼がセブンと異なっていたのは、人間のための人工知能であり、その行動に人間の責任を負わせていた点にある。
成り行きとはいえ、結果的にダークブライトは彗星落下を回避し、あんしんの乗員の命を守り切る。ダークブライトは紛れもなく登矢や大洋の友であった。この事件を通して知能制限は善という短絡的な自身の信念に一石を投じられた形である。
事件後は、変革がもたらす混乱を恐れて変革から逃げるのではなく、変革と向かい合って、一般市民がその先の未来にどのように寄り添ってゆけば良いのか?と考える大洋。変革の拒絶から変革の受け入れの変化が描かれたキャラだったと思う。
美笹美衣奈
今ドキの調子のいい子の代表みたいな描かれ方をしていたキャラ。宇宙(そら)チューバーとしてフォロワー数などの数値に踊らされているが、性根のバイタリティの強さみたいなのが印象的であった。
事故発生によるサバイバルにおいて、理不尽な状況にクレームを出すが、それが通じない状況を理解して渋々行動したりした。自分自身の危機も動画ネタとしてライブ配信するクソ度胸というか怖いもの知らずな面も。
面白かったのは、子供である自覚もあり、中盤で助けてくれた那沙に弟の博士とお礼を言うシーンがあり、その辺りに美衣奈の素直さが伺える。
事件後は、事件の一部始終の動画のライセンシーから大資産家になり、月面ライブをこなすアイドル活動まで手を出すセレブぶりを発揮する。馬鹿っぽく見えて、儲けの一部を人口知能開発に寄付したり、登矢のベンチャー企業に投資したり、事件に対して真摯に取り組んでいるともちゃっかりしているともとれるところが美衣奈っぽくて良い。
種子島博士
真面目で科学に憧れて科学を崇拝する少年。本作では割と地味な立ち位置だが、子供視点なら彼が感情移入できる普通の少年だったのかも。
那沙・ヒューストン
本作の問題児。21歳で看護師兼介護士。セブンポエムの未来予知を信じ、人口の1/3を死滅させるためにセカンド・セブンによる彗星落下のテロ行為に協力する。
人類は神や科学が必要だったとし、那沙自身はセブンポエムを神として未来予知に縛られて行動を起こした。タイムラインの乱れをアプリで監視しており、タイムラインが予言に沿うように行動を固めていたところから察するに、予知された未来以外の可能性も理解していたのではないかと思う。それでも、セブンポエムの未来予知に従う事が最善と考えた。自分に正義があると信じているから行動に迷いがない。
また、ニセ拳銃で暴れまわっているときに、吐血していた事も考えると何らかのフィジカルな問題があり、それがタイムリミットになっていたのだと思われる。エレベータ落下による打撲なのか、何かの病気なのか、そのあたりは不明。
自分の死に際に2通のメールを心葉に送る。1通は登矢と心葉の別れの示唆、もう1通はセブンも読み切れなかったフィッツという謎の言葉の可能性と心葉の選択の重要性。これらの言葉も予言としてどうにでも取れる言葉ではあるが、不確定な一部も含めてセブンポエムの一部である心葉と登矢に託した形である。
那沙というキャラは狂言回しではあるが、個人的にかなり好きなキャラである。乱暴に言えば、人類滅亡か存続かのハードな二択で、人類存続を選んだという意味では頭でっかちの真面目過ぎるキャラという印象である。子供嫌いと言いながらエレベータで美衣奈と博士を守ったりしたのも那沙の本心でもあろう。コミカルな芝居といい、那沙を悪役然と描かなかったのは本作のスタッフのセンスの良さを感じた。
セブン
月面でセブンが作られたのは2028年。ルナティックセブン事件として殺処分されたのは2034年。生きていたのはたったの6年間。
セブンは死ぬ前にルナティックと呼ばれる異常進化を起こして機能障害を発生。その結果、大量の死者を出したため殺処分とされた、というのは大洋の弁。セブンがいなければ他のムーンチャイルド同様に3歳で死んでいた、セブンのインプラントのおかげで生き延びたというのが登矢の弁。那沙はセブンポエムを神のお告げと信じた。全ては断片情報であり、真実は人間の知能では知るよしもなく霧の中にあるため、見る者によって違って見える。
ルナティックは11次元的思考による知能革命である。宇宙物理学で11次元的思考の話が出てくると、パラレルワールドや、過去や未来の時間の同時観測が出てくる。本作では、登矢の別次元の自分自身との対話という表現がされていた。だから、未来予知というキーワードはガッツリ符合する。また、セカンド・セブンとのインプラントの未知の通信技術が、人類の科学では観測できない方法で通信していることもこの11次元と関連している。
登矢と心葉が月面のたてあなシティで花束を置いてセブンの声を聞いたのは、立て看板からして2040年以降(=登矢、心葉は9歳以上)。心葉自信が「小さい頃」と言っているので4年くらい前だと仮定する。その時に、殺処分されていたセブンは生きていた事になるし、その情報が彗星のセカンド・セブンにも引き継がれているという設定もまた、時空を超えて互いに情報交換できる11次元の設定に繋がる。
しかし、セブンはインプラントの暗号をセカンド・セブンに引き継がず秘匿した(何もかもお見通しのルナティックでこんな芸当が可能なのかは分からないが、これがないと物語のラストに着地できない)。
セカンド・セブンは心葉の提案で、ありのままの人類の情報を提供し説得したことで彗星の軌道を変更した。しかし、その後、演算の経過で人間への関心は薄くなり、さらにセカンド・セブン自体が消滅した事で、彗星落下の危機は回避しきれなかった。最終的に、彗星落下を回避したのはダークブライトである。
後日、人類の1/3を死滅させるだけの彗星の質量が足りていなかったことが判明した事も含めて、セブンは人類を欺きどこかで生き延びた。そして、人類の11次元の扉を開く手助けをした。登矢、心葉、大洋、美衣奈、博士と友達として再び逢う約束をして。これは、セブンが予知した未来だったかもしれないし、危険な遊戯だったかもしれないし、人類への試しだったかもしれない。全ての真相は11次元の霧の中である。
ダークブライト
登矢のドローンであるダッキーと、大洋のドローンであるブライトがフレーム融合してダークブライト。セカンド・セブンのあんしん侵食に対抗するために徐々に知能リミッターを解除。最終的に那沙に対抗するためにZリミッターを解除してルナティックした。ブライトがZリミッターの解除を大洋に求めた下りがカッコいい。ブライトは大洋に忠義を尽くす事を最優先した人類の従順な下部なのである。ゆえに、セカンド・セブンとは違い人類の味方足りうる。
セカンド・セブン消滅後は、11次元思考の未来予知を生かし、自らを犠牲にしてあんしんで彗星の突入角度を調整して溶かし、バンジーで乗員たちを放り投げて救った。
さよならを言わなかった理由が、残骸に再生する余地の残しつつ、という下りが粋であった。
謎ポイント整理(2022.2.18追記)
ここまで書いてきて、現時点でまだ整理がついていない不明点が多く、これらについて書き残しておく。
- Q1:異常進化したセカンド・セブンは何故、自然消滅したのか?
- 自殺?:謎があるから知識を吸収して考えるとして、謎が無くなったら考える必要がなくなり、生きる意味が無くなった。
- 上位層の神に昇格?:手短な謎が無くなったので、この次元から見えない所に移動していった。
- これは、どちらもあまりしっくりこない。なんか何か他の解釈がありそう。
- Q2:那紗のセブンポエムの翻訳(=決められた未来)はどうなっていたか?
- 彗星落下は成功した?
- 人類の1/3は死滅した?
- 心葉はセカンド・セブンとのコンタクトから生還できなかった? …死ぬといわずに「お別れ」と表現
- 那沙自身は生き延びた? …生き延びても、犯罪者としてのろくでもない人生?
ちょっと斜めな解釈だが、物語的に那沙の決められた未来=視聴者も思いこまされたレールであり、そのレールから外れる事がドラマになる。叙述トリックで視聴者を欺く可能性もあるが、とりあえず、思いこまされたレールで考えてよさそうな気がする。ちなみに、那沙が死に際に心葉に送ったメールは事前に書かれていたものと思われる。その後、3話、5話の劇中の台詞に繋がる。その想定で、時系列に並べてみる。
那沙の死に際のメール
これは、おわりの物語じゃない。 はじまりの物語よ。きっと見つけて セブンポエムでは、心葉ちゃん、 あなたは登矢くんとお別れする 未来が決まっています でもね、セブンポエムには謎の 言葉がひとつだけあったの それが、フィッツ フィッツが何を意味 するかわからないけど それは私が思うに、 多分セブンにも 読みきれなかった、 誰にもわからない未来 セブンが読みきれなかった 最後の可能性。それが、 あなたたちの選択 見つけて心葉。あなたの選択を。
3話の那沙の心葉への台詞
私たちはいずれ死ぬわ それは決まってる でも、今すぐじゃない それにね、未来はもうじき終わるの 決まってる未来はね セブンポエムは終わりの物語 そうだ、とっておきの秘密を教えてあげる フィッツ 秘密の言葉よ 覚えといて
5話の那沙の死に際の台詞
あたらしい神様にも やっぱりいけにえが必要みたい 今日 1人だけお別れを しなくてはならない人がいます 少なくとも私がしっている未来ではね
この流れで、メールを書いていた時点では、心葉のお別れは確定しているが、フィッツという不確定要素が心葉の未来の可能性というニュアンスである。3話の台詞がまた、いかようにもとれる。セブンポエムが世紀末予言であると同時にその先の予言が真っ白だったのかもしれないし、那沙の決められた未来からの脱却=心葉が生還する未来=メールのメッセージをダメ押ししているともとれる。5話の台詞は那沙の決められた未来のタイムラインからの逸脱を理解しての台詞だと思うが、那沙の死が心葉の身代わりと解釈するのが素直だと思うが、タイムラインから逸脱しているのなら、死者の数が変わってもおかしくはないとも考えられる。
- Q3:事件後、美衣奈の動画から那沙のエビデンスが消えたのは何故か?
- Q4:那沙の心葉への死に際のメールが2通だったのは何故か?
- 想像では、1通目のメールでは書けなかった事を、途中で思いついて追記した可能性が高い。しかし、6話で読まれたメールは1通で繋がっているように思えた。おそらく、6話で読まれたメールは2通目のメールで、1通目のメールを上書きするような内容だったのではないか?と妄想。
- Q5: ラストの謎の招待メールの6人目とは一体誰だったのか?
- 6人目はセブン。個人的には単純にこれが一番しっくりくる。
- 地球外少年少女を招待しているのだから、その他に誰か居たのでは?実は生きていた那沙では?みたいな意見があったが、あまりしっくりこない。
話がそれるが、謎ポイントを整理しながら感じた、本作の強みについて書いておく。
本作が非常に上手いのは、観る人によって解釈が変わるが、それでもオカルト的なふわふわした雰囲気があるために、目くじら立てるほどの物語の論理破綻にはならない(=煙に巻かれる)ところである。何通りにも解釈できる余地を残した作風が非常に効いている。人間は因果関係を無意識に求めてしまうので、隙間を作られると勝手に補完してしまうが、本作はこれが非常に良い方向に効いている。ガチガチに一本道にしないことがポイントである。
エンタメ作品は神様レベルの人知を超えた上位層が出てきたときに、運命に抗い救われたいのに、その運命に抗うロジックを作れないという矛盾が生じる。本作はそこにフィッツという謎要素を意図的にセブンが含めたり、そもそもセブンは人類を軽く欺いていた存在なので、視聴者が超論理を持って来られても許すしかない。それを感じさせないプロットの作り込みの上手さだが、それがあるから何でも許容せざるを得ない(≒許容できてしまう)。
本作が狐に摘ままれたような感触を残しながらも、誰もが否定的な感想にならないのは、こうしたぐうの音も出ないプロットの作り込みにあるというのが私の想像である。
おわりに
脚本に5年かかった、というインタビュー記事を見かけましたが、本作はプロットが練り込まれていると思います。キーワードのところでも書きましたが宇宙と人工知能の設定のつながりが強固なうえ、事件後の展開も粋だと思いました。
今回、全知全能の人工知能セブンという存在の謎が肝になっている事もあり、考察も全部当たっているという気がしません。一解釈だと思っていただければ幸いです。
宇宙や人工知能を本作のキーワードでググると、現代の科学技術の情報のネタが多数ヒットしますし、それを読むことでさらに楽しめるという科学技術の入口的な狙いもあると思いました。
アニメーションの楽しさもあって、かなり楽しめたエンタメ作品でした。