たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

魔女見習いをさがして

ネタバレ全開につき閲覧ご注意ください。

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はじめに

本作は、「おジャ魔女どれみ」20周年を記念して作成されたファンムービーです。

しかしながら、どれみファン以外にも普遍に響く大人の女性のドラマであり、その意味で、多くの人に広く観て欲しいと思える作品となりました。

笑って泣ける良作です。

以下、感想・考察です。

感想・考察

今を生きる大人の多彩で濃厚なドラマと、それをアニメで描く意味

本作は、現代社会を生きる、3人の多様な大人のドラマを多彩に描く。その内容も、パワハラ、ヒモとの縁切り、離婚した父親との再会、喧嘩、仲直り、絵画修復の夢、恋愛、退職、進路、告白、失恋、などなどてんこ盛り。しかも、ドラマは結構な濃い口で、見応え十分。

これは、女児アニメが描いてきた、その時代の子供たちのドラマや問題を描いてきたのと等しく、今を生きる大人のそれを多彩に描く。人生生涯どれみ達のような悩みや葛藤の連続なのである。

そして、そのリアルに生きる大人たちのドラマをおジャ魔女テイストで描くところが本作の肝である。だから、アニメならではの浸透圧で、説教臭くなくスンナリ観れる。これは、子供の頃に感じた、アニメ作品で元気づけられた記憶と呼応する。

おジャ魔女テイスト故に、魔法玉が転がるシーンのワザとらしさとか、ランチで飛騨牛食べたさと食べ損ねた悔しさとか、そうした笑えるシーンを効果的に配置する。そして、感情をシリアスに感情を爆発させるシーンを織り交ぜる。いわゆる、笑って笑って泣ける演出である。

おそらく、実写ドラマではここまで笑えず、吉本新喜劇ではここまでシリアスになれない。アニメという手法が心にしみ込んでくる絶妙の浸透圧というものが、ここにあるのだと思う。

魔法=自分の内にあるモノ&仲間というテーマ

ソラ達が魔法玉に奇跡を願いを望んだ行動はあった。しかし、奇跡は起きても、それは辛い現実を叩きつけたり、相手が思い通りになるわけでもなかったり、決して自分に都合良い結果が出るわけでもなく、そうした現実に向き合う必要に迫られた、というビターな展開であった。結局、メンタルの部分は自分で乗り越えて行く、という描かれ方をしていた。だからと言って、魔法なんて存在しない、世知辛いだけのドラマだったかと言えば、そうではない点が本作のポイントに思う。

ソラ達は、マジカルステージと称して魔法玉を合わせた時の会話で、自分がコンプレックスとして悩んできた短所が長所にもなり得て、その長所を生かす事が魔法なのではないか?という、ある種の悟りに到達する。自分を見つめ自分を生かす事、自分という個性を尊重する事が、他人を笑顔にし自分も幸せにする。

そして、3人がその事を分かり合えたのは、子供の頃に観たアニメ作品を共有しているからに他ならない。自分一人で思い悩むのではなく、背中を押し合える仲間の存在が大きく描かれた。

意外とあっさりした物語のラスト

本作のラストは、魔法は自分の中にあるという気付きと、最初に聖地巡礼で訪れた鎌倉の洋館をMAHO堂として、フェアトレードコーヒーの喫茶店発達障害児の学校?として、出発する所で終わる。

特大のカタルシスがあるわけでもなく、意外とあっさりとした幕引きな感じがしないでもない。しかし、これは過去のモヤモヤをリセットし、これから再スタートというところで終わるからそう感じるのだろう。私はこのラストは本作に合っていると思う。

1つは、アニメ作品を通じて知り合った、共に背中を押し合える仲間の繋がりの象徴として、MAHO堂という場所を手に入れた事。そしてもう1つは、この物語は安泰を得て終わるのではなく、これからも続く人生で訪れるであろう、喜び、悲しみ、挫折、成功と共に生きる宣言である事。こう受け止めた時に、相応しいラストではないか、と感じた。

ラストのどれみ達、子供の頃のソラ達のほうきで夜空に飛び立ち大きな満月の中にシルエットを写して飛び出してゆく幻影。

それは、主人公達の過去の姿を俯瞰で見ながら、今後の人生にも引き継がれ、夢に向かって上昇してゆくマインドと重なる。色々なしがらみに立ち止まってしまう事があっても、仲間と共に前に一歩踏み出す事は出来るのだと肯定してくれるラストだと思う。

本作におけるアニメ作品、アニメファンの描き方について

本作は、アニメファン同士の繋がりを描いた点が新しいと思う。

少し脱線するが、実は私も2,3年前、とあるアニメ作品の熱烈ファンで、SNSで少しだけ関わった程度の面識のない4人が、居酒屋にオフ会で集まって、作品の話だけで皆でノンストップで3時間喋り続けた経験がある。それはそれは、非常に楽しい時間だった。だから、ソラ達が異常なテンションで盛り上がる気持ちは分かる。

ただし、私の場合、ソラ達と違い、他のアニメファンの方の人生まで関わるような事は無かったし、通常は、その方が気兼ねなく会話できて良いと思う。(その意味で、ソラ達は、多少ファンタジー感はあるが、だからこその物語であろう)

また、アニメファンが聖地巡礼の旅で集まると言うのも今風で良いと思った。

こうしたファン同士で話が盛り上がると言えば、昔はプロスポーツだったり、歌謡曲だったりしたが、今はアニメ作品がそういう市民権を得た時代になった。アニメ作品は子供だけでなく大人も観る。そして、内容もピンキリで、緩いのもあれば、その人の琴線に触れて人生を変えてしまうかもしれない多様なアニメ作品が作り出される。

また、ソラ達は、子供の頃に観た「おジャ魔女どれみ」を好きな気持ちを大切にしていたし、今の自分たちに置き換えて、自分達を見つめ直していた。

私が思うに、「おジャ魔女どれみ」というアニメ作品は、女児向けでありながら、その時代の子供の悩みや葛藤を切り取りドラマを組み立てる。ドラマとしては1話という物語の中で完結はするが、万人に正解という解は無い。その時々に、問題提示を繰り返してゆくスタイルだったのではないかと思う。(それは、現在のニチアサにも連面と繋がっていると思う)

ただ、女児向けに感心を持ってもらうためにも、ドラマの引き込みが上手い。それはコミカルな描写だったり、キャッチーな変身シーンで子供心を捕まえる。

その意味で、本作は時空を超えて「おジャ魔女どれみ」作品と全く同じテイストで作られていた、と感じた。

それは、「おジャ魔女どれみ」のスタッフが、当時から真面目に大人にも刺さるドラマ作りをしてきた自負と、そのドラマを受け止めた心に残った何かの芽を大切に育てたファンが居てからこそ、成立するモノであろう。

こうした、アニメ作品をリスペクトするアニメファンを描いた点も、本作の新しい点と思う。

なお、こうした心に残る良作は「おジャ魔女どれみ」に限った話ではなく、無数のアニメ作品の良作が存在する。その意味で、本作の楽しさは、より多くのアニメファンに刺さるハズで、是非、多くの人に観てもらいたい作品と感じた。

おわりに

私は、本作は物語的には弱いけど、ドラマが強い作品だと感じました。

多くの物語は完結しますが、本作は未来に向かっての門出で終わります。ある意味、凹んでた状況をリセットして、ゼロスタートする状況で終わる。だからこそ、本作は気持ちいい終わり方なのだと思います。

生きていく上でゴールなんて、それこそ死ぬときであり、それまで一生、喜怒哀楽を繰り返す。人生に簡単な答えなんて無い。という作風に感じました。それが、今のニチアサにも連綿と続いていると思います。

私はアニメファンですが、そうした良きアニメ作品をリスペクトする作品であり、その事が嬉しく思える作品でした。

最初にも書きましたが、出来るなら、より多くの人に観てもらいたい作品だなと思いました。