ネタバレ全開につき閲覧にご注意ください。
はじめに
一部に良作との声を聞き、鑑賞してきました、映画「らくだい魔女 フウカと闇の魔女」の感想・考察です。
ちなみに、原作小説は未読で、予備知識なしで鑑賞しました。
子供向けではありますが、映画としての出来はよく、丁度良いジェットコースター感で60分以上の満足感がありました。
感想・考察
テイスト
そのまんま児童文学な映像のテイスト
原作は2006年から続く児童文学のシリーズものという事で、原作同様に観客ターゲットも小学生にも分かりやすいディレクションになっている。物語は、これから先に繋がってゆくシリーズものの序盤として、友達と一緒に学び、遊びを続けてゆく、というところでの〆である。
この文脈の中で、大人にしか分からない渋味や世知辛さは存在しない。
同じく2018年にアニメ映画化された児童文学原作の「若おかみは小学生」という作品もあるが、こちらは子供時代に作品に慣れ親しんで大人になったファンに向けての作品というニュアンスもあり、両親の事故死を受け入れるという儀式があり、大人への成長のニュアンスを込めていた。それと比較すると、本作はもっとストレートにらく魔女という作品をアニメ化してくれたものであり、大人への変な気遣いは入っていない。でも、本作ではそのストレートさが良いと感じた。
「劇場版」という言葉がイメージする通りのエンタメ作品
テレビシリーズがあったわけではないが、本作は「劇場版」という言葉がイメージする通りの活劇である。
作画は破綻なく終始きれいで、キャラは常に可愛い
アバンで悪役を紹介しつつ、途中からスペクタクルシーンあり、魔法バトルシーンありと、アクションシーンにも十分と尺を取り、ハラハラとドキドキを楽しめる。
「子供にも楽しめる作り」と書いたが、アニメーションが子供騙しというわけではない。
本作の演出は特別にトリッキーな演出はしておらず、オーソドックスで真面目な演出である。ニュアンスが細かすぎるということも、テンポが早すぎて取りこぼしてしまうということもない。スペクタクルなシーンでは映画らしい迫力ある映像と音響で、魔法バトルシーンではキャラの芝居もかなりの盛り上がりをみせる。
こうした、奇をてらわない王道の真面目な演出を丁寧に、かなりの圧力で映像に落とし込んできているため、自然と感動できる作りになっている。まさに、王道の映画である。
テーマ
シンプルだけど鉄板な「友情」というテーマ
悪役となるメガイラは、強大な魔力を持ちつつも、人から恐れられ幽閉され、光の魔女から闇の魔女に変化したという経緯である。つまり、仲間に裏切られ、他人を信用できなくなり、仲間を持つものを妬んだ、というのがベースである。
主人公のフウカも銀の城の姫君という事で、コントロールしきれず暴走気味ではあるが、強い魔力を持っていた。そこに、未来のメガイラという可能性を予感させておく。とは言え、フウカはまだ遊び盛りの普通の子供である。
フウカの親友でおっとりして優しいカリン、好きだから突っかかってくる感じの男子のチトセ、少し大人びたお兄さんのキースと一緒にメガイラと対決へと流れてゆく。
メガイラがミラールームでフウカに見せた幻覚は、友達が内心フウカの事をウザがっているというモノで、その幻に惑わされない力が試された。
途中、幻覚に思考停止して身を委ねそうになるピンチを救うチトセの頼もしさも嬉しい。
最後のメガイラとの対決では、カリンもチトセもキースもフウカを守って倒れつつ、それを受けてのフウカの魔力解放でメガイラを再び封印できたという鉄板の流れである。
ここまでであれば、先代までの冒険譚同様に、メガイラの怨念が蓄積したという状況に変化はない。しかし、フウカはメガイラの魂をも救済する所が一歩進んで今風だなと思った。
子供であること、親であることの境界線
個人的には、終盤で魔法で作った遊園地空間が崩壊してゆく中で、親たちが子供を助けにくるシーンは良いなと思った。安堵する親子の図。フウカの母親も一言目は叱りつけるが、二言目には無事でよかったと抱擁する。
先に書いた通り、本作は児童文学の映像化であり、遊び盛りの子供に世界を守る責任を押し付けず、まずは十分に子供として、友達と共に遊んだり学んで欲しい、という結末である。
本作はあくまで子供目線の作品である。
ストックも十分にあるシリーズ物の小説の序盤の映像化だから普通に映像化したらそうなるのは至極真っ当で、「若おかみは小学生」のように映画だからと大人への成長を描くというような欲張りがなかった事こそが、本作の真面目な良さだと思う。
アニメーションとして
上映時間60分について思うこと
一般的な映画に比べれば上映時間が60分とコンパクトである。もちろん、これは子供の集中できる時間からという観点もあるだろう。
しかしながら、長くもなく短くもなく、丁度良いジェットコースター感を楽しめたと感じた。体感的には90分の映画を見たような満足感である。
これは、カット数が多いとか、1カット内の情報量が多いとかの映像密度の高さではない。この辺りは、見やすさを重視しているためか、ごくオーソドックスな作りになっている。
私が感じたのは、60分の映像の中に、これだけの情報量を混乱することなく交通整理させて観客に届けるには、かなり綿密な設計が必要ではないか、という事である。
序盤のフウカは落ちこぼれを強調しつつも、徐々にシリアスになってゆき、不安があることや、葛藤してゆく様をグラデーションを持って描いてゆく。そこに、親友のカリンや、普段はケンカ気味のナイト役のチトセとの関係性を順番に乗せてゆく。
前述の通り、カットを短くしてカット数を増やしたり、1カット内に情報を多く入れるディレクションではないため、キャラの芝居の配分や台詞も精密さが必要になってくると思う。
個人的に好きなシーンは、遊園地に向かい始める時、チトセがハンカチを出し、カリンがフウカの涙を拭ってあげるシーンである。1つのイベントの中で、3人の関係性を的確かつ魅力的に描く。
もう1つ、メリーゴーランドでのチェイスシーン。友達が追ってくるワケだから攻撃は出来ないというジレンマなわけだが、チトセに対しては容赦無く蹴りを入れて落馬させる。その後、チトセに助けられて箒でタンデムしながらメガイラの追跡を交わすシーンで、フウカは攻撃魔法を発動して追手を撃退したものの、箒に着火してしまい、墜落してしまう。限られた尺の中で、このフウカとチトセのバディ感を初見の観客に一瞬で分からせるのは、シーンに無駄がなく綿密に計算され尽くした結果なのではないかと思う。
Production I.Gが作る、昔ながらの東映漫画映画
Production I.Gと言えば、3DCGスタジオも持ち、「攻殻機動隊」に代表されるような先進的でハイクオリティな大人向けのアニメを作る会社のイメージが強かったが、ここにきて東映アニメーションのような子供向けのテイストの作品を作ってきた事が新しい。
昨今の子供向け作品と言えば、東映アニメーションのプリキュアのような作品があるが、TVシリーズではここまでリッチな作画で作る事はないだろうし、そもそもキャラが背負っている社会性やメッセージ性が変に強すぎる。それに比べたら、本作は古き良き牧歌的な雰囲気の作品と言ってもいいだろう。
それでいて、劇場版作品ということもあり、作画の安定感は半端ない。それこそ、大昔の東映動画の漫画映画のような、職人気質の2Dアニメという雰囲気である。ニッチな作品とも言える。
それを、Production I.Gが作るというのは皮肉な感じもした。
惜しむらくば、せっかくのこのIPを60分の単発で終わらせるのは勿体ない。かといって、良作であっても弱小映画はかなり苦戦を強いられる現状で、映画でシリーズものを構成しても採算が取れない。TVシリーズなどでは、せっかくのこのクオリティを維持するのは困難となり、本作の意義が薄れてしまう気もする。などと、取り止めのないことを考えていた。
おわりに
分かりやすくて、演出強めなディレクションにより、素直に楽しめましたし、感動しました。
古き良き職人気質の2Dアニメという感じの作画の冒険活劇です。
深く突き刺さる感じではなく、広範囲の人が楽しめる娯楽作品ではないかと思いました。