たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

DELL Latitude 7380 レビュー

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はじめに

DELL Latitude 7380(2017年8月発表)を購入したので、レビューを書く。

この製品は注文当時(2017年10月)はどこにもレビュー記事が無かったので、人柱覚悟での購入で、せっかくなので自分でブログに残しておこうと思った。

DELLのサイトとマニュアルはこちら。

ちなみに、購入後に公開された英語のレビュー記事はこちら。

また、液晶天板の違いだけで本体側が同一と思われる、DELL Latitude 7280(2017年1月発表)のこちらのブログ記事が大いに購入時に参考になった。感謝。


用途・選定経緯

ガツガツ文章入力するのが主目的。アニメやYouTubeなどの動画も観る。電車で座って使う事が多い想定なので、ラップトップとして使える事が必須。バッテリー駆動時間は長い方が良く、持ち運びを考慮して軽い方が良い。

これらは相反する要素でもあり、何を犠牲にして何を取るか?という問題でもある。

ちなみに、候補に挙がった主なノートPCは下記。

最終的にDELL Latitude 7380に決めたのは、X1 Carbon並みのバッテリー駆動時間、上質なキーボード、X270のフットプリントで、さらに薄く、いざとなればPD対応モバイルバッテリーで充電可能、という「汎用性が高くバランスの取れていて隙がない製品」だと考えたから。

開封

段ボール箱はとてもシンプル。中から化粧箱が出てくる訳でもない。気軽に紙ごみとして捨てられて嬉しい。

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箱の中身もたったのこれだけ。とてもシンプル。

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  • 本体
  • ACアダプター
  • ACアダプターのメガネケーブル
  • 説明書
  • SIMカードスロット用の説明書

使用感

デザイン・感触

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いたってシンプルで素っ気ないが、それがまたビジネスモデルらしくて良い。飽きが来ない感じ。天板やパームレストはしっとりとした梨地。高級感は有ります。

重量

  • 本体の重さは、1,242g。 f:id:itoutsukushi:20171210012447j:plain

  • ACアダプタの重さは、303g。 f:id:itoutsukushi:20171210012453j:plain

キーボード

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  • キーボードはしっとり感があり打鍵感は良好。

    • 海外のレビューでも、keyboardは高評価。
    • タイプしてみると、ストローク感と適度な反力感があり、タイプしやすい。音も静か。
    • ただ、個人的には、反力が強いのか長時間入力するとちょっとだけ疲れる。
      • (個人的にはキーボードは、Lenovo Thinkpad X1 Carbon の方が好みかも)
  • 日本語キーボードはバックライトが選択不可なので注意。

    • これは個人的には有った方が良いと思う。
    • ただし、バックライト有りの日本語キーボードは注文不可だった。パーツが存在しない可能性がある。
    • ちなみに、海外のレビューサイトの写真を見ると、英語キーボードでは、Fn+F10がバックライトのON/OFFの模様。
  • PageUP、PafeDown、Home、Endの配置が少しだけ独特。

    • PageUp、PageDownは右下「↑」の左右に配置。Home、Endは右上に配置。これら全てのキーがFnキー同時押し不要。(この設計ポリシーは理解できる)ただし、キーが離れているのは不便と思う。
    • 一般的に良くあるのは、「↑」「↓」「←」「→」キーとFn同時押しというマッピングで、個人的にもこちらに慣れている。
  • Backspace、右Shift、変換、無変換が隣のキーと繋がっている。

    • これは、英語キーボード様にくり抜いた本体部を使うため。見た目は少し気になるが機能上の問題はない。
  • スペースキーが、ホームポジションの真ん中に位置しているのが良い。

    • これ以外と重要な使い心地になります。スペースキーは短かめですが、右親指、左親指のどちらでも同じ感じで押せる。
  • Fnキーの機能は、アイコン見た目通り。

    • Fn+F4でマイクミュートにするとF4キー上の白色LEDが光る。PCのマイクを使う事はまずないので、常にミュートしているが、暗がりでウィンドウを閉じる際にAlt+F4を押すときに押し間違い難くなり便利。

タッチパッド

  • 指n本のゼスチャは便利。
  • 指2本スクロールが使いやすい。ブラウザ縦スクロースはストレス感じさせず上出来。
  • ブラウザの「戻る」「進む」のゼスチャが無いのが残念。DELLというよりWindowsの問題な気がするけど、Macでこれに慣れると不便に感じる。
  • DELL純正のタッチパッドユーティリティ(Synaptic社製)で可能な設定は下記。 f:id:itoutsukushi:20171209223444p:plainf:id:itoutsukushi:20171209223527p:plainf:id:itoutsukushi:20171209223534p:plainf:id:itoutsukushi:20171209223542p:plainf:id:itoutsukushi:20171209223551p:plain

液晶

  • 非光沢。主観ですが、階調滑らかで奇麗だと思う。
  • 海外のレビュー記事によると最高輝度は267nits。普段使っていて十分明るいので、私はいつも輝度30%くらいに落としてバッテリー駆動時間延ばして使用している。
  • 液晶天板は180度パタンと開く。180度開いたときに液晶天板側が本体側の下に少し潜り込む形。 f:id:itoutsukushi:20171209224557j:plainf:id:itoutsukushi:20171209224638j:plain

バッテリー

電源関連

  • ACアダプターはケーブルを本体に巻いて長さ調節可能。ちなみに、プラグ側のLEDは、PCと未接続でもAC電源側をコンセントに挿していれば光る。

  • 充電中は、本体手前の充電インジケーターの白色LEDが光る。ちなみに、満充電になれば消えます。本体Deleteキー横の縦長の白色LEDは電源ボタン。 f:id:itoutsukushi:20171209224022j:plain

SIM

  • 欲しかったのでSIMスロット付きを買いましたが、まだSIMカード買ってません。
  • IIJスマホのカードを試しに入れてみましたが、普通に使えてました。

指紋認証

  • 指紋認証はオプション選択するのすっかり忘れてました。まぁ、無くても良いけど。

拡張性

SSD

裏ブタ外せば簡単に交換可能です。 (裏ブタ外すの面倒なので詳細はオーナーズマニュアル参照)

メモリ

オンボードメモリではなく、メモリスロットに挿すタイプなので、裏ブタ外せば簡単に交換できる。これちょっと凄いと思います。 (裏ブタ外すの面倒なので詳細はオーナーズマニュアル参照)

サービス

テクニカルサポート

購入時に3年保証が付いていたのは、お買い得でした。連絡窓口は下記。

Dellサポートへのお問い合わせ | Dell 日本

製品の裏面に記載されているサービスタグを入力すると機種を特定してくれて、類似不具合の検索などできる。かなり便利。

リカバリ

OS リカバリ

すみません、リカバリについては未実施で、備忘録です。

Webで調べたところ、Windows 10のリカバリは何種類かある模様。

Windows 10 でDELL工場出荷状態に戻すには、「Windows回復環境(WinRE)を使用してWindows 10をデル出荷時イメージに再インストールする」という所を参照すれば良さそう。SSD内にリカバリ環境を持っている模様。

DELL OS Recovery Tool

SSD交換した際に、OSを工場出荷状態にする方法は、こちらの模様。

上記によると、DELL OS Recovery Tool をダウンロードして実行すると、製品のリカバリ用のISOイメージもダウンロード可能。もっと言えば、非Windowsでも、OSイメージのダウンロードは可能との事。

であれば、中古のDELL PCは、OSメディアなど無くても、SSD/HDDが壊れていて交換必要でも、工場出荷状態に戻せる事になる。多分、リカバリプログラムがインストール対象となるDELL製品のプロダクト番号などをチェックして、DELLの指定製品以外にリカバリできないようにしているものと予想しているが未確認。

もし、これが出来るならDELLは神ベンダじゃないかと思う。

総括

持ち運びできるスペック妥協しないノートPCとしては、大満足。購入前は、このサイズで1.2kgは少し大きく感じるかな、と思っていたが、実際に使ってみたら苦では無かった。

キーボードはサイズも打鍵感も良好。なのだが、個人的にはもっと軽いタッチのキーボードの方が好みだったかも。

ベンダがDELLなので中華メーカと違いサポートの安心感は半端ない。

総じて満足、良い買い物だったと思います。

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編(その3)

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

はじめに

第二楽章のキャラ毎の感想が長くなりすぎたので、みぞれと希美だけ分けました。

第二楽章後半のメインディッシュであり、映画「リズと青い鳥」に直結するであろう核の部分です。 武田綾乃先生の真骨頂である繊細で残酷な人間模様であり、そこを紐解くだけで結構な文字数になってしまいました。

みぞれと希美の長きに渡る関わり会いの中で、揺らめく互いの感情を時代を追って、まとめてみます。

なお、私はユーフォはアニメで入り、第二楽章以前の小説は未読ですので、アニメ一期+アニメ二期+小説第二楽章という流れでの感想・考察になります。

キャラ毎の感想

鎧塚みぞれ

南中時代

  • 希美との出会い
  • 南中吹奏楽部で希美と一緒に
  • 南中関西大会大敗

みぞれにとって希美は一番の友達。

引っ込み思案で自ら友達を作ろうとしなかったみぞれ。そんなみぞれに対しても、希美は他の人と分け隔てなく優しく声をかけてくれて、二人は友達になった。

希美は明るくて皆を引っ張ってゆく人望厚いリーダータイプでキラキラしてた。そんな希美に声をかけられて夢中になった。まるで白馬に乗った王子様が迎えに来た乙女の様に。

みぞれは、希美が夢中になっている吹奏楽部に入部してオーボエを演奏した。オーボエが上手く演奏できると希美も喜んだ。希美の関心を繫ぎ止めるために、みぞれはオーボエを練習し技術を磨いた。そんなお互いの気持ちが作用し共鳴し合い、みぞれのオーボエ技術はどんどん上達した。

当時から希美は人気者でいろんな友達と一緒にいるのが当たり前。みぞれは希美の事を独占したかったかも知れないが、当然そんな風にはならない。希美の関心が無くなれば、目の前から希美が居なくなってしまう、という不安をみぞれは常に抱いて居たのかも知れない。

興味深いのは、みぞれ自身は直接相手である希美の心に訴える事はせず、待ち続けてるという事。あくまで「待ちのみぞれ」の構え。

第二楽章後編に、関西大会に希美と来たのは中学時代ぶり、という台詞がある。みぞれにとってはコンクールは希美と一緒に居られるための舞台であり、みぞれ自身が勝ち負けにこだわるものではない事をうかがわせていた。

北宇治一年生時代

  • オーボエでコンクールメンバーに抜擢
  • 希美の大量退部事件
  • 希美トラウマ化

みぞれの一年生時代は、暗闇の中で一人うずくまっていた、という感じだと思う。

南中時代、希美は高校になったら一緒に金を取ろう、とみぞれと約束していたので、みぞれはそれを信じて希美を追いかけて北宇治高校に入学したのだと思う。

しかし、憧れの希美は吹部三年生の先輩といさかいを起こし、みぞれには何の連絡もせず一方的に、仲間を連れて大量退部という形で吹部を去った。

大好きな希美の気を引き、褒められたいためにオーボエを上手く吹けるように練習し続けていたみぞれ。なのに肝心の希美は私の事は何とも思っていない?嫌われている?その事実を直視する事が出来ず、大好きな希美と向き合う事さえ出来なくなった。

普通なら、希美に嫌われていると思うならば、オーボエは辛い思い出であり、手放して希美の事を忘れるという選択肢があってもよい。しかし、希美はその時でも輝かしいたった一人の友達であり、その繋がりを否定したくはなく、繋がっていた証であるオーボエを吹き続ける事しか出来なかった。希美への未練。

ここで、みぞれが極端だと思うのは、希美が退部しても、普通に、今はフルートは吹いていないの?などと会話できそうなものだが、たったそれだけ声をかける事もできないという引っ込み思案。みぞれは、いつでも自分から行動せずに、誰かの行動を待っていた。

北宇治二年生時代

  • 京都府大会突破
  • 希美との和解
  • 関西大会突破と全国大会銅賞

みぞれの二年生時代は、希美との復縁により、それまで心を覆っていた氷河が氷解し、喜びの感情が最高潮に達した、という感じだと思う。

希美が退部した後のみぞれのオーボエは精密機械の様に精巧な演奏だが、感情が伴わないマシンのような演奏だった。

合宿の日、久美子に、コンクールは嫌い、自分がなぜオーボエを吹き続けているのか分からない、と言った。でも、それは希美との繋がりの証だったから、オーボエを手放せなかっただけの事。

関西大会の前に希美はみぞれに接触し、みぞれは希美から逃げ出すが、最終的に希美はみぞれの事が嫌いでは無かったと誤解を解いて、みぞれと希美の友人関係は復縁した。

嫌われていると思った大好きな希美から、今まで通りの友達である事を切り出され、みぞれの気持ちはどん底から最高潮の喜びに反転して、感情の針はレッドゾーンを振り切った。そして、みぞれは生き生きとしたオーボエの演奏を取り戻した。

これで、みぞれの問題は解決したか?というと全くそうではない。本質的な問題は希美依存症という病気で、希美断ち状態から、希美が供給されるようになり、禁断症状が出なくなっただけ。

みぞれの「希美離れ」が一番重要な課題だが、二年生時代にはその問題は先送りとなった。

しかしながら、みぞれは感じていたはずである。全国大会出場まではコンクールを中心とした吹奏楽熱はあるものの、それ以降は、徐々にそれ以外の興味の比重も増え、吹奏楽以外の友達の付き合いの割合も多くなってくるだろう。みぞれは希美の事が一番好きで大切だけど、希美はみぞれの事は不特定多数の友達のうちの一人である。今までの濃度で希美を占有する事は、おそらく叶わない。

大好きで独占したい、だけど相手はそんな風には思っていない。いつも優しい微笑みをくれる、だけど相手はいつまでもこのような笑顔を見せてくれるのだろうか?

喜びと裏腹の不安。希美がみぞれに対し少しづつ離れて行ってしまう可能性。当然、そうなる可能性が高いのに、不安を増殖させながら、だけどその現実を直視できない。

みぞれは、受け入れがたい事に対しては、思考停止して考える事が出来ない、前に進む事が出来ない。そんな月日を過ごしたのではないかと思う。

  • 優子との関係

希美との復縁に関連して、優子の床ドンも触れておかねばならない。

優子は、基本的に弱者を救済する。みぞれは見た目通りにか弱い存在であり、みぞれの事が好きで気にかけている。

更に優子は大量退部の時に吹部に留まった側の人間であり、みぞれがトラウマになった希美の事を少なからず嫌っていた事は想像に難くない。

しかし、その優子の思いはみぞれには届かない、というところが切ない。ここが武田綾乃先生の優子に対する厳しさがにじみ出るところだと思う。

よくは分からないが、強く正しい優子は、みぞれの中では心を溶かして一緒にいて心地よい友達というよりは、一緒に居て肩がこり疲れる友達、として認知されていたのかもしれない、などと想像している。

一言でいうと、これがみぞれの残虐性。相手がどんな気持ちで思っているのか、想像が働かない。

北宇治三年生時代

  • 音大進学と希美

みぞれの三年生時代は、自らの意思で行動しはじめ、希美と離れる現実を直視し、未来の一歩を踏み出した、という感じだと思う。

新山先生から聞いたという音大推薦のみぞれの話に食い付いた希美。その希美が軽い気持ちで言った音大進学発言に私もと追従したみぞれ。ここでもあくまで希美が望む所に一緒に行きたいという気持ち。

希美が後輩を大切にした方が良い、と言えば梨々花達もプールに誘う。希美が望む事を実践するのは希美に嫌われないようにして希美を引き留めるため。

でも、その心の裏では、また希美が勝手に消えてしまうという不安を抱き、その点について希美を信用出来ない気持ちがみぞれの心を覆いつくしてた。好きだけど嫌い。

希美は本心とは裏腹に笑顔を偽造する様が描かれていたが、みぞれもこれまでの付き合いでそうした希美の嘘を感じ取っていたのだと思う。音大進学を約束した希美だが、一緒に音大に行かない可能性が、勝手に消えてしまうという不安を現実のものにした。

合宿の朝、久美子がみぞれに希美が音大を受けない可能性を示唆し、それについてみぞれは「分からない」と返した。都合が悪いことは思考停止するのがみぞれ。

新山先生のリズの気持ちではなく、青い鳥の気持ちでオーボエを吹くってのは、天才的な逆転の発想だと思った。

この助言でみぞれは、それまでの精密機械の様な感情の無い演奏から、総天然色の最高に生き生きした演奏する事ができた。

ここで面白いのは、リズが青い鳥のリズ離れを望んだために青い鳥は飛び立ったのだが、これは、希美が希美離れを望んだためにみぞれが飛び立つ事が出来る、というロジック。

リズと青い鳥」は、みぞれは生き生きとした演奏だけでなく、希美離れのチャンスも与えた事になる、と思った。その理由に、この直後、久美子に大好きのハグを自分からする事を言及している。これはみぞれにとっては成功体験の第一歩だった可能性があると思う。

もし、そこまで考えての新山先生の発言なら、新山先生は天才かと思う。

  • 太陽公園での希美と大好きのハグ

関西大会の二日前、みぞれから希美への告白。これは、先のオーボエ無双から少しづつ変化しているみぞれの心が勇気を振り絞った結果の行動。もしかしたら、関係が壊れてしまうかもしれない。でも、我慢できなかった告白。

希美が音大に行かない事を責めて、それでも希美が望んだ事だと受け入れて、大好きの告白として「大好きのハグ」をした。その時の台詞は「希美の事が好き」である。対する希美の台詞は「みぞれのオーボエが好き」であり、みぞれの事を好きとは言えない気持ちを出してきた。

みぞれはこの希美の言葉の意味を理解していたのかどうか分からないが、みぞれは思考せずに感じるタイプの人間なので、希美が埋めない溝がある事を直感で感じていたのだと思う。関係は壊れる事は無く、距離が変わる事は無く、いつまでも埋まらない溝が明確になった。これはこれで、ある意味残酷な事実を突きつけられた形のみぞれ。

今この瞬間を抱きしめ合いながら、その気持ちは本物だから。

多分、この時は、みぞれの考えはまとまっていなかったと思う。永遠にその時間を過ごしたかったのかも知れないが、わらわらと夏紀達外野が出てきてその瞬間は幕引きされた。

みぞれが勇気を振り絞った瞬間の夕焼け空がその瞬間だけ真っ赤に染まった演出が印象的だった。

  • 音大進学の決心

関西大会ダメ金後、植物園の演奏会の前のタイミングで久美子に告白するみぞれ。

合宿の時に久美子が指摘された希美が音大に行かない可能性について、「いっぱい考えた」という所がマイペースっぷりが半端なくて可笑しいが、みぞれにとっては大真面目。思考停止せずに前進した事の証。

希美が音大を諦めた事に対して、みぞれは音大を目指す事を決めた。理由は、音楽は希美がくれたものだから。

希美が好きなのはみぞれのオーボエ。希美が好きなオーボエを続ける事が希美が望む事ならば、そのためにみぞれは音大で音楽を勉強する。この下りは「リズと青い鳥」の青い鳥そのものである。

初回読了後、私はみぞれの希美依存症は治っていないように感じていたが、読み直してみると上記の通り、青い鳥になぞって見事に飛び立つ様が伺える内容になっていると思う。まるで合宿の日、飛びぬけた演奏を披露した時の様に。

この展開のロジックの美しさは見事。

正直に言えば、みぞれが希美だけが友達と思っていた感情に対し、久美子や梨々花やいろんなタイプの人間とも本気で友達付き合い出来る姿が見れれば、一番良いとも思うが、それにはまだ時間が少しかかるのだろう。

そうなったみぞれが、優子や麗奈の様な従来みぞれが苦手としていたと思われる人間とも、心を開けるようになっていれば、みぞれにとっての本当のハッピーエンドというか、一社会人としてやっていけそうな安心感が得られるのだけど、そこまでは欲しがり過ぎというか、読者の心の余韻で楽しんでください、という事かも知れない。

傘木希美

南中時代

  • みぞれとの出会い
  • みぞれのオーボエ
  • 関西大会銀メダルの敗退

希美は一人ぽつんと座るみぞれに声をかけたのは、ただ希美が良い子だったからだと思う。

希美は誰とでも明るく仲良く接し、持ち前のリーダーシップで周囲の人間を引っ張る存在。こちらから笑顔で接すれば向こうも笑顔で返す。相手の得意を誉めれば相手も喜ぶ。ただ単にそういう優等生だったのだと思う。

希美はみぞれを吹部に誘った。みぞれのオーボエの上達を素直に褒めた。そして、それを受けてみぞれは喜び、オーボエの腕を磨きより上手に演奏できるようになった。

希美は三年生で吹部の部長を務める。銀メダル敗退の帰路のバスの中で隣に座るみぞれに「高校で金取ろう」と言ったのも当時の悔しさを前向きに口にした。

ただ、それだけの事だったのだと思う。

北宇治一年生時代

南中三年生時代の雪辱戦としてコンクールで勝ちに行きたい希美に対し、北宇治吹部のコンクールを重視しない方針で出鼻をくじかれる希美。その事で不満が募り三年生といさかいを起こし、仲間を連れて大量退部した。

希美はプライドが高い人間なんだと思う。先輩からの嫌がらせに腹が立ち、我慢出来なくなりキレたのだろう。

希美は明るく接する事は得意だが、逆に利害の一致しない人間からのストレスが加えられた時は脆い。希美の結論は、無理に一緒に居る必要はない、その場から退散する、という潔いものであった。

一度言い出すと希美は後には引けない。「すみませんでした」とその場をお茶で濁してやり過ごす事は出来ない。そういう所は馬鹿正直で生きるのが下手とも言えるのかも知れない。

希美はその人望とは裏腹にいくつもの「負け」を背負って生きている。妥協と言い換えてもよい。この時の退部も希美の中では屈辱の大敗であろう。

ここで希美が特徴的なのは、こうした負債を背負い込んでいても、常に「良い子」として振舞う事を自らに課しているところ。そして、そのギャップを埋めるために無理やり口角を上げて笑顔に見える顔を作る事を日常的に行うようになっていったのだと思う。

この「良い子」を演じるという性格は親のしつけの賜物なのだろう。それ自体が悪い事とは思わないが、希美のそうした辻褄合わせの技が、希美という人間に表裏を作り、その性格に大きく陰影を落とす形となったのではないか?もっとはっきり言うと、希美はこうして体裁を取り繕うために嘘を付ける人間になった、などというと言い過ぎだろうか。

  • みぞれに対する嫉妬

大量退部で希美がみぞれを誘わなかったのは、みぞれがオーボエ奏者としてコンクール出場が決まってて活躍する舞台が約束されており、黙々と個人練習する様から、みぞれが吹部を辞める理由は無いと考えていたから。

前述のとおり希美はプライドが高い。みぞれに何も言わずに退部したのは、コンクール出場という勝ち組のみぞれに、負け組の希美がかける言葉がなかったからだと思う。

そして、この頃から、みぞれへの嫉妬は蓄積し始めたのだと思う。いつも寄り添って慕ってくる猫の様なみぞれ。しかし、その演奏の上手さを妬む嫉妬の気持ち。何故、みぞれは問題なくコンクールに出場出来て、私は退部しなければならないのか…。

それともう一つ気になる点として、退部によりみぞれは友達が誰も居なくなる事を、希美は理解していたと思う。これにより身寄りのない捨て猫になるみぞれの事を、仕方ないとケアを諦め退部した。希美自身は他人の事にかまけてる余裕は無かったのかも知れないが、この時、希美は後ろめたさを感じていたのだろうか?

最終的に、退部した希美は吹部に顔を出す必要もなくなり、みぞれとも自然に疎遠になり、みぞれの事も含めて、一旦遠くの方に追いやってしまったのではないかと思う。そうしなければ、希美自身が辛すぎたのだろう。

北宇治二年生時代

希美にとって、滝先生の指導の下、吹部が本気でコンクール目指す体制に豹変したことは、青天のへきれきだったのだろう。希美は京都府大会の演奏を観客として見に来てた。

この機会にお世話になったあすか先輩達をお手伝いしたい、そう思って、あすかにその件で吹部に戻らせて欲しいと嘆願するも、キッパリ断られ戻る許可を得られない。

あすかが希美復帰を拒む理由は、みぞれのメンタル崩壊を心配しての配慮だった。この件では夏紀が希美の復帰を手助けしていた。希美もここまで拒否される理由が分からず困惑状態に。

  • みぞれとの和解

みぞれとの和解は、希美がみぞれの事を嫌っていないと言い聞かせ、昔通りに普通に一緒に居られることを伝えた事で、満面の笑みと突き抜けたオーボエ演奏がみぞれの元に戻ってきた。

この時も、希美はみぞれに対する負の感情なんてまるで無かったように振舞った。

きっと内面の感情ではいろいろ思っても、表面では良い子を演じる優等生が染みついているのだろう。表面的には負の面を徹底的にみせないように。そして、この場を取り繕い、結果的に北宇治吹部の危機を救った。

  • 関西大会突破と全国大会銅賞

以降は、B編チームと行動を共にして、コンクールメンバーを支える側として北宇治吹部で行動し、自分のために吹くという、みぞれのオーボエの上手さにうっとりした。

そうこうしているうちに全国大会も終わり、従来通り様々な友達と様々に交流する通常モードに戻っていたのだと思う。

そして、来年度こそ私も念願のコンクールの出場するのだという思いを胸に。

北宇治三年生時代

  • 大学進路への迷い

みぞれの音大進学発言に単純に憧れて、音大に行きたいと言ってしまい、引っ込みが付かなくなった希美。実際に音大に行くにはお金も勉強も必要で非現実的な選択である事を思い知る。

希美はそのプライドからみぞれに音大諦め気味な事を告げる機会も持てないでいた。みぞれの方はお金も勉強も困った風ではない。か弱い子猫のふりして実際のところ随分と恵まれた環境と才能を持ち合わせており、無意識のうちにみぞれに対する嫉妬として蓄積されていく様が、息苦しい。

希美は音大を諦めるという形で、みぞれに対する裏切る事になる。そして、その事をみぞれに告げる事もできず、そのまま時間が過ぎるのを祈るように。

その裏切り者の自分を希美自身が責めている。良い子として振舞いたいのに、どうしても悪い子になってしまう面を消せない。自分の中の二面性に苦しみ、それでもなお、良い子を演じようと口角を上げて無理やり笑顔を作りスイッチを入れる。

第二楽章では、希美のこうした葛藤、苦悩が描かれる形となった。これまで、希美は基本的に笑顔で人気者で周囲を明るくするポジティブな存在として描かれてきたが、ここに来て初めてその問題の封印を解いた。

これまで、イマイチ掴み切れないと思っていた希美の気持ちというのは、実はダークサイドを見られないようにするために、ワザと掴めないように本心を隠して振舞っていたのだと思った。

この事で希美を嫌うというより、希美の人間臭い面が知れて、より希美の事が可哀そうな存在で有ると知ることが出来た。久美子は希美の事を、ひどいと思うけど、嫌いになれないと言った。私も、嫌いになれない、は同感である。

みぞれがオーボエ無双する前までは、希美の方がフルートを生き生きと吹いていた。みぞれをバックアップしなければ、と良い子の希美が考えていた。

しかし、新山先生アドバイスにより、みぞれがオーボエ無双したとき、希美はその才能・実力にあっけにとられ、自分との格差を思い知らされ、悔しくてその場でフルートを吹くこともできず、直後の休憩時間に外に飛び出し、一人で涙を流した。

それは、希美が大切にしてきたプライドを一瞬にして跡形もなく破壊するほどに。

その後、久美子と会話もするが、希美は改めて、みぞれのオーボエをバックアップする決心をして笑顔を作り、演奏に戻る。希美というのは、こんな状況でも良い子を演じ続ける。流石にこの時は、二面性の哀れというより、逃げずにみぞれに応えるという気概を感じた。

第二楽章において、基本的に希美はカッコ悪く卑怯な存在として描かれる。でも、このシーンの希美は頑張っていたし、良かったと思う。

  • 太陽公園でのみぞれと大好きのハグ

関西大会二日前の太陽公園での練習の後、夕方にみぞれから大好きのハグをされるシーン。

みぞれから音大進学を諦めた事を確認され、なぜ私に相談もなく勝手に決めるのか?という事を責められる。そんなのは、希美のプライドでこじれた気持ちのせいで、それをみぞれに相談する事も出来ずに、問題ごとを放置したからに他ならない。希美の負の人格のせいだが、そんな事は口に出すはずもない。

希美の一般大学への進学の件を「希美の選択、希美が幸せならそれで良い」とみぞれに言われて「のぞみにそれ言われるのキツイな」と言ったシーンの気持ちは重い。希美の罪の意識を知ってか知らずか、みぞれはその罪を不問にし、希美の幸せを考えている。希美はみぞれの幸せなんて、これっぽちも考えていなかったのに。あまりにも一方的な愛とその重さ。

希美はみぞれの「希美の事が好き」に対して「みぞれのオーボエが好き」と応えた。このシーンは痛烈で、希美はみぞれの愛を受け入れることは出来ない、溝は埋まらない、という回答だと思った。

みぞれに対する嫉妬心からみぞれを更に傷付けてしまうリスクからか?単純にみぞれの愛が重すぎるからか?希美自身がみぞれにとって害悪にしかならないと思ったからか?

真相は分からないけど、最終的に、この台詞は、みぞれが音大という世界に飛び立つ青い鳥となるために、リズである希美が自分の元から巣立たせるシーンと重なるシーンだと思った。

  • 希美の問題について

結局、希美の問題というのは、良い子で居続けるために表面を取り繕う、自分で罪悪感を感じてしまう二面性だったのではないかと思った。そして、その希美の問題は未解決だと思う。

希美には、カッコつけずに、悪い自分も表に出して、二面性をぶっ壊して、裸になって付き合える友達が必要だったのか?もしくは、良い子を演じ続ける事をやめ、時には羽目を外して悪い事も出来るようになれば、自身の二面性からくるストレスは軽減出来たのか?

可能性の話だが、みぞれが居なければ、希美はここまでストレスを溜める事は無かったのかもしれない。みぞれの持つ恵まれた才能と環境への妬ましさ。しかも、みぞれのオーボエは希美が好き故に上達してきた。みぞれの希美への好きの気持ちの純度が高い事が希美にとってのダメージに繋がるという皮肉。希美にとってみぞれはモンスターに見えていたのかも知れない。

武田綾乃先生第二楽章で希美深掘りした結果、第二楽章とそれ以前で落差が激しすぎた希美。久美子じゃないけど、それでも嫌いにはなれない。

最後に

私はみぞれファンなので、第二楽章でみぞれと希美の気持ちには自分なりに決着を着けたいと思っていたが、書き始めるとこれまでにない文字数に膨らみ自分でも驚く。

このあまりに奇形で不器用な二人の愛。好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。

アニメからずっと待ち続けたみぞれの希美離れがどんな形になるか悶々と考えていた私に、回答をくれた第二楽章。とても面白いエンターテイメント作品を存分に楽しむことができた。

話は小説から離れるが、みぞれと希美は映画の「リズと青い鳥」でも取り扱われる。その時に、山田尚子監督の更なる解釈に出会える可能性も期待している。自分の解釈との乖離も味わいたいし、山田監督の、奇麗で汚くて、美しくて残酷な少女たちのきらめきを楽しみにしてる。

第二楽章ネタとしては、あと第三楽章の予想みたいのをまとめたいと思っているが、これは少し先になるかも、です。

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編(その2)

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

総括

再度読み直して、頭の中で整理出来ていなかった事が時間を経てまとまってきたので追加で感想をまとめた。

初回の感想を包含してはいないので、そちらもご参照頂ければ幸いです。

初回読了時には、後編終盤は関西大会ダメ金後、文化祭、植物園の演奏会など、いろんなイベントを足早に駆け抜けてたイメージだったが、読み直すと、北宇治吹部のいろんな問題に対して要所要所を確実に改善しており、心地よい読後感を味わう事が出来た。

久美子三年生編を第三楽章(仮)とした場合、第三楽章への伏線が多数あり、その辺りも整理して考察したい。

私はユーフォはアニメオンリーで、何度もアニメを見返して、感想や気付きや妄想をツイートしていた。 この度、初めて第二楽章の小説を読み、小説でも読み直して同様に感想や気付きや妄想を書き連ねる事が出来る事に気付かされた。

でも、それが出来たのも武田先生のユーフォの小説だからこそ、と思う。

骨の髄までしゃぶりたい作品を送り出してくれた武田綾乃先生と、関係各位の皆様に感謝です。

キャラ毎の感想

黄前久美子

優子部長は、来年度の部長を久美子にやらせるための人間関係作りのために、一年生の指導役を任せ、一年生の悩み事を久美子に相談に行かせるように仕向けていた。

久美子は、主人公であるがゆえに、一年生の時から本人の意思とは無関係に吹部の問題にタッチしてしまう損な役回りであったが、今年度も多数の吹部の問題に触れていた。また、影で黄前相談所と呼ばれていた所が可笑しい。

久美子の悩み事相談のアドバイスは、いきなり解決しないものも多く、それでも前向きに少しづつでもプラス方向の助言をしてる。

これは、一年生の時にみぞれと希美の問題に対して何も出来なかったものが、あすか復帰問題に対して直接本人と対峙して問題を解決出来た事で自信がついたためか、今年はトラブルに対して逃げない姿勢を貫いてる。

そうした相談事で久美子が誰かと対峙する際、一つ一つ慎重で、何かを間違えば壊れてしまうという緊張感が伝わってくる所が、とてもドキドキしながら読めて面白い。一瞬一瞬を大切に会話している感じが良い。

よくよく考えると、昔から久美子は、考えた瞬間にその言葉を発して何度も失敗していたキャラである事を考えると、正反対の行動であり、これが久美子の成長なんだと実感する。

久美子で印象的だったのは、希美先輩のやった事はひどいが、希美先輩の事は嫌いになれない、という台詞。罪を憎んで人を憎まず。事前に夏紀から希美が断罪されたがっている事を知っていた所はあるが、結果的にその後の演奏に全力を傾ける方向にまとまった。

ここで希美を甘く許しても、希美を全否定しても、ダメだったかも知れない絶妙な落とし所での対応だったと思う。もちろん計算づくではなくて、久美子の優しさからきた結果だと思うが。そうした事が一つひとつ上手く作用していた、と思う。

それともう一つ印象的だったのは、関西大会ダメ金で泣かなかったけど、植物園の演奏会の練習の休憩時間に秀一が久美子の頭の上に手を乗せたタイミングで緊張の糸が切れて初めて悔しくて悲しくて涙を流して泣いたシーン。

これは、この時秀一から優子部長が表彰式の後、通路で泣いていた事を聞かされれた事も関係していたかも知れない。

麗奈のように、感情直球で泣ける人間なら良いが、久美子は関西大会ダメ金という事実を心の中で消化し切れなかったのかも知れない。ガチガチに緊張していた久美子の心を秀一の優しさが解きほぐし、納得できない事実を直視したように感じた。秀一の優しさが無ければ虚勢を張る事は出来ていたのかも知れないが、やはり最後は心で受け止めないと次には進めない。秀一の存在が久美子にとって唯一無二で必要な存在である事を再認識させたシーンだと思った。

それにしても、秀一との関係で久美子のウブな可愛さが炸裂していた第二楽章だったが、久美子が部長を引き受けた時点で恋人関係は一旦解消されてしまった。この辺りの律儀さというか不器用さというか真面目な所は久美子らしい。ウブな久美子は次回作終盤までお楽しみとして取っておこう。

高坂麗奈

麗奈は今年の北宇治吹部の殆どの問題に対して、その本質に気が付いていた。

ファースト指名だった夢がサードになった事、みぞれが希美を信用できず全力を出せていたかった事、希美がみぞれに対し嫉妬していた事、久美子と水着を買いに行った時に少し話していた「好きかつ嫌い」のベン図はみぞれと希美の状態だったと思われる事。

もしかしたら、麗奈は北宇治吹部のそうした不協和音を直感で見抜いているのかも知れず、それは卓越した音楽センスと関係があるのかも知れない。

1年前ならそこまで周囲に気を使ってなかったと思うが、全国大会金賞を勝ち取るには自分だけでなく吹部全体の演奏が上手く回らなければそこに届かない事を理解して意識しているのだと思う。

ただし、麗奈はその直球すぎる性格から、その問題について本人と対話しても、本人の意識を変える事は出来ず、問題解決には至らない。それは、夢のファーストの件しかり、みぞれの全力の演奏が聞きたい件しかり。

だからこそ、先ほど書いた、久美子の他人の心にリーチする力との組み合わせが重要になる。

つまり、問題のアンテナ役の麗奈、問題の刈り取り役の久美子。このコンビネーションにより、北宇治吹部が本来の能力に対して120%の力を発揮できるようにする可能性があると私は信じていて、それが第三楽章のキーポイントじゃ無いかと妄想してる。

麗奈で印象的だったのは、久美子の部屋に泊まった時の「好きを嫌いと言ったり、嫌いを好きと言って、他人に好かれようとは思わん」の台詞。

麗奈が意識しているかどうか分からないが、これは希美に対する強烈な批判でもある。希美は結局、みぞれを嫉妬していたにも関わらず、表面では笑顔を作って対応していた。

麗奈はこうした二面性を理解できないし、その真っ直ぐで力強い感じが眩しいし、麗奈はそうあるべきだと私も思う。

吉川優子

強くて真っ直ぐな優子が部長になっても、北宇治吹部は全国大会の出場を逃した。

物語なので作者の意図通りの話の展開だったとは思うが、武田綾乃先生は、優子に対してビター過ぎるようにも思う。

誰もが認める正しさ、力強さを持ち、人一倍弱者を救済し、自分で背負い込む。優子の間違いはその優しさ故に、個人の限界の壁を作り、能力の100%以上発揮する機会を奪ってしまった事として描かれた。一見完璧なリーダがワンマンであるが故に組織を伸ばせなかった、という構図である。この辺りの描写は唸る。

もし次回コンクールに向けて、この個人の能力の限界のタガを外すためには、今回の負ける悔しさを一度味わう必要があったのかも知れない。

これはもう第三楽章に対する前振りとして、優子を捨て駒にされてしまったのではないか?とさえ勘ぐってしまう。

個人的に気になっていた優子のみぞれに対する優しさとその結末。

途中に夏紀の台詞で、優子はみぞれに甘くて、夏紀は希美に甘い、という発言があったのが印象的だが、結局、優子はみぞれ自身の心を明るくしたり、軽くする事は出来なかった。つまり、これだけ吸引力がある優子でも、みぞれの心はケアし切れなかった。余談ながらこれは麗奈にも当てはまる。最終的にみぞれの心にリーチして変革を即したのは、久美子からの、希美がいなくなったらどうするか?の問いかけだったのが、興味深い。

優子がその事を知っていたか否かは不明だが、その意味で優子の久美子を部長に決めていたのは、流石としか言いようがない展開。

それと優子は久美子にあれこれ部長の心得を指図するのではなく、自分の背中を見せて部長の重さを見せてきた所が優子っぽくて良い。北宇治吹部の歴代で見ても「仁義」って言葉が一番似合うキャラ。

中川夏紀

夏紀は、優子とのトムとジェリー的な喧嘩の中にも、優子に対する思いやりを入れていたりした描写があり、本当に熱い。

一番好きなシーンはベタだけど、関西大会演奏直前に久美子と奏に感謝するシーン。ここはホロリと来た。

夏紀は、これまで自分の優先順位は低くて、他人に尽くす人として描かれてきた。優子を支えたり、希美を手助けしたり、昨年はオーディション後に久美子を気遣ったり。

また、演奏に関しては北宇治吹部の中では底辺側の人間であり、A編成に残れた嬉しさとは裏腹に、他の部員の足を引っ張っちゃいけないという負い目もあったと思う。

それから、これは本人の上達したい強い意欲があってこそだけど、変なプライドも持たず後輩の奏や久美子に教えを乞うたりする素直さ、真っ直ぐさがカッコいいし、それに対して協力してくれた奏と久美子も良かったし、その事に対する感謝の気持ちが、清々しくて良かった。

結局、関西大会演奏直前にこのシーンを持ってきたのは全国大会に行けないフラグみたいになってしまったけど、前編でギスギスしていたユーフォニアムチームが、オーディション後、たった一ヶ月でここまで結束できた事、読んでいて嬉しかった。

極端な言い方をすれば、夏紀は日陰の人生から、念願のスポットライト当たる晴れの舞台に上がる事が出来た。これは、夏紀ファンに対する作者からの第二楽章での最大のプレゼントだったと思う。

久石奏と剣崎梨々花

前篇を読みはじめた当初、奏はムーミンのリトルミーに似ていると思ったが、読み進めるうちにちょっと違うかな、と思った事を前篇の感想で書いた。理由は利己的であろうとするが、なり切れない迷いみたいな人間臭い弱さ脆さを感じたから。

でも、後編を読んで、奏はやっぱりリトルミーだと思った。後編では、前篇のような内面のドラマは無くて、迷いなく皮肉屋に徹していたところがリトルミーっぽさが全開だった。

それでいて、作中では完璧な美少女でわざとさしくも可愛さを否定できない仕草の描写が多いなど、なかなかに破壊力もある。

親友である剣崎梨々花も、ふざけた感じのあの口調、あの態度ではあるが、こちらも可愛さ十分な雰囲気。

この二人は一年生を掌握するには必要不可欠な存在であり、来年度の部長である久美子も敵に回したら怖く味方につければ心強い存在。

この二人の掛け合い漫才を見ていると、なかよし川を連想させる。再来年の話をすると鬼が笑うかもしれないが、彼女たちが三年生になったとき、奏が部長で、梨々花が副部長として奏を支える、というのも十分あるのかな、などと妄想。

ところで、奏は他人を表面的に客観的に観察する事に長けている描写もある。もともと自分のカッコ悪い所は他人に尻尾を掴ませないように、自身の態度はある意味ガード固くそつなく振舞っている。もっと言えばお高く留まってる印象がある。

その意味で、恋愛もガードが固いイメージだが、恋愛するとなると超包容力があるか、トムとジェリー的なケンカ友達か、と勝手にイメージしているが、もし後者なら意外と求が近いポジションに居る。小柄な美少女と小柄な美少年…、でもやっぱ、それはないか。

小日向夢

夢は「失望されるのが怖い」という理由で人前で目立った演奏が出来なくなっていた。久美子との喫茶店でのやりとりでも自虐的なまでに卑屈に描かれていた。いずれにせよ、描かれ方が極端なまでに。

植物園での演奏会の直前の練習でも通して吹けない夢に対し、友恵からの挑発でやっと吹っ切れて思いっきり演奏して、ノーミスで通しで演奏できた夢。この成功体験により夢の問題は一旦解決した。

正直、初見では、この下りはサラサラと読み進めてしまい、夢のキャラを読み込めずに進めてしまったが、改めてこの時の夢の気持ちが重要に思う。

まず、夢にとって友恵はどんな人物に見えていたのか。

同じトランペットパートだったのにプレーヤーを辞めて裏方マネージャー業に専任した友恵先輩。あっけらかんとして、後輩の面倒見がよく、自分が人前での演奏の失敗が怖い事に対しても根気よく相談に乗ってくれたり、練習に付き合ってくれる。何故、私なんかにここまで世話を焼いてくれるのか?分からないけど、親身になってくれる大切な先輩、という感じか。

そして、友恵が在部中の最後の演奏会の最後の練習というタイミングで、最後の心残りだった夢に挑発というか嘆願。関西大会で北宇治吹部の演奏は最高だったと前置きで褒めた上で、吹部全員の前で夢に対して、今なら思いっきり吹いて失敗しても誰も失望する観客はいない、最高の演奏を聞かせて!、と。

それを受けた夢も今回は逃げなかった。夢が眼鏡を取りに来たのは、その友恵の顔を見て演奏するため。友恵の本気の嘆願に、夢は友恵だけのために本気の演奏を返した、と感じた。

夢にソロを与えたのは優子部長だったが、夢のリミッターを外せたのは優子でも麗奈でも久美子でもなく、友恵だった事に意味があるような気がしてならない。

話は変わるが、夢の力が解放された事で、今後の麗奈と夢の関係も気になる。

麗奈の音はハッキリとしていて力強い感じだと思うが、対する夢の音はどんな音なのだろうか?そのキャラクターにもよるが、場合によっては夢のトランペットの方が楽曲に適する場合というのもあるかも知れないし、絶対的な上手さは麗奈が高いとしても、憧れの麗奈を追いかける夢の存在が、互いに良い効果を出せれば面白いかも、などと妄想。

夢は、まだ設定を絞り尽くして居ないと思うので、ぜひ第三楽章でも暴れて欲しいと期待してる。

加部友恵

前編に続き、後編でも最後の方で主役級の活躍を見せた友恵。マジで泣かしにくる。

友恵の立ち位置の妙は、非奏者の立場だったと思う。

病気により奏者を諦めマネージャーとしての裏方に徹する事になるが、その姿はむしろ明るく屈託がなく見ているこちらの方が元気をもらうような存在。

コンクール出場メンバーが最前線で武器を取る兵士とするなら、友恵は一緒に行動し兵士の怪我を治療すためにともに戦場に赴く衛生兵という感じか。優子部長も「89人で全国へ」と友恵も含めての北宇治吹部であることを事ある度に強調していたのが印象的だった。

友恵が体育館での植物園の演奏会の最後の練習のタイミングで北宇治吹部でマネージャーをしてきたことを誇りに思う、と言う台詞には痺れたし、読み直す度に涙腺緩む。この台詞はこの最後のタイミングでこそ言える、北宇治吹部に対する正直な感謝の気持ちだと思う。そして、この台詞が夢を、そして北宇治吹部全員を鼓舞する所がカッコいい。

非奏者が「良かった」「悪かった」といっても奏者の胸には響きにくいと思うが、これが出来たのも北宇治吹部マネージャーを誇りに思い、北宇治吹部の他のメンバーから信頼を得ていた友恵だからこそだったと思う。

友恵は、むしろ奏者じゃないからこそ北宇治吹部を支えられた、突き抜けた存在だったと思う。

このシーンの続きで夢をけしかけやる気を起こさせたシーンも良かった。

一年生の指導係という事もあったし、同じトランペットパートという事もあったかも知れない、結局、夢の心に深く入り込んで夢を支える事が出来たのは、友恵だけだった。

カサブランカのソロパートを友恵の前なら失敗せずに吹ける所まで夢の心を開いたのは、友恵の面倒見の良さの賜物だと思う。

ここまで、書きながらふと思う。友恵のマネージャー業は何故、第二楽章でここまで大きく描かれたのか?

実体として吹部の雑用が多く、奏者が練習に専念するために必要で、それもまた吹部としての仲間意識を持つ必要がある、という事を読者に知らしめるためか?

それも間違いではないが、もう一つは夢の脱皮を描く事、そしてもう一つは北宇治吹部が関西ダメ金止まりだった事に対して、彼女たちを救済するために、存在していたのではないかと思った。

いずれにせよ、友恵の居ない第二楽章は想像が出来ないくらいに私の脳内で友恵の存在は浸透し大きな存在になっていた。

加部ちゃん先輩、最高!

最後に

みぞれと希美について書いているが、まだ頭の中が整理しきれておらず、一旦、区切ります。第二楽章後編その3にてまとめる事にします。

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

総括

後編では、オーディション以後、京都府大会、お盆休み、合宿、関西大会、そしてその後の文化祭、植物園での演奏会を経て、最後に来年度に向けてのチーム黄前発足までを駆け抜けた。

みぞれの希美離れ、まさかの関西大会ダメ金、そして、麗奈→久美子←秀一の構図がそのまま北宇治吹部の新体制になった、その1ページ1ページを味わいながら読めた。

前編では泣けたのに、不思議と後編では涙は出なかった。久美子が関西大会のダメ金で泣かなかったのと同様に、私もドライに受け止めてた。(2度目に読むと泣いているかもしれないけど)

そして、来年度の北宇治吹部を任された二つ返事でOKした久美子の覚悟と、両脇を固める秀一、麗奈の来年度の活躍も妄想できる余韻を含めて、心地よく読み終える事ができた。

ブレず迷わず一直線な麗奈

今回の麗奈はいくつもカッコいい所あった。

合宿の夜、希美の演奏と息が合ってない!みぞれにもっと最高の演奏を聞きたい!、と訴えるところ、震えた。

後、夢をファーストに持ってくるべき、と主張し優子部長に食いつくシーンとか。

久美子じゃ無いけど、麗奈は1年前と比べて変わった。前は他の人や他のパートの事も含めて吹部の事を最高にしようとは考えてなかった。何せ、自分は特別でありたい!だったから。

それが、先輩達や優子やいろんな人にふれ、滝先生の悲願でもある全国大会金賞に向けて、他人を巻き込んで邁進している。

それから、水着を選ぶとき、躊躇しないで即断即決がカッコ良いとか。

いきなり、ベン図を書いて久美子に友情と恋愛の説明をしだすシーンや、パトロンの話をする際は、お勉強もしてるのよ、的な雰囲気とか。

そんな、麗奈の姿をみて、いちいち、良いな、惚れるな、と思った。

根気強く待ち続ける秀一

秀一の相手のペースに合わせる忍耐強さ、というのは表彰物だと思う。

久美子だけでなく、他の人間関係に置いても、この忍耐強さを発揮して信用を得ているのだろう。

優しすぎて忍耐強い。

そんな、秀一の姿を見て、男前すぎるな、惚れるな、と思った。

麗奈と秀一が、あまり親しく無い、というのも来年度の新体制を考える上で、ちょっと面白い、と思った。

慎重で丁寧な対応の久美子

後輩指導などの際に見せる、久美子の対話の慎重さが好きである。一つ間違えると、悪い結果になってしまうので、間違えないように、考えながら進める。

今回、久美子は麗奈が数学で割り切れるところを、感情で割り切れない、としたシーンがあった。

一般的に言えば、麗奈が男性的で理系、久美子が女性的で文系なイメージか。

久美子のそうした普通な部分が、ニュートラルな感じが、良いな、と思いながら読み進めてた。

特別な強さを持つ人間では無い、等身大の主人公。

次年度の吹部新体制

来年度は部長が久美子、副部長が秀一、ドラムメジャーが麗奈。

麗奈→久美子←秀一の構図は、普段の久美子に重なる。前編であがた祭りの日、秀一とデートし、その後、大吉山で麗奈のトランペットを聞いた。

秀一が久美子をサポートするのは、まぁ当たり前なんだけど、2年生になって久美子が麗奈の世話を焼くことは少なくなっているように思う。逆に麗奈が久美子の手助けをしている。京都駅のベン図の下りとか。

もう、久美子の世話も、北宇治吹部の世話も、公私共々、秀一と麗奈によろしくという感じ。なんか、もう、これだけでニヤニヤしてしまう。頑張れ、久美子。

それにしても、優子部長が麗奈をドラムメジャーに押すのは良くわかる。しかし、秀一の人選に関しては、優子も夏紀も基本的に久美子の彼氏と知っての人選だったのか?いや、知ってるに違いないのだが、劇中そのような気配を出さずに来ていたので、お見通しな部長副部長コンビに脱帽という感じ。

台風の目、みぞれと希美

昨年度から繋がるみぞれと希美の問題。

希美と一緒に居られればそれでいい。希美が居ないと死んでしまう、と言わんばかりのみぞれ。

みぞれの希美離れは描かれるべきと思い続けて来て、後編でついにその核心に触れた。

初めての自己主張、大好きのハグ

前編でもさつきと美玲がやっていた、南中の大好きのハグ。みぞれは昔からそれが嫌いだったのに、最後に自分で自分の殻を破って、希美に大好きのハグをした。

今まで希美のいう通りに振舞って来たみぞれの初めての自己主張。希美からの脱却の第一歩。

そして、その希美離れの現場には、久美子、夏紀、優子、(と麗奈)が証人として立ち会った。

まだ、完全に巣立ったわけではない。でも、確実に一歩を踏み出した。その安心感が、みぞれファンとしては嬉しい。

興味深いのは、希美の事を信用できない、と言ってたところ。心を支配されているのに、信用はできない。それは、いつ目の前から居なくなるか不安だから。完全に自覚ある依存症なのに、その事に対する疑念も対処もない。彼女は常に与えられて生きて来たのか?だからこその、自分で踏み出す第一歩の意義は大きい。

個人的には、もっと激しくぶつかり合い、大泣きして滅茶滅茶になる破壊の後の構築みたいな展開を予想しちたが、実際には実にしっとり、スッキリした感じで希美離れを描いて来たが、上記の内容で十分、納得できる展開だと思った。

希美が好き、みぞれのオーボエが好き

今まで、思考回路不明なキャラとして描かれて来た希美。

みぞれにとっては希美は特別。希美にとってみぞれは大勢いるうちの友達の一人。一年前、みぞれの前から姿を消してみぞれが拒否症になったのも知らず、ふらふらと吹部に戻って来てみぞれのメンタルに穴を開けそうになった希美の行動に、無自覚の恐怖とされて居た。

しかし、今回の後編で、希美の性格が描かれてたのが良かった。

みぞれの思いの強さは、希美にとってはあまり重要じゃなかった。目の前の子が寂しそうにしてたから、話しかけた。こういう所は素直な子。

最終的にはみぞれの才能に嫉妬した。

音大に一緒に行く約束をしたのに、自分一人でその約束を破った。最初は、単純な憧れだったけど、現実が見えてきて、そうも行かない事が分かってきて、見栄を張ってた部分もあって、言い出せなくなって、こんな形に。そして、それを誰かに叱って欲しい。そんな思いが描かれた。

希美はいわゆる良い子過ぎたのかもしれない。愛想の良い、良い子が、間違いを犯した時に取り戻しがつかなくなっても、そのまま素知らぬ顔で誰かを傷つける。それで今まで生きてきてしまった。その事もまた、実は病気なのかもしれない。

久美子は、希美をヒドイと思った。普通の感覚だと思う。でも、誤解を恐れずに書くなら、希美のような病気の人も世の中には結構いるとと思うし、その気持ちが分かっただけでも良かったし、この後編は希美を救済してくれた、と思う。

みぞれのオーボエが好き、という台詞は強烈である。みぞれ本人の事を好きとは言っていない。この嫉妬の感情を認めて、みぞれの事を純粋に好きとは言えない。意外と馬鹿正直な性格である。退部騒動の事も含めて、この辺りは不器用な人間なんだな、と思う。

そうした、人間臭い弱点みたいなのが、後編での希美の魅力だったと思う。

みぞれオーボエ無双

合宿でのみぞれオーボエ無双シーン、最高に鳥肌がたった。

リズの気持ちは分からないと、すれば青い鳥の気持ちで吹けば良いという、新山先生のロジックが凄い。目から鱗だった。なんという天才。

この演奏の後、滝先生が10分の休憩を挟む際、さりげなく目元を拭ったと書いてある。滝先生の涙というのはこれまで見たことがない。滝先生を泣かせたみぞれ相当の大物です。

ところで、新山先生の好きだった人というのは、まぁ滝先生を想像させるけど、ここは大穴狙いで、滝先生の奥さん説を上げておく。

まさかの関西大会ダメ金

今回の山場は、やっぱこのシーンだったと思う。読者も全国大会に行けないと予想していた人は殆ど居なかったのでは無いかと思う。完全に予想を超えた。

周りが泣いていたけど、久美子は泣いてなかった、というのがなんとなく良かった。真意は不明だけど、久美子というのは、意外と肝心なところで冷静に見ているのだと思った。

漫画「頭文字D」で、主人公の父親が、今の主人公に必要なのは、負ける事だ、というシーンを連想した。強さ故の慢心を戒める必要がある、という事であるが、武田綾乃先生の一筋縄では行かない、ビターな感じが良いな、と感じた。

ひとときの安らぎの風景

実は、全国大会の緊張の後の、低音パートで先輩後輩が仲良く演奏練習するシーンが非常に好きである。

コンクールという戦いがメインの話の中で、こうした緩いシーンが印象に残った。

最後に

今回、丁寧に淡々と読んでしまった感じはあるが、第二楽章は最高に面白いユーフォ作品。この作品が読める幸せを噛み締めながら、もう少し時間をかけて、感想や気づきをまとめたいな、と思った。

ただただ武田綾乃先生と本作を出版まで導いてくれた方々に感謝です。

劇場版 響け!ユーフォニアム 〜届けたいメロディ〜

ネタバレ全開です。閲覧ご注意ください。

感想

総括

今更だが、TVシリーズのユーフォは群像劇である。しかし、今回の劇場版では、描く対象を久美子とあすかに絞り込み、思い切って群像劇である事を放棄している。

そのお陰で、思った以上に観やすく、スーッっと脳みそに情報が入ってくる印象だった。

また、あすかの久美子好きな部分が新規シーンで追加されていて、個人的に苦手だったあすかが、少しだけ身近に感じる事が出来た。

そんなわけで、鑑賞後は軽い爽快感を伴う、気持ちの良い作品だと感じた。

私はTVシリーズのユーフォ2を何回も見てきたが、本作を劇場で観れて、新しい発見もあり、良かったと素直に思った。

あすかと久美子(と麻美子)に絞った構成

ユーフォのTVシリーズは、あすかのプレッシャーというものを物凄く大きく強く描いていた。誰よりも強いあすかと対峙するごく普通の一年生部員の久美子。その久美子があすかを全国大会に連れ戻す。

客観的に見れば、たかが女子高生が部活をするか、しないかという話だが、その当事者視点で強調して力強く描かれる。

物語なので、相手の強さを表現するために、視聴者にストレスを与え続け、そのストレスを主人公が打ち返した時に、大きな開放感を得る。

あすかはTVシリーズで何を考えているか分からない強い先輩として描かれ、絶えず久美子に波状攻撃的にストレスを与え続けていた。

それを劇場版で行うと、全体105分の中で、幾つも小さなストレスと解放を繰り返す事になるので、ストレスをかける部分も、あまり大げさではなく、淡々とストレスをかけ、全体の流れの中で無意味な強弱にならないような、ディレクションがされていると感じた。それは、声の演技を中心に特にそう感じる。

また、もともと群像劇だったユーフォを、あすかと久美子のドラマに絞って純度を上げているので、二人に直結しない良いシーンも基本的にバッサリ削除し、ノイズを除去している。

これは人によっては、テレビシリーズの方が強い味わいを感じ、劇場版がパンチ力が低下した、と感じるかも知れない。でも、今回の小川監督のディレクションは一本の映画として考えた時に、やはり正しいかったのだと思う。

そのおかげで、とても観やすくなった、という印象を受けた。

柔らかく優しくなったあすか

今回、追加シーンで強調されたのは、あすかの久美子好きの部分であったと思う。

今回、久美子のふわふわの髪の毛をあすかがくしゃくしゃするシーンが追加された。TVシリーズではうろ覚えだったが、1回くらいしかなかったように思うが、そうしたシーンが割と冒頭にも追加された事で、あすかは久美子の事を気に入っている、好いている事が伝わるように改善された。

もともと、あすかは何を考えているか分からない人間としてTVシリーズでも描かれてきており、結構な冷たい言葉も吐いている。その逆におちゃらけた雰囲気も出していて、掴み所が無い、という印象を久美子にも視聴者にも与えていた。

途中で、勉強を見るという名目でで自宅に久美子を呼び、自分の事情を告白するが、その理由が「久美子の事を好いているから」という事をより補強する形となり、初見でも、そのあたりを掴みやすくなっていたと思う。

全国大会で久美子が姉の麻美子を見かけ、吹奏楽部の挨拶中に抜け出してしまうシーンもあすかが「まぁ、いいから」とその場を見逃す形に改善された。

これは、あすかの久美子へのお礼返しだったと思う。

あすかも全国大会で父に聞かせるために演奏し、滝先生経由で間接的に父親からのメッセージを受け取り繋がる事が出来た。久美子の聞かせたい相手は姉だった事をあすかと共有しており、その事を知っている。更には全国大会に来て父のメッセージを受け取る事が出来たのも久美子が自分を説得してくれたおかげである。

だからこそ、久美子の大切な人との繋がりを優先させてあげる事が、あすかの優しさとして描かれていた。

TVシリーズのユーフォを見て、最終回のあすかを見てもなお、私はあすかの事が苦手だと感じていた。それはあすかが強者として弱者に容赦なく潰しにかかる事があり、「強者故のおごりを持つ者」という思いがぬぐい去れなかったから。

でも、今回の劇場版の届けたいメロディーでは、そうしたあすかの優しさ成分が補強され、その毒気のイメージを抜く事が出来ている。あすかの事を、より身近に感じられる事が出来る演出の改善だと思う。

もしかしたら、小川監督もあすかの事を同じように思っていたのかも知れない。私のその不満をうまく打ち消してまとめてくれた。その事が、本作の後味を爽やかにしてくれているものだと思う。

宇治川土手の「響け!ユーフォニアム」演奏シーン

ユーフォ2期9話、あすかの家に行った時に演奏したシーンで私も大好きなシーン。

劇場版では、これを全国大会や卒業式よりも後のラストに移動して来た。

今回は、最後に回想というイメージでのシーンになると思うが、あすかと久美子が深く繋がったこのシーンこそが、本作のメインである事は非常に納得できるし、個人的には大満足。

TVシリーズでは、このシーンは特殊EDになっていて、それまでのあすかの家での緊迫したやりとりが、視聴者にかなりのストレスを与える映像になっており、最後にこの特殊EDを持ってくる事で、物凄い開放感が得られる、という過剰な演出がされていた。それはともかく、この曲のおおらかな感じや開放感が良い。

このシーンの移動も、鑑賞後の爽快感を出す事に一役買っていたと思う。

プロバンスの風

冒頭の県大会の演奏シーンは、プロヴァンスの風のフルになった。これは想定しておらず、かつ映画館という良好な大音量の空間で堪能する事ができ、嬉しかった。

私は、小説版の第二楽章を読んでおり、気持ちが半分そちらに移ってしまっているが、この演奏シーンで3年生の演奏を見て、あぁ、この時はまだ彼女達もまだ、吹部で活躍していたのだな、と急に寂しい気持ちになった。

全くの余談ですが。

なんか、そういった大きな時間の流れも、ふと感じた劇場版でした。

おまけ

リズと青い鳥

最後にこの事も少し触れておかねばならないと思う。

2018年4月21日に封切られるみぞれと希美の物語は、「リズと青い鳥」というタイトルで、そのキービジュアルは、現状のユーフォとの関連性を見出せないほど、欧州の童話絵本の挿絵のようなものである。

山田尚子監督は、欧州の童話絵本のような映像が好きな話は、どこかのインタビュー記事で読んだ事はある。しかし、ユーフォという作品の中でこのようなキービジュアルをぶつけてくる所が挑戦的である。

しかも、「リズと青い鳥」は小説版の第二楽章でみぞれと希美が3年生の段階で自由曲に選ばれる曲であり、その決着は2018年10月5日発売の小説版の第二楽章後編でのお話である。

さらに、久美子2年生編の石原監督の劇場版も予定されている。

  • 2017年8月26日 小説 第二楽章 前編 発売
  • 2017年9月30日 劇場版 届けたいメロディー公開
  • 2017年10月5日 小説 第二楽章 後編 発売
  • 2018年4月21日 劇場版 リズと青い鳥公開(山田監督)(中身は小説 中一〜高三?、第二楽章 後編?)
  • 2018年x月 劇場版 久美子2年生編公開(石原監督)(中身は小説 第二楽章 前編?)

これを見て、2018年の新作映画2本の時系列と前後関係が合わないように思う。この問題をどうするのだろうか?

大胆な仮説だけど、「リズと青い鳥」はキービジュアルの部分の映像をメインとして、吹奏楽の部分をサブにする二重構造の映画で、吹奏楽部はおまけみたいな感じで、キャラデザインも現状から違うテイストにしてしまう、とか。(全くの妄想です)

なんか、それくらいの勢いを感じさせるティザー広告に感じる。

また、京アニ武田綾乃先生の創作作業がかなり重なって行われていると想像している。小説第二楽章の前編はかなり完成度が高かった。しかし、リズと青い鳥は武田綾乃先生一人のテイストではなく、山田尚子監督含めた、京アニの製作陣との共同制作ではないかと、勘ぐっている。「リズと青い鳥」が山田尚子監督のテイストにマッチしすぎている。

いずれにせよ、小説 第二楽章 後編は読む。それで、二人の物語の方向性は決まると思う。それだけではない、映画作りに度肝抜かれそうな、楽しいような、大丈夫かいなみたいな、複雑な心境でもある。

先は長いが、1年以上先まで、楽しみがあると思えば、それはそれで嬉しい。

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編(その2)

ネタバレ全開ですので、閲覧ご注意ください。

はじめに

ユーフォ小説の第二楽章前編を読み直して、改めてこの作品の面白さをしみじみ実感。

第二楽章後編の発売は10月5日。その前に、前編を読み直して、感想、考察、後編の予想などの気持ちを一旦整理しておきたい。

アニメに引けを取らない、登場人物の内面描写と掛け合いの面白さ

私は、ユーフォはアニメオンリーでした。しかし、第二楽章にとうとうアニメを待てず、初めてユーフォの小説を読みました。

正直に言うと、アニメの情報量の多さに慣れていたため、小説ではその密度感は出せるのかな?という疑念があった。

実際に小説を読んでみると、感情の高ぶりやその場の空気が、丁寧かつ的確に文字で表現されている。そして、リアルタイムに克明に小気味好いテンポで場面場面が進む。通して読み終わってみると、かなりのキャラの思いが、アニメにも劣らないほどの密度の情報量で溢れ出していた、という感じでした。

特に久美子という視点で対峙するキャラがプロファイリングされ、それまでの行動・振る舞いが見事に論理的に説明されていく。その過程が気持ち良い。

また、久美子が対話する相手とのやりとりは、リアルタイム性を持った掛け合いで、どんな言葉が最適か考えたり、時に間髪入れずに攻撃的に言葉を発したり。そのやりとりは一つ間違えば相手を傷つけたり、こちらが見下されたり、取り返しのつかない致命的な失敗に繋がる可能性を含んでいる。

このドキドキ感、ハラハラ感は、例えるならカンフー映画の格闘シーンの様なもので、この真剣な対話のやり取りこそが、ユーフォ小説の醍醐味だと思う。

様々なキャラは、それぞれの性格を持ち、それぞれの行動は理解できるもの。(一部のキャラはその行動原理をわざと謎にしていると思われますが)その意味で、武田先生は恐ろしく人間観察に優れた人では無いかと思いました。

第二楽章前編を読みながら、こんな事を感じていました。

各キャラごとの感想・考察・予想

月永求

彼の伏線回収は全て後編に持ち越された。ざっと箇条書きするとこんな感じ。

  • 「月永」と呼ばれる事を嫌がる
  • まるで美少女みたいな小柄な美少年
  • 男らしくなりたい、見られたい
  • 聖龍中学出身
    • 聖龍中一年の時に「リズと青い鳥」を演奏した経験あるがボロボロ
    • マーチングの際はガード、旗、それ以外の何かをやっていた
    • コンバスは独学
  • 聖龍学園
    • 昨年度、聖龍学園吹奏楽部に新しい先生が二人、特別顧問は「源ちゃん先生」
    • 聖龍学園吹奏楽部の雰囲気は和気あいあい
  • 姉が好き
  • 奏とは仲が悪い

求の問題と言うのは、緑輝以外の人に無気力無関心な事だろうか。緑輝依存度が高い。

求はなぜ、吹奏楽を、コンバスを続けているのか?

中学時代からコンバスを選んでいたのは、小さで華奢な体に対からくる男らしく見られたいコンプレックスからか? 男らしく見られたいのは、もしかしたら男兄弟がおらず美少女扱いで周囲がちやほやする事を疎ましく思ったから?(全くの妄想です)

何度もキーワードが出てくる聖龍学園の源ちゃん先生。求の北宇治転校と無関係とは思えません。名前から察するに男性だと思われますが、敢えてちゃん付けで苗字を隠しているところから苗字は「月永」と想像、厳しい面も持ちつつ全体的には優しい実力のある人気者の先生なのでしょう。身内が居たくらいで転校はしないと思いますが、よっぽど反発して飛び出したのか?

それから、「月永」が音楽の名門家なら、求がコンバスを独学で弾く理由が分かりません。この辺りは現段階では不明。

求はサンフェスで聖龍学園の様子を見に行ってるところから想像すると、聖龍学園の知り合いに会いに行ったのでしょう。なので昔の吹部仲間とは上手くやれて居たのではないかと想像。

いずれにせよ、求のコンバスが続けているのは、「姉」がキーワードだと思われますが、現時点では詳細は不明です。

ところで、緑輝は「月永」の事をある程度知って居る様に思います、それも結構なところまで。「月永」が音楽の名門なら源ちゃん先生についても知ってて不思議はありません。それから、もし求の姉の年が近いなら、聖女中の生徒で面識があった可能性があるかも。

求は緑輝の事を恋愛対象としては見ていないときっぱり言っています。緑輝も音楽最優先なので、その様には見ていないと思われます。でも、緑輝も女子ですので、何らかのきっかけで求の事を惚れてしまうと言うほろ苦い展開もほんの少しだけ期待しています。まぁ、後編はそれ以外の伏線が盛りだくさんなので、そんな所を膨らませる余裕はあまり無いとは理解していますが。

今のところ、求については伏線があるにも関わらず、確実な所は少ない。後編での、求、源ちゃん先生、姉、緑輝の4人の関係に注目です。

小日向夢

引っ込み思案で前に出ない性格を変えたい、と思わせる夢。

その気持ちが中学時代のショートカットから現在の片側三つ編みの髪型の変化にも現れているのかも知れない。

北中時代に夢は久美子に少なからず自分と重なる所を感じていたのでしょう。昨年度、久美子が全国大会の演奏で自信に満ちて演奏する姿に、変われる可能性を感じたのだと想像。

演奏技術が確かなら、自信を持てるはずなのになぜ自信なさげなのか?他人に遠慮する性分なのか?なら、なぜ、その性分から変わりたいのか?

夢と対象位置に存在するキャラが麗奈。自信に満ち溢れている。衝突か?助け舟か?また、この時の久美子の立ち位置はどうか?何らかがあると思いますが、この辺りはまだまだ不明。

前編でネタを仕込んでいる以上、後編で何もないはずはなく、何らかのドラマは確実にあると思います。

ここは、夢、麗奈、久美子の関係ですかね。

鎧塚みぞれと傘木希美

みぞれのオーボエは北宇治吹部の要。みぞれと希美の問題は北宇治吹部の問題。

この二人を見ていると、どうしてお互いに相手の事を思いやらないのか?自分本位なのだろうか?という風に描かれる。

みぞれは希美だけが友達、希美と一緒に居られればそれでいい。吹奏楽は希美と一緒にいるための理由でしかない。ここに希美の幸せを思う気持ちは無い。

希美は相手に対する気遣いが無い。相手の気持ちになって考える事がない。無自覚というにはあまりにも乱暴なくらいに。

今回、希美の感情で明確に分かったのは、新山先生の音大進学バックアップに関してのみぞれに対する嫉妬心。そして希美の音大に行くという発言を追っかける形でみぞれの「私も」を聞き「えっ」と言った時、自身がみぞれに影響与えている事の自覚の無さを浮き彫りに。

希美はみぞれが居なくても生きて行けるが、みぞれは希美が居なければ生きていけない。

全国大会終わるまで、二人とも順調に音大への駒を進められれば、北宇治吹部は安泰ではあるが、必ず何らかの問題になるのだと思う。希美の学力が不足してて音大を諦めるとか。その時のみぞれへの対応があまりに辛辣で二人の関係が最悪になるとか。ある程度の妄想はあるけど、そんな簡単じゃ無いように思う。

しかも、その場合、どのようにみぞれと希美の問題を収集するのか?

本質的には、久美子と麗奈のように相手を思いやる気持ちが大切だと思うが、みぞれと希美の問題は、それに気づかなければ、一生治らない病気だと思う。

「リズの青い鳥」に習うなら、リズ=希美が、青い鳥=みぞれを突き放して独り立ちさせるという流れになるが、その心境に希美が達するのに何が必要なのか?優子部長がけしかけるのか?それとも、オーボエの後輩の梨々香が飛び道具を出すのか?久美子の相手の弱点に対しての畳み掛け攻撃なのか?

いずれにせよ、後編の表紙を飾るこの二人、台風の目なのは間違いないけど、決着方法が検討もつかない。

その意味で、後編はとても楽しみ。

久石奏

奏の問題は、前後編の配分から考えると、前編で殆ど決着している様にも思えてきた。

ただし、「利己的なふり」をする、自分をよく見せる性格の根本は変わっていない。前編では夏紀先輩とのわだかまりは久美子の「頑張ってる」の言葉で消えたとしても。その辺りの癖のあるキャラの味は後編でも存分に発揮して欲しい、と願ってる。

印象に残ったのはオーディション前日にファミレスで久美子と一緒にジャンボパフェを食べるシーン。

久美子がストローの袋を蝶々結びにして奏で渡すシーンは、会話の応酬をビジュアル化したものだと思うが、対して奏が出してきたさくらんぼのヘタを口の中で蝶々結びして出すシーンと言うのが、奏の負けず嫌い感が出ていて面白かった。

そしてこのとき、まだ奏はオーディションで手抜きする事は明確に判断して居なかったように思う。でも、久美子の「夏紀先輩と仲良くなってほしい」の言葉にどんどん混沌としてゆく。奏と久美子がどんどん食べ進めるにつれぐしゃぐしゃに混ざってゆくパフェの色は、奏の混乱する心に重なる演出だと思えた。彼女はこの後、悩んで八百長を決めたのだと思う。

後でわかる奏の対応。久美子の言葉が後輩を追い込む、と言う怖さ。普段はチクチクと毒を吐く事もあるけど、奏でもまた、悩みを抱える可愛い後輩だったと言う事。一読後に改めて分かるそうした心情が一層味わい深いものに感じた。

剣崎梨々香

奏と梨々香の関係が気になっている。互いに軽口を聞いて親友という。その実、実際に互いに好いていて互いに思っている感じがあるのが面白い。

梨々香が中川先輩の事をどう思いますか?と久美子に聞いたのも、奏のわだかまりをほぐすためのものだったかも知れない。聞いた所で直接解決に結びつくかは分からないが、久美子に対するシグナルだったのかも。梨々香は意外と人の事を見ているし、そう考えると思った以上に思いやりのある人間かも、と思わせる。

いずれにせよ、一年生の中で影響力のある二人という事で、久美子も一年生に対する情報提供する心強い部下としての活躍に期待。

そういえば、梨々香のオーディション結果はどうだったのか?Aか?Bか?自由曲の「リズの青い鳥」はオーボエ要な所もあり、オーボエ2名の可能性もあるかも、とも思ったが、普通に考えればBチームか。

後編での、梨々香とみぞれのやり取りが見られるか?その辺りも楽しみ。

加部友恵

加部ちゃん先輩は、良いシーンが多かった。

友恵は決して人前で泣き言を言わない。絶えず明るく振る舞う。

でも、階段踊り場で、久美子の手を握り「念を送った」あのシーンだけは、自分の悔しい思いと、久美子の気遣い有難うの感謝を込めたのだと勝手に思ってる。最後まで泣き言は言わなかったけど、そう感じた。このシーンは前編で二番目好きなシーンです。

少なくとも滝先生と久美子と優子部長は友恵の顎間接症の事を知っていると思うが、夏紀は友恵の病気の事を知っていたのだろうか?明確に知っている描写はなかったと思う。

夏紀の男前っぷりは相変わらず気持ちが良いが、私が支えたいのは優子だけじゃない、という友恵の台詞がカッコ良過ぎた。このシーンが前編で一番好きなシーンです。

前編のクライマックスは、奏で夏紀のオーディション直後の言い合いのシーンだと思うが、個人的には、こちらの友恵のシーンで泣き過ぎるくらいに良かった。

加部ちゃん先輩最高。

高坂麗奈

あがた祭りの大吉山の演奏シーンが印象的だった。

昨年度は白いワンピースで久美子と初めて気持ちが結ばれた。いわば結婚式。

今年は久美子は秀一と二人であがた祭りに遊びに行った。そして今年は黒のワンピース。この対比で普通に葬式を連想した。麗奈という人間はこういう気持ちや形には拘るタイプだと思う。

麗奈は久美子が麗奈の家に来るとは本気では思っていなかったと言った。これは、久美子が秀一に取れれてしまう事をイメージしていたのか?そして久美子が大吉山に現れた時に秀一に「借りができた」と独り言を言った。

そして、話題は将来の話になり、プロを目指す事で久美子と離れ離れになる不安をぶちまけた。

そう考えると、もしかしたら麗奈の旅立ちは卒業を待たず、すぐにでも訪れる問題なのかもしれない。それこそ全国大会を待たずしてとか。

ここでも、「リズと青い鳥」の話が絡む。

久美子を秀一に譲るという意味では、リズが麗奈で青い鳥が久美子。麗奈が久美子を縛り、久美子を集団である秀一の元に戻す話。

それとは逆に久美子は、少し前までは久美子が友達として麗奈を独占していた、という意味では、リズが久美子で、青い鳥が麗奈。麗奈はいろんな友達を作り、プロの道を目指し、羽ばたく。

どちらも、部分的に物語に当てはまると思う。

久美子が「リズの青い鳥」の第3楽章の「愛ゆえの決断」を麗奈にリクエストしたのは、どこまで理解していたのか?演奏した麗奈は、久美子との別れも辞さないつもりで吹いたのか?麗奈の力強い演奏は、いろんな可能性を想像させる、余韻を残すシーンだと思った。

久美子の麗奈離れ、麗奈の久美子離れ。第二楽章ではみぞれ、希美の問題と重ね合わせられるように、久美子と麗奈の関係にも触れられるのかも知れない。

最後に

とりあえず、今思っている事は、全て吐き出した。

10月5日の後編発売、とても楽しみに過ごします。待ち遠しい。

以上

プリンセス・プリンシパル 12話「case24 Fall of the Wall」

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感想

まず、総括的な感想を。

プリンセス・プリンシパルは、アンジェとプリンセスの関わり合いがメインディッシュ。10年前のロンドン革命後からクイーンズ・メイフェア校の再会を経て、そこから11話までの間も互いに好き同士なのに、心をぶちまける事無く進行してきた。

11話では、アンジェを逃がして守るための芝居だったとはいえ、プリンセスからアンジェに「さよなら」と三行半を下されるということもあった。

その長い前ふりのラブコメに遂に最終回で、お互いに好きだと告白し合う事が出来た。

私は本作品を見ながら常々、プリンセスは何故アンジェに優しい言葉をかけないのか?不満に思っていた。もしかしたら、そのポイントに関するケア無しで最終回も過ぎてしまうのではないか?という心配は杞憂に終わった。その意味で、見終わった後で一安心できた。

これは、アンジェとプリンセスの次の一歩を踏み出すための、重要な儀式だったと思う。

プリンセスからアンジェに

プリンセスがプリンセスをやり続ける理由は、10年前のアンジェの「壁を無くす」夢を取り上げてしまったので、それを成し遂げる事が償いと思っていたから。

夢の事を諦めてるアンジェを嫌いと言ったのが11話。

でも、それは、アンジェに夢の事は私に任せてアンジェとして安全に生きて欲しい、というアンジェを守る気持だった。そして、アンジェに嘘をついた事を詫びて、アンジェの心の壁が解けて皆の前に笑顔をさらすまでそばから離れないと、のろけたのが12話。

私は、プリンセスがアンジェに対して思いやりが無い事がずっと気になっていたが、12話でアンジェに言葉で直接思いやりの気持ちを伝えたのが、非常に良かった。

アンジェからプリンセスに

そして、有能なスパイであるが故に一人で何でも抱え込んで、結局、プリンセスの信念である「壁を無くす」事よりも、安易に逃げる選択肢を強要してプリンセスに嫌われたと思い込み、一人うじうじ悩むアンジェ。

もともと、アンジェはクールで非情なスパイとして1話でエリックを射殺している。その後、プリンセス絡みや諸々で人間性の可能性を垣間見せるも、直接的には非情なキャラを装っていた。

しかし、11話12話でのアンジェは非常に弱い面を見せており、これにより、一気に親近感がわき、アンジェというキャラが愛おしくなった。

12話でアンジェは、プリンセスの思いに気付けず嫌われたとと思い込んだ事、人に頼れない事をプリンセスに素直に謝った。

これで、二人は直接言葉で互いの気持ちを通じ合わせた。

プリンセス・プリンシパルは、アンジェとプリンセスの二人の関係のお話がメイン。長かったけど全12話かけて、この台詞を聞くために、この作品を見続けた甲斐がありました。大満足。

ドロシーとベアト

コントロールの軍部と政府の主導権争いに翻弄されつつも、友達のアンジェを心配しながらゼルダの任務について調査していたドロシーとベアト。

アンジェに「友達としてなら」と言ってアンジェに言わせるところ、やっぱ良いです。

それと、回転するベアト可愛い。

ちせと堀河公

ラスト、ちせがコントロールに戻ったのは、堀河公はどのような認識なのだろうか?従来通り、共和国と王国の動向を観察するということか、堀河公の主従関係が切れた、ということだろうか?

一宿一飯の恩義という台詞とともにアンジェ達に助太刀するちせ、かっこよい 今回は、ドロシー、ベアト同様に、ちせは脇役なので、活躍はそこそこで多少残念。仕方がないね。

イングウェイ少佐

革命軍のリーダーとして登場するも、プリンセスの言葉に耳を傾けて、ゼルダに撃たれて死亡する。

結局、彼はプリンセスに格差の真実を再認識させ、プリンセスの言葉に耳を傾けてくれる民がいる事を実体験として分からせてくれた、という役どころか。

プリンセスはクーデターを阻止してきたけど、「壁を無くす」事に対する真剣な思いは、この国を彼女に託せば理想が叶うかもしれない、という希望の光を見てから亡くなったのが、彼にとっても唯一の救いだったのかもしれない、と思った。

脚本家の違う11話と12話

ここは下種な勘繰り。

11話12話の脚本は大河内氏ではなく、檜垣氏であり、まんま2期に以降できるようにキャラ配置は全く変わっておらず、従来の話に比べてアンジェとプリンセスの甘口な話となっている。

本当は、大河内氏のもっとビターなラストがあったものが、2期を意識し過ぎて、プランBとして檜垣氏の脚本になったのではなかろうか?

もし、そうだとしたら、大河内氏のビターな話も見たかったな、と思う。

仮にラストが悲惨でも、途中の話として劇場版を作れば良いではないですか、カウボーイビバップの様に。

これは、全くの妄想ですが。もしそうならば、というお話というか、願望。

2期への思い

ちなみに、個人的には2期は無くても良いと思う。

本作は、アンジェとプリンセスの恋愛関係の話。もし、後日談の続編を作るとしても、一度アンジェとプリンセスの気持ちを知ってしまうと、それまで隠してきて、我々を騙して来た部分が上手く機能しない。その部分を今回以上に盛り上げるのは、ネタ的に難しいのではないだろうか?

ノルマンディー公だとか、王位継承だとか、いろいろ消化不良な項目があるあるというのも分かるけど、今回以上にアンジェとプリンセスの甘口のメロドラマになっても、お腹一杯という気持ちもあるし。

まぁ、そんな素人の心配をよそに、凄い盛り上がりを見せるストーリーを用意してきたりするのがプロなんだろうけど。

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