たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

2022年春期アニメ感想総括

はじめに

2022年春期のアニメ感想総括です。今期の視聴は少なくて5本。以下、いつもの感想・考察です。

感想・考察

であいもん

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 和菓子のように繊細な人情ドラマの味わい
    • 背景、作画、文芸、演出、音楽、全方面にバランスの取れたアニメーションの出来の良さ
  • cons
    • 特になし

今期の吉田玲子シリーズ構成作品。監督は追崎史敏。制作のエンカレッジフィルムズは、最近の作品だとごちうさ3期を制作しており、中堅ながら堅実な作品作りという印象がある。

実際にアニメーションとしても変にリッチ過ぎたりせず、淡くて心地良いタッチの背景画や、スッキリとしたキャラクターデザイン、耳障りの良い劇伴など、心地良さ重視で不快に感じるモノは何もない。とはいえ、演出面で退屈するという事はなく、レイアウトや演出のテンポや音使いにもダルさもなく、設計意図が明確で心にストレートに浸透してくる感覚。この奇をてらわない作風が、本作の最大の魅力だろう。

キャストもかなり良くて、一果(CV結木梢)や、和(CV島崎信長)はその頑なさや大らかさのキャラのイメージにマッチした声質と演技であり、本作の魅力の1つだと思う。主要キャラが全員京都弁なのも、本作の挑戦だったのではないかと思う。ちなみに、「響け!ユーフォニアム」では京都弁が喋れることを条件にしたら声優が限られてしまうから、標準語にした、という話をどこかで聞いた。

シリーズ構成は、吉田玲子。四季の移り変わりとともに、和菓子屋で働く人たちの人情ドラマを描く。この手の作風には絶対の安心感がある。

物語としては、和をいい加減だと拒絶した一果が、時間の経過とともに和の優しさに触れ、和を受け入れていくという流れ。6話の運動会からツンツンしながらも和を家族だと認めはじめ、9話で和の誕生日に一果の一日デート券を渡し、12話で和と父親の事をはじめて会話して今の気持ちを打ち明けた。

和は無意識に父親を求める一果の事はずっと知っていて黙ってた。父親のこと、一果の気持ち、それらを否定も肯定もせず答えを出さずに、ただ家族として一果を笑顔に、元気にしたいという気持ちだけで見守ってきた。その気持ちが徐々に一果に浸透し、1年経ってずっと見透かされていた事に気付く一果。

思うに、和も祖父の台詞や、上京してしまった巴先輩によって心に空いた穴があったからこそ、一果の父親不在の心の穴に対するケアができたのではないかと想像する。和の中にこの虚無が無かったら本作は成立しなかったのではないかと思う。二人の待ち人が同一人物(父親=巴先輩)という事を知らないというのも皮肉が効いている。

11話の雪遊びとぜんざい、父親との別れの一果の悲しい思い出を、何も言わずに楽しくて温かい思い出に上書きしてゆく和。12話のCパートで、父親にいつか会える日が来る、その日までここ(緑松)でゆっくりしてき、という和の台詞が本気で優しい。それに対して、(もう)安心できているからここで待ててる、という一果の台詞。拡大解釈かもしれないが、緑松で甘えない一果が、ここで(主に和に)甘えられるようになったという変化だと思う。それが、本作の物語のゴールという事だろう。一果のこの1年の変化は大きなものだが、それを12話に小刻みに、四季の移り変わりとともに丁寧に描いているから違和感がない。

一果は父親と再会しないし、和も巴先輩と再会しないし、佳乃子とも寄りが戻るわけではない。原作漫画の連載が続いているということもあるだろうが、問題が解決してカタルシスが得られるわけじゃない。割り切れないモヤモヤした曖昧な気持ちを抱えながらみな生きている。そこを肯定も否定もせずに、気持ちを軽くさせてゆく物語が本作の上品な味わいだったと思う。

脚本は、吉田玲子、雨宮ひとみ、上座梟の3人体制。雨宮さんは追崎監督作品でよく書いている方。上座さんはのんのんびよりりぴーでも脚本を書かれていたがそれ以外の仕事の経歴はなく、ペンネームではないかと想像している。2人とも手堅い仕事が印象的であったが、やはり吉田玲子脚本回のわびさびは一味違うと感じた。

触れるのが遅くなってしまったが、本作は人情ドラマをベースとして、そこに差し込まれる微笑ましいコメディ要素も楽しかった。一果のいけずな皮肉と和や佳乃子のタジタジ感や、和に対する佳乃子と美弦のライバル関係が笑いになるのだが、その辺りのシリアスと笑いの調和も美しかった。

個人的に好きだったキャラは佳乃子。和は佳乃子に振られたと思っているが、佳乃子は私よりも実家(=和菓子)を取ったとして意地を張って収集が付かなくなった元カノという設定。佳乃子が何とはなしに昔話していた祇園祭に来てみたものの、一果と出会い、和と再会する。その後、和菓子に軸足を移してゆく和を見ながら、私だけを見てという年頃でもなく、ふわふわした自分の気持ちを整理してゆく。私、ちゃんと和菓子も好きだから。精一杯の現状の気持ちを伝えたのだろうが、復縁してほしいと言うわけでもない。私が和の一番でなくてもいい。昔のように白黒つけずとも、曖昧な現状を受け入れる。満足げに一人公園で栗饅頭を食べる佳乃子もまた、曖昧な優しさの中で生きる、本作を象徴するキャラだったと思う。

パリピ孔明

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 孔明というトリッキーな設定の面白さ、それを違和感なく作品に取り込んでいる文芸や演出の巧みさ
    • 軍記モノでありながら、敵をも救うという今風な文芸の新しさ
  • cons
    • 特になし

制作のP.A.WORKSは、オリジナルアニメーションと小説原作に注力してきたイメージが強かったが、今回は漫画原作である点が珍しい。音楽制作はエイベックスが参加。クラブやラップも扱うため、音作りも余念が無い。主人公英子の歌が肝という事もあり、CVの本渡楓とは別に歌唱は96猫が担当し、説得力のある見事な歌唱を披露してくれている。また、KABEのCVの千葉翔也も声優ながら見事なラップの演技を聴かせてくれる。監督は本間修。シリーズ構成は米内山陽子。メインスタッフもP.A.WORKSの世代交代を感じさせてくれる。

楽器演奏シーンもあるが、そこは際限なくヌルヌル動くという事もなく、メリハリをつけていい感じにリソース配分していたと思う。このメリハリは、コミカルな日常シーンなどにも効いていて、それは漫画的な動きやコマの省略とも言える。逆に原画的な崩れはほぼ無く、クオリティのバランスの良さを感じる。リッチ過ぎるアニメーションが多くなってきた中で、逆に動けばいいってもんでもないという主張にも思える。

本作の最大の特徴は、現代の日本に三国志諸葛亮孔明が登場し、売れないシンガーの英子の軍師(≒プロデューサー)となるという奇抜な設定だろう。三国志をモチーフにした孔明の計略などを丁寧に積み重ねてゆくが、妙に説得力がある。孔明にかかれば全てがお見通しで、敵も味方も手のひらで転がされているだけという、ある種の名探偵モノのような爽快感がある。私は三国志には明るくないが、中国人のライトな歴オタ層も納得との事なので、よっぽど綿密にネタを仕込んでいるのだろう。こうした小ネタの積み上げが上手いから、孔明が現代に転生するという大きな嘘に目くじらを立てるという人はいないだろう。

物語は、基本的には英子、KABEが壁を乗り越えて行くサクセスストーリーであり、ラストに向かって最大のライバルの七海率いるAZALEAとのタイマンという流れである。そこに、孔明の秘策というスパイスが入り、不可能とも思える成功を掴み取とり、勝ち進んで行く。ただ、本作は三国志のテイストと異なり、今風な2つの要素を盛り込んでいる。

1つは、敵との勝負でありながら、敵を完膚なきまでに叩き潰すのではなく、敵もまた救われるという構図。孔明は、戦乱の世で大量の人の死を扱ってきたので、今度はそうした命のやり取りの無い世界にしたいという孔明の願いがあった事。そして、英子の民草を救う歌声にほだされたという面もあっただろう。ある意味、勝つために冷徹とも言える孔明という人物の変化が、本作の物語の救いの1つにもなっている。

そして、もう1つは英子の歌う目的が、サクセスや勝負そのものではなく、民草を救うためである事。今回の例だと、DREAMERはライバルである七海のために歌う。英子の気持ちが、七海の心に響けば英子の勝ちという構図ではあるが、英子は七海を救うために歌う事が軸にあった。これが、今までの軍記モノとは根本的に異なる点であろう。

この辺りのバトルものでありながら、Win-Winの関係とも言える敗者を作らない(=他者を否定しない)物語が、本作の文芸の新しさである。少し脱線するが、「平家物語」は戦記モノであり、敗者である平家を中心に描いたが、その死者たちを忘れず心に生かし続ける事を「祈り」として戦乱の世の大量の人死にを描いた。繰り返しになるが、こうした従来の戦記モノとは一線を画す作風が特徴である。

キャラデザインもキャラ設定も複雑すぎず、明快な分かり易さがある。この辺りは漫画原作の良さであろう。やはり、個人的には英子が素直で可愛いくて好みである。CV本渡楓の自信の無さが、どことなくにじみ出る演技も良かった。ライバルであり親友でもあった七海もまた、苦悩と葛藤を持った人間性のあるキャラで好感が持てた。何より、荒唐無稽ともいえる孔明のキャラもまた、血の通ったリアルな人間としての葛藤を持って描かれていた点が良かった。

孔明というファンタジー現代日本での芸能活動というビジネスの戦場のリアリティ、その劇画的な組み合わせが意外なほど調和して、嫌味のない物語が紡がれる。本作が、引っかかる事なく心に浸透してきたのも演出の巧みさ、バランスの良さであろう。

BIRDIE WING -Golf Girls' Story-(1クール目)

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 脚本、演出ともに見せ方が非情に上手く中毒性のあるバトル描写
    • 大味な事が魅力になる豪快な物語と作風
  • cons
    • 初見で、キッズ向けと舐められてしまう事が少々勿体ない

制作はBN Picturesの異色の女子ゴルフアニメ。監督は稲垣隆行。シリーズ構成、全話脚本は黒田洋介という布陣。

1話放送時点で、「プロゴルファー猿」だの「ゴルフ版スクライド」などの評判を聞いて視聴を決めた作品である。正直、当初は面白さのポテンシャルは理解するが、ガンプラ要素などの雑味が多く、繊細さに欠ける大味なディレクションという第一印象であった。しかし、作品に身をゆだねていくうちに、些末な事は気にならなくなり、楽しさが癖になる、中毒性のある作風である事を確信した。

個人的にバトルモノにハマれない傾向があるのだが、その理由はバトルそのものがルーチンワーク的になり説得力が無くなってしまうケースが多々あるから。また、ドラマ面がおざなりになりやすい。昨今の良く出来たドラマを持つアニメ作品群の中で、キャラたちがボロボロになりながらも次々登場する強敵と戦い続けるメンタルが分からなくなってきて、そこを冷静に考えてしまうと冷めてしまうという負のループがあった。

しかし、本作はイブと葵という二人の強者の惹かれ合いを軸に、命懸けの賭けゴルフやマフィアの抗争、大資本によるゴルフブランドの経営戦略など、スポーツの枠を超えた破天荒な設定を盛り込み、確信的に馬鹿馬鹿しいとさえ思える劇画的な要素を盛り込む。例えるなら、昔のカンフー映画のテイストに近いと思う。ロジックとしては互いに求めあうライバルたちの感情が最大の原動力になっており、呆れるほどシンプルでパワフル。

また、イブの文字通り直球過ぎる豪快なゴルフも、本作の爽快感に一役買っている。絶叫しながら繰り出されるブルーバレットの過剰なデフォルメ絵のカット。その度に劇伴に流れる調子のいいギターリフ。この辺りは映像的な麻薬要素である。最初はギャグとして見えたこれらのカットも繰り返し見るうちに、勝手に感情が乗っかり、打ち込んだ爽快感を共有してゆく。強力な敵を相手に不可能とも言えるショットを次々と繰り出してゆくイブ。そして、相手のメンタルをへし折る快楽。

こうしたショットを輝かせるためにはバトルものとして良く出来ている必要があるが、本作はそこが脚本、演出ともに上手い。対戦相手との格上格下の関係を的確に表現し、相手の強さを見せて、不可能かと思わせる勝負にも打ち勝ってゆくイブ。しかも、次々と強敵を倒してゆく流れの中でダレが一切ない。勝負の状況説明にリリィやイチナを使っている点も、良くある手法ながら効いている。

キャラも濃くて面白い。天才の両親を持つサラブレッドの葵。身寄りがなく、とある人物に徹底的に相手をへし折るゴルフを叩きこまれたイブ。当初、敵か味方か分からなかったローズというダークヒーロー。凶悪なルックに対し、人生をエンジョイしているヴィペールなどの癖のあり過ぎるキャラ達の生き様。そして、雷凰編で登場するゴルフ部長の神宮寺、アプローチの天才飯島薫子、穂高一彦譲りの高精度ゴルフを見せる姫川みずほ。ネタの出し方も最高にワクワクする。これらはもう、「巨人の星」などの昭和スポ根を連想させるノリである。

つまり、本作の醍醐味を一言で言うなら、童心に帰ってバトルを楽しめる豪快な作風にある、と私は考える。

シリーズ構成は、今風な要素を散りばめながら、古典的なスポ根モノの基調としている。ストーリー展開の上手さ、ナフレスから日本への大胆な舞台転換、イブの生い立ちの謎など、飽きさせずに魅せる工夫が随所にみられ、その上密度が高い。この辺りは、流石は、ベテラン黒田洋介の仕事といったところだろう。

作画が粗いと感じる事もあるが、それさえも味に思えてくる。本作は、そんな中毒性のある作品だと思う。

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期

  • rating
    • ★★★★☆
  • pros
    • 原典となるスクスタ要素を丁寧に再解釈し、12人+1人のキャラ愛溢れる物語に昇華させた文芸
    • 1期と変わらず、脚本、キャラ、歌唱パートの密着度の高さ
  • cons
    • 既存の9人のドラマは1期で一度完結しているため、前半は仲良しクラブ的なノリが強く、1期に比べてヒリヒリとしたドラマは薄くなってしまったところ

ラブライブの名を冠しながら、スクールアイドル甲子園とも言えるラブライブに出場しないという大胆なディレクションが印象的だった1期。2期はそこから、わずか1年3か月というインターバルで放送されたという事を考えると、割と突貫工事だったのではないかと思う。ポイントは、3人の新キャラ追加と、従来メンバーのソロではなくユニットでの楽曲披露。これらも、原典となるスクスタの要素を反映したものだが、そのキャラをより大切に再解釈するシリーズ構成は相変わらず見事としか言いようがない。

香港から来た嵐珠は自信に満ちた歌唱でファンを魅了していた。その強気な性格から友達ができないことの反動で、スクールアイドルとしての個人活動を極めて、ソロ活動をメインとしていた虹ヶ咲に転入してくる。しかし、そこでもユニット活動が始まっていたり、唯一の友達だったと思っていた栞子の気持ちに寄り添えていなかった事実に気付き、虹ヶ咲を去ろうとする。ところが、適性がないと諦めていたスクールアイドルになる決意をした栞子、過去の失敗から諦めていた歌唱への再挑戦を決意したミアに引き止められる形で、同好会でユニットを組む約束をした。ここで嵐珠は改めて友達つくりという夢をやり直す、という流れ。

ここでポイントなのは、同好会は個人を否定しないバラバラの集団でありながら、互いの夢を応援する仲間であるという事。2期の前半は、従来のメンバーがユニットを作り活動してゆく流れだが、徒党を組む事が同調圧力ではない事を強調する。QU4tRTZ(かすみ、 璃奈、エマ、彼方)はユニットを組む際にディレクションがバラバラである事をメンバー全員が再認識するが、互いの個性を尊重した形でユニットを纏める。DiverDiva(愛、果林)は馴れ合いではない切磋琢磨するライバル関係。A・ZU・NA(歩夢、しずく、せつ菜)は、自分一人で出来ない事でも他人を巻き込んで上手く他人を頼る事で乗り切れるチームワークと信頼関係が描かれる。この辺りの繊細な文芸面も見事。

12話は、侑と歩夢がそれぞれの夢を追うことが互いの距離の開きに繋がるため背中を押しにくい、というドラマが描かれる。それは、ラブライブ出場者へのエールを経て、エールに距離は関係ない≒距離があっても気持ちは一緒という結論に至る。夢への躊躇を取り除き、夢に正直にという虹ヶ咲のセオリーに則った展開である

13話は、侑へのファンレター=侑もトキメキを与える側とし、同好会のFirstLiveでファンへの感謝の気持ちと、夢を追いかけるバトンを視聴者につなぎ、幕を閉じる。

特に凄いなと思うのは、本作はたった数カットにさえも的確に意味を込め、しかもファンはその数カットから意味を的確に汲み取るという、強固な信頼関係の上に成立する作風であること。例えば、11話のお泊り会で3年生組の線香花火から果林の「もう消えちゃうわ」で、同好会の終わりを予感させる。例えば、12話のCパートで歩夢宛の英文メールと侑の作曲コンクールの下りで、それぞれの夢に向かっての別れを予感させる。そうして、確実に風向きを示しながら、次の話に繋げて行く。この辺りのディレクションのきめ細かさは本作の強みであろう。

ここまでポジ意見を書いてきたが、最後にネガ意見を。

繰り返しになるが、スクスタを再解釈して、ファンを気持ちよく喜ばせる作品を作り出しているスタッフの手腕は本当に凄いと思う。しかし、色んなネタを背負い過ぎていて、複雑なパズルを組むみたいな仕事になっていたように感じる。13話のライブシーンに映る観客席のモブキャラたちも、全て過去に登場してきたキャラだろう。そうした積み重ねの上に同好会も本作も成立しているのは理解する。しかし、それゆえにオーバーヘッドが大きく演出の身動きが取りにくくなっているような感じを受けた。

また、1期では9人+1人の個人の葛藤、問題を解決してゆくドラマであったが、2期では個人の確立の葛藤のドラマが新キャラ3人だけに減った事。これにより、同好会が仲良しクラブ的に見えてしまいがちな事。この辺りで1期に比べてパンチ力が落ちたという感触もあった。中にはソロ活動と仲間を逆ベクトルに感じてしまい、違和感を抱く視聴者もいたかもしれない。しかし、実はこの2つは完全に別のベクトルであり、二律背反ではないことが丁寧に描かれている。2期はそこの見せ方、伝え方が難しいテーマであるのは間違いないが、その意味ではよりソロ活動寄りの1期の方がシンプルで分かりやすく私好みではあった。

ラストも、夢のバトンを視聴者に繋いで完結するが、そこもありきたりで実感が薄い。シリーズ構成の田中仁さんは、もともとエモい話が得意な人なので、元ネタの再構成という制約に縛られ過ぎなければ、もっと自由でエモい話が書ける人だと思う。無駄に衝突を描いて欲しいというわけではないが、複雑なパズルを全て丸く収めてゆくのにエネルギーを使い切ってしまい、1期よりもエモさがすり減ってしまったように感じた点は、ネガ意見として書き残しておく。

SPY×FAMILY(1クール目)

  • rating
    • ★★★★☆
  • pros
    • リッチ過ぎるアニメーションの出来の良さ
  • cons
    • 期待していたスパイのシリアスよりも、コメディ重視な作風(2クール目までのタメなのかも知れない)

まず、本作は分割2クールの前半が終わったところであるため、評価は保留とさせていただく。

PVの時点から隙がない作品の印象であった本作。制作は、WIT STUDIO×CloverWorksという2社で行うという点も変わっている。監督、シリーズ構成は古橋一浩。ジャンプの集英社は勿論のこと、東宝もプロデューサーに関わっており、ビックプロジェクト感を漂わせる。

物語の骨子は、スパイの父、殺し屋の母、超能力者の娘が、それぞれの都合で寄せ集まった疑似家族。父親のスパイ活動のために娘を優秀な学校に入学させ、要人とコンタクトを取り、戦争を食い止めるというシリアスな物語と、気楽に見れるコメディな物語と、一粒で二度美味しい的な作風となっている。

実際には、娘(幼女)のアーニャの可愛さを前面に押し出したコメディ色が強く、シリアスな部分の進展は遅い。これは想像だが、2クールの中で起承転結の「起承」のみとなるから、後半のシリアスに向けた序盤ではないかと想像する。後半のシリアスをより強調するためには、偽りのぎこちなさの中にも幸せな家族という部分を刷り込んでおく必要がある。だからこそ、ほぼ進展しない様な日常をたっぷりと描いておく必要があるのではないかと想像している。

本作のテーマは、それぞれに目的を持つプロでありながら、偽りの家族を演じつつ、その役に本心の比重が移ってゆくところにあると思う。世界平和と家族を天秤にかける、ヒューマンドラマとしてのポテンシャルを十分に持っている。そのことは、ED曲「喜劇」や、OP曲「ミックスナッツ」の歌詞を見れば一目瞭然であるが、1クール目では、よりコメディで楽しく見れる作風に感じられる。

最後になったが、本作のアニメーションはリッチで良く動く。映像的にも情報量が多く緻密。とにかく高カロリーな作風で、鉄壁な完成度で非の打ちどころはない。だが、どこか上品過ぎて、突き抜けた面白さに欠けるようにも感じる。その意味では、バーディーウィングと対照的である。

個人的には、文芸面でもう少しシリアス寄りを期待するが、この辺りの後半の展開は、実際に2クール目を見てからの判断になる。

おわりに

今期も多様性に富んだ作品群がある事の幸せを感じながら視聴した。今期の中で特殊な位置付けにあったのは、やはりバーディーウィングだと思う。唯一無二の中毒性ある豪快な作風で、2期も楽しみでしかない。

しかしながら、個人的にはであいもんの人情ドラマでありながら、毎話凝ったドラマが入っており、1回では味わいきれず、何回か見て味わいを深めて見ていた作品なので思い入れが強い。やはり、吉田玲子脚本は一味違うというか、好みだなと再認識した。

パリピ孔明などの文芸の新しさを感じた作品と、バーディーウィングの文芸の古さが共存が面白いと感じたクールであった。