たいやき姫のひとり旅

アニメ感想など…

2022年冬期アニメ感想総括

はじめに

2022年冬期のアニメ感想総括です。今期、最終話まで視聴した作品は下記。

  • その着せ替え人形は恋をする
  • 明日ちゃんのセーラー服
  • スローループ
  • 異世界美少女受肉おじさんと
  • ハコヅメ
  • プリンセスコネクト Re:Dive Season 2

なお、平家物語は現在視聴途中のため、後日追記する予定です。追記しました。

感想・考察

その着せ替え人形は恋をする

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 徹底的にネガティブ要素(=ストレス)を排除した、新感覚ラブコメの作風
    • 演出、作画、芝居、音響、撮影の力が全方位に出来が良いアニメーション
  • cons
    • 特になし

今期の台風の目、CloverWorks制作アニメ2本柱の1本。アニメーションプロデューサーの梅原翔太は「ワンダーエッグ・プライオリティ」も担当しており、個人的に放送前から期待は高かった。監督は篠原啓輔、シリーズ構成・全話脚本は冨田頼子。原作はヤングガンガン連載のラブコメ漫画である。原作者の福田晋一先生も理想のアニメ化と感謝するほどの良きアニメ化であった。

本作はコスプレを題材にしたラブコメでありながら、従来の文法をいくつか無視した新感覚のラブコメと言える。

従来の恋愛モノは、恋のライバルが恋愛相手を取った取られただの、どちらか片方の異性を選ばなければならないだの、浮気や二股などの裏切りだの、なんらかのストレスを抱えたドラマ作りがベースにあった。ストレスフルな葛藤があるから、恋愛の勝者敗者の分かれ目があり、物語を紡ぐことができた。しかし、本作はこのストレスが無い。勝者も敗者もいない。恋愛の楽しい点を集めて物語が進むという点が新しい。

例えば、海夢と新菜のカップルに対し、結果的に新菜に好意を寄せる紗寿叶というキャラが中盤から登場する。従来のラブコメなら三角関係のドロドロした展開は必至だが、本作ではそうはならない。例えば、新菜がこっそり心寿のコスプレ衣装を作るために新菜が心寿を自室に招き入れた事の違和感に海夢が気付いたのに、数秒後には忘れている。例えば、11話でラブホテルであわや一線を超えそうになるが、12話ではその事は触れられない。明らかに、恋愛モノのストレスを意識したイベントも配置しつつ、ことごとくそれをキャンセルしてしまう展開で埋め尽くされている。

また、本作の序盤は、男子なのに雛人形好きという事を否定された新菜の存在を、強い憧れだけでコスプレに突っ走ってくるJKギャルの海夢が全肯定する事で救われる展開になっている。海夢の表裏のない性格の良さ、読モするほどの美貌、そして若さ弾ける色気、その全てのパワーで視聴者もすぐに海夢に惚れてしまうという感じの高感度キャラである。

そして、ここがポイントなのだが、新菜は海夢の好きを肯定する部分を尊敬し、エロさには興奮している。一方、海夢は新菜の他人が好きなモノを徹底的に理解した上でコスプレ衣装を作るという誠実さが魅力なのだが、あるタイミングから、海夢は明確に新菜に恋愛対象として惚れる。

海夢と新菜はお家デートをする程の仲であるが、コスプレという趣味を主題にしているため、淫らな展開には辛うじてならない。特に新菜は理性と本能を完全に分離しているので、その点が観ている側のじらしポイントになる。とは言え、二人の関係は好き同士。デートをしてもうぶな輝きを描く事になるので、とにかく爽やか。ここが本作の肝と言える。

今のところ新菜→海夢はエロさの欲情よりも尊敬の理性が勝っている。仮に二人が一線を越えてしまうとプラトニックではなくなってしまう。大人ならばそれもアリだし、それも青春だが、それは本作の目指す世界ではないのだろう。文芸的にはこの理性と欲情の狭間のバランスを絶妙にキープしているが、ヤジロベーのように妙な安定感、安心感がある。

また、本作は演出、作画、芝居、音響、撮影の力が全方位に強い。

最も印象的だったシーンで説明すると、8話の江の島デートのシーンである。江の島の海岸で二人で裸足で過ごすシーンの海が淡いエメラルドグリーンで描かれる。水面は日差しが反射してキラキラと眩しい。くるぶしまで二人で浸かったシーンは、その世界に二人だけしか居ないような、そんな没入感と特別完を演出していた。実際の江の島の海はもっと深々とした緑色で、砂浜は灰色で、空は青色か灰色だろう。

この時点で海夢は新菜に完全に惚れていたので、海夢の事だけを見て、恥ずかしい台詞を言っては一人赤面していたが、新菜の方は自分の知らない世界に来て遠くの海の方を眺めていた。つまり、このデートのシーンに海夢は恋愛対象の新菜を見ているが、新菜は海夢を見ずに未知の世界のその先を見ていたというすれ違いのニュアンスをこのシーンに込める。ただ、多くの視聴者は二人のラブラブだけが印象に残るので、すれ違いの寂しさはあまり感じずに尊い多幸感だけが残る。つまり、そうした隠し味や出汁をキッチリとシーンに乗せて料理しているので、完成したアニメーションを見たときの満足度(=旨味)が半端なく高い。例えて言うなら、高級レストランの食事である。これは一例だが、全ての話にこのような上質でコントロールの行き届いたシーンがあり、それをテレビシリーズで見られるという事が驚異的である。

このように、好きの肯定による救済、エロくはあるが淫乱にならずピュアな恋愛、ストレスキャンセルな軽快な作風、コメディの楽しさ、そして上質なアニメーション。これらのポジティブ要素が奇跡的に、否、綿密な設計の上に作り込まれたクオリティの高さが本作の魅力である。

12話は、コスイベント無しで、夏休み中盤から最終日までの海夢と新菜の充実した生活を描く。海夢に連れてきてもらった花火(=新世界)。スマホ越しに遠距離添い寝する海夢と新菜。ただし、恋愛の矢印は海夢→新菜止まりで、相互恋愛の一歩手前で1クールを占める。幸せの絶頂のちょっと手前。松任谷由実の歌で言えば14番目の月である。2クール目も十分あり得る作品だと思うが、この余韻で止めるとろこも絶妙。シリーズ構成の各話の刻み、バランス感覚も見事だったと思う。

明日ちゃんのセーラー服

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 物語性を敢えて希薄にし、アニメーションの動き、演出に全振りした作風
    • 美少女の身体、仕草、表情で煌めきを描き切る作画
  • cons
    • 特になし

原作は博先生による漫画だが、今までの漫画にない斬新な作風が特徴の作品である。それは、グラビア雑誌のような精密なポージングや服の皺を再現した作画だったり、一連のアクションをストロボ撮影したような動きある絵を何枚も描いたり。おおよそ漫画表現では高カロリー過ぎて適さない事に、敢えて挑戦している作品だと言える。

監督は「空の青さを知る人よ」で長井龍雪監督と共同演出していた黒木美幸。シリーズ構成、全話脚本は 山崎莉乃。アニメーション制作は、今勢いに乗っているCloverWorksという布陣。

本作の最大のウリは、美少女の身体、仕草、表情の煌めきをアニメーションで動かし表現しきる、という点にある。ここを魅せる作風なので、乱暴に言えば複雑な物語はノイズになる。

本作のあらすじを書いてしまうと呆れるほど超シンプルである。田舎に暮らしていたキラキラした主人公の明日小路が、セーラー服を着て入学したての中学校でクラスメイト全員と友達になって、さらにキラキラしてゆく物語、である。小路は運動能力が極端に高く、歌も踊りも上手く、底抜けに明るい。そして、クラスメイト達はそんな小路に憧れ、もっと言えば小路に惚れてしまう。そこに妬みや憎しみなどの負の感情はなく、あくまでもピュアに小路を好きになる。

客観的に考えれば、このあらすじだけを紹介されても胡散臭いと思うのが普通だろう。しかし、実際にはアニメーションを見て、私自身も小路が好きになり、この物語を信じられてしまう魔力が本作にはあった。

それを信じさせるには、小路がキラキラしていなければならない。SNSでもフェチアニメなどと騒がれていたが、この魔法をかけるのに必要な説得力が、通常のアニメでは考えられないくらいリアリティを持った動きやポーズであったのだと思う。つまり、可愛いとか可愛くないというレベルを超えて、そこにその生身の人間が居る、という感覚を視聴者に与える。一つ断っておくと、アニメーションのリアリティは、実写のような生っぽさとは違う。むしろ、実写よりもデフォルメされ誇張される事で大げさな動きとなり、実写以上の躍動感を違和感を与えずに表現できる。そして、躍動感=小路そのものである。その意味で、本作はアニメーションでなければ適切に表現しえない作品だったと思う。

本作で特に凄いと感じたのは7話と12話なのだが、それぞれに異なる独特の印象を持っていた。

7話は、蛇森が小路にせがまれて、そこから独学でギター演奏を勉強して小路に演奏を披露する回である。7話を始めて観たとき、私は瞬きも、息をするのも忘れると感じるくらいに、画面に食い入り、ガチで泣いてしまった。蛇森の心情に寄り添い、それがストレートに伝わってくるため、視聴していて蛇森自身になり切っていた。

さびれたギターの弦を弾いたときの音に対する感動。コードの多さへの驚き、焦燥感と折れそうになる気持ち。演奏当日の小路を誘うときの清水の舞台から飛び降りる感覚。ハプニングで聞かされた木崎のピアノとの格差の絶望感。気持ちを積み重ねた練習曲チェリーを披露する際の緊張感。たどたどしい演奏を肯定された安堵感と達成感。上機嫌で更なる練習に励む高揚感。

20分余りの尺の中に、物凄い情報量の感情が、交通整理されながら途切れることなくすんなり入ってくる。ここまで心情が浸透してくるのは、演出力の高さのゆえ、だろう。

7話は物語的にもコンパクトながら出来が良かった。蛇森の学生寮の同室の戸鹿野の存在が効いている。それは、小路と戸鹿野の雑談で地道なステップアップの喜びを共有→戸鹿野自身のスランプの克服→戸鹿野が牧羊犬のごとき蛇森の導き→蛇森が小路に拙いギター演奏をプレゼントする→小路が元気をもらう、というやる気の循環を描いている点が美しい。

12話は、体育祭の後夜祭での演劇部の小路のダンスを見せつつ、体育祭の各種目をフラッシュバックしながら、1日の小路の興奮の絶頂を振り返る。ダンス前の直前の緊張感から、木崎のピアノ演奏に合わせたセーラ服の小路のダンス。伴奏が途切れないから、視聴者に息をつく暇を与えない。各種目のクラスメイトの活躍、小路たち応援団のエール、勝ち負けに一喜一憂するクラスメイト。木崎の演奏は途中でバイオリンの演奏に切り替わり、体育祭のトリであるバレーを最高に熱くドラマチックに見せる。最後は小路のファインプレーで試合を勝ち取り、1年3組は優勝する。この序盤からの盛り上がりがダンスの勢いとも重なり、小路のダンスも大声援で幕を閉じる。ここに物語は無く、小路と1年3組のクラスメイトの熱い情動だけがある。各種目のスポーツとダンスをアニメーションと音楽だけで魅了しきってしまうところが、本作の演出と作画の凄いところである。このAパートの15分強の時間、映像とともにエクスタシーを迎えてどっと疲れた、という感覚になった。これこそが、本作の真骨頂であろう。

こうして振り返って整理してみると、本作がいかに例外的な作品だったか理解できる。従来のエンタメ作品が持つ物語性は敢えてシンプルに削ぎ落し、美少女の煌めきのエッセンスだけを取り出し、アニメーションの快楽にリソースを全力投球するという作風である。別の言い方をするなら、圧倒的な躍動感の演出の凄み。非常に稀有で、ある意味ストイックな作風と言ってよいだろう。

エンタメ作品の多様性は喜ばしいので、このような超変化球、かつ剛速球な作品が出て来た事を、素直にうれしく思う。

PS.

7話視聴時点で書いた感想・考察ブログに、「明日ちゃんのセーラー服=ブルセラのグラビア写真集・イメージビデオ」と書いた。

これは、本作の前半の違和感について考え方をまとめたモノだが、今でもこの考え方は強く持っている。しかし、後半のクラスメイト全員が小路の友達となり返ってくるという、巨大なクライマックスめがけて収束してゆく熱い展開には、ブルセラ的な匂いは感じない。前半と後半でテイストがガラッと変わった、と言ってもいいくらいに違う。これは、おそらく物語を持たずに絵的な作品として連載開始した原作漫画が、連載途中にもとから持っていたキラキラを物語として昇華させた後付けのものではないか、と想像している。

そして、アニメスタッフは全12話を通してそのキラキラを、演出や作画や音響などの精密な設計と技術力で映像として結実させた。そこに本作の凄みがあると思う。

スローループ

  • rating
    • ★★★★★
  • pros
    • 王道きららで、誠実な家族の人間ドラマを描く、大人も楽しめるお菓子のような作風
    • メインは人間ドラマで、趣味(フライフィッシング&料理)はサイドディッシュ的な主従関係のバランス
  • cons
    • 特になし

王道直球のきららアニメ。シリーズ構成の山田由香は「私に天使が舞い降りた!」「恋する小惑星」などの温かみあるドラマ作りが印象的な脚本家。監督は秋田谷典昭。制作はCONNECT(≒SILVER LINKS)である事から、中堅レベルの以上の手堅い作品になる期待があった。

登場人物は、他界した父親の趣味だったフライフィッシングを嗜む、少し陰のあるひより。持ち前の明るさと料理の腕前でひよりの殻を破ってく義理の姉の小春。少し大人でひよりに寄り添う幼馴染の恋。この3人のJKを中心に紡がれるドラマである事が、1クール作品としての収まりを良くしている。他にもJSの双葉と藍子や、働く女性である一花とみやび、それぞれの両親や兄弟など家族の繋がりの物語を、春から秋にかけての季節の変化とともに描く。

本作が他のきらら系と異なるのは、片親の死別や再婚などの重めで繊細なドラマを真面目に盛り込んでいる点にある。単なるキャッキャウフフな作風ではなくビターな味わいと言える。例えるなら、お菓子なのに高級なドライフルーツやラム酒を使った深みある大人の味わい。脚本はシリーズ構成の山田由香と大知慶一郎の2名体制で、どちらも脚本も繊細な女子の心情を描く事には長けている。個人的には山田由香は人情味あふれる物語をまとめる事ができる吉田玲子フォロワーの最有力候補ではないかと考えている。

物語の軸は、どちらかというと他者との交流を拒みがちだったひよりが、義姉の小春と出会って心を開き、徐々に勇気を持って能動的になり、様々な人の繋がりを持って生きて行くという感じである。そこに家族への気遣い、亡者への想いが乗ってくる。ひよりにはボーイッシュな雰囲気も少しあり、ボーイミーツガール的な印象を当初抱いていた。

しかし、元気一杯で無敵に見える小春も、他者に心配をかけまいと無理に頑張りすぎるきらいがあり、そうした弱さも抱えている面も見えてくる。。8話で風邪で迷惑をかけたと言う小春に対して、家族なんだから甘えてもいい、というひよりの台詞が沁みる。

また、ひよりの幼馴染の恋の存在も本作の要である。釣りバカの父親を持ち、釣具店の店員をしていることから釣りの知識は長けている。恋は、父親が他界して落ち込んでしまったひよりに寄り添う事は出来ても、ひよりを元気づけられなかった事を罪のように感じていた。小春の元気はそこを軽々と乗り越えてひよりを引っ張り上げた。それを認めざるを得ない恋。ひよりをめぐってライバル関係にある小春と恋だが、互いの長所も認め合う関係である。

そんな恋だが、11話のひよりの告白により、昔恋が軽はずみに言ってしまった「再婚おめでとう」の言葉が、ひよりが母親の事を考えるきっかけになり、現実の母親の再婚に繋がり、今のみんなの繋がりがあるのだから感謝していると伝えられる。恋が抱えていた自己否定を、ひよりの告白が肯定し恋を救う。この物語の確かさに唸る。

フライフィッシングのウンチクやお手軽料理の紹介も散りばめられ、趣味モノとしての側面もキッチリ描かれていた。ただし、ガチの趣味モノというより、サイドディッシュ的な要素になっていた。あくまで、物語が主でフライフィッシングは従である。

フライフィッシングに限らず、釣りはあくまで集団競技ではなく個人のスポーツ(≒遊び)である。魚と向き合い、自然と向き合い、最終的には自分自身と向き合う事になる。ひよりが内向きな性格なのも、フライフィッシングという居場所に定着してしまった事と関係あるのだろう。面白いのは、他者に積極的に干渉しながら、内心寂しがりの小春がそれなりにフライフィッシングにハマっているところである。12話では、コンテストという事もありひよりと離れた場所で、恋の助言を受けながら、小春自身が考えて一人で魚を釣り上げるシーンがあった。負けず嫌いな性格もあるが、基本は一人という釣りの世界が、小春の心に良い効果を与えているような気がしてならない。大袈裟かもしれないが、フライフィッシング要素を通じて、べたべたに依存していない、健全で対等な人間関係を感じられたように思う。

最後に繰り返しになるが、完全なききららテイスト(=文法)でありながら可愛いだけじゃない、優しさ溢れる手堅いドラマ作りが本作の持ち味であり、その期待に見事に応えてくれるクオリティだったと思う。その意味で、今期一番の良心的な良作だったと思う。

異世界美少女受肉おじさんと

  • rating
    • ★★★★☆
  • pros
    • 片方が美少女化した男同士の恋愛 or BLという葛藤の斬新なコメディ
    • ネタが濃いのに、後を引かないサッパリした味付け
    • 古典的ともいえる漫画的手法でのアニメ映像作りによる、リッチ志向アニメーションへのアンチテーゼ
  • cons
    • 特になし

本作は異世界に召喚された二人の30代サラリーマン、橘と神宮寺の変則的なBLラブコメである。橘の美少女化がミソで、二人の見た目は男女になるが、心は幼馴染の男同士(=BL)という狂気の設定。気を許すと相思相愛になるが、そこは理性で踏ん張る、という葛藤のコメディである。私はBL愛好者ではないが、この設定だけでなんだか「ぞわぞわ」した。

原作はCygamesの漫画アプリ「サイコミ」の連載作品であり、担当編集者は割と最初からアニメ化を意識していたという。そして、本作を読んだBiliBili動画のプロデューサーが中国でウケると惚れこんでアニメ化に至ったという経緯らしい。アニメーション制作は中堅の安心感のあるOLM。監督はこれが初となる山井紗也香。漫画原作とアニメの共同進行の形だったとの事で、1クールとしての物語のまとまりも期待できた。

率直に言えば、アニメーションとしてはリッチとは言えず、むしろ動画枚数を減らした省カロリー作画な作品に思える。しかし、テンポの良い高密度な台詞の掛け合い、整ったキャラ絵に時折挟まれる超省略のデフォルメ絵、こうした漫画的表現を生かした映像作りが特徴である。

本作の笑いの基本はコントである。拗らせてエスカレートさせて反転させて笑わせるとか、時折正論で直球を返すといった視聴者の心を巧みに誘導しコントロールする芝居や演出である必要があるが、本作はそこが適切かつ緻密に表現できているのでコントとして成立している。とにかく、笑いのテンポが速くノリが軽い。キャッチーで個性が分かり易いサブキャラ達も、この事に貢献していたと思う。

繰り返しになるが、本作は美少女化した橘と堅物の神宮寺の禁断のBLラブコメというラインをベースにしている。容姿的に男女になったことで生じた恋愛感情なのか。もともとのBLか否か。恋愛という欲望と、幼馴染とのBLは絶対回避したいという理性の葛藤。

しかし、見方を変えると根っこはシンプル。橘と神宮寺は二人とも、自分が持っていないモノにコンプレックスを抱え、相手が持っているモノに憧れていたからこそ、親友としての関係が成立していた事が分かる。だからこそ惹かれ合うのだが、そこに橘の自己肯定感の低さや、神宮寺の自己分析の弱さによる誤解が生じて、二人の痴話喧嘩がこの物語のクライマックスとなる。

この痴話喧嘩は、神宮寺の強者としてのプライドの破棄→神宮寺からの橘という人間の全肯定→両者の和解という流れで綺麗に決着する。欲望に流されるという意味でもなく、BLというバリアを取っ払って素直な関係になるという解放感。これが二人に対する救済となる。しかし、ラストは素直になりすぎた二人が、やっぱりBLはマズいと1話の状態にリセットされて旅は続くという、喜劇としては後腐れがない鉄板のオチである。

このように、BLという「ぞわぞわ」する要素をライト感覚に調理したり、深く作り込まれたキャラ造形やクライマックスの描き方などをみるに、文芸的にもなかなか優秀なのではないかと思う。なにより、気楽に楽しく見られるのがいい。

M・A・Oさんの快演にも触れておきたい。美少女化した32歳男子という役どころを、声質の可愛さといじけた男子の喋り方の絶妙な演技で橘という人物に説得力を持たせてきた。 また、ダンディズム溢れる日野聡さんもドンピシャなキャスティングで二人の息の合った演技も楽しめた。

また、今期の着せ恋、明日ちゃんにみるリッチなアニメーションばかりでなく、こうした省カロリー低コストならではの良さを感じされる作品だったと思う。

ハコヅメ

  • rating
    • ★★★☆☆
  • pros
    • 一見地味過ぎる印象だが、ノンフィクション的で社会モノとして誠実な作風
    • ドラマチックにし過ぎない、地味ながら風刺やオチが効いた、噛めば噛むほど味が出る脚本
  • cons
    • やっぱり、地味過ぎて、第一印象損しているところ

原作はモーニング連載の交番勤務の女性警察官の漫画。原作者の秦三子先生自身が女性警察官の経験者であり、リアルな現場の雰囲気をコメディを交えて描く。

主人公の川合は交番勤務の新米警察官。ある日、美人で凄腕の刑事上がりの藤が川合のペアとして赴任してくるバディ物でもある。

原作漫画単行本の表紙は、妙に色気のある凝った描き込みの絵柄だと感じたが、アニメでは、劇画的な線の多さは感じるモノの色っぽさをあまり感じないデザインになっていたと思う。また、川合、藤のCVを務める若山詩音、石川由依の演技もぎこちなさというか固さを感じる違和感があった。なんというか、アニメーションとしての気持ちよさがあまり感じられない作風に感じていた。

物語は女性警察官の勤務の日常の悲喜こもごもを描くという一面はあるのだが、どちらかというと様々な種類の事件で警察官が現場で感じる何かを綴っている感じがした。凄惨な事件に警察官自身のメンタルにダメージが出たり、不条理とも言える現場の仕事内容だったり、一般市民からの歓迎されない視線だったりの辛さの印象が残る。それでも、藤をはじめとする先輩警察官のイザという時の強さ、鋭さが無ければ、事件を解決し被害者の魂を救う事は出来ないという厳しさを垣間見せる。

1話でこそ、市民の笑顔を守るために仕事をするというド正論に触れはするが、そこが真実ではなく、警察官の人間としての気持ちを尊重した物語になっている。劇中でも、踊る大捜査線のドラマチックさをおちょくるシーンがあるのだが、警察官の仕事がドラマのようなきれいごとじゃない事が描かれる。

そこを理解すると、本作がアニメーションとしての爽快感を持たない作風である事も納得がいく。中年男性や中年女性もデフォルメしたりせず、リアリティを持ったデザイン。川合や藤の主役の二人の会話は敢えてアニメっぽさや演劇っぽさを消した抑揚を抑えた芝居。リアリティある事件を扱うのに、映像がヘラヘラしていたり、演出の力で美化されていたら、それこそ不誠実である。つまり、本作はフィクションでありながら、ノンフィクション風味を大切にするディレクションなのである。ぶっちゃけ、地味と言ってもいいだろう。

しかし、本作の脚本は噛めば噛むほど味が出るタイプで良く出来ている。先ほど敢えてドラマチックではないと書いたが、後味の悪さの中にも、物語としての皮肉やオチはよく練られている。地味ながら確実に視聴者の意識を決められて方向に持っていって反転させる事で、笑いにしたり、意外な事件解決の手掛かりにしたり。それができるのも、地味ながら飽きさせない脚本と、視聴者を引っ張る的確な演出の力があってこそだろう。

今期はアニメーションの快楽を前面に押し出した着せ恋や明日ちゃんのような作品が目立ったが、本作のような敢えて地味な作風の作品も同時期に見られるという、アニメの多様性に感謝したい作品であった。

プリンセスコネクト Re:Dive Season 2

  • rating
    • ★★★☆☆
  • pros
    • 相変わらず、良く動く作画動画
    • 相変わらず、豪快で迫力ある音響
  • cons
    • シリアス寄りになった事で、凡庸になってしまった脚本

1期放送終了から1年9か月を経ての2期。1期監督の金崎貴臣は総監督となり、代わりにいわもとやすおが監督を務める。アニメーション制作のCygamesPictureは1期と同じくCygamesPicture。

1期の特徴は、とにかく良く動く作画・動画、切れの良い音響、ドラマは強いが物語は希薄、食事のシーンや美食殿の楽しさに特化した作風。とにかくキャラを好きになってもらう意図が明快で、ゲーム原作のアニメ化としては一つの完成形だったのではないかと思う。個人的に大好きな作品だった。

2期はこのテイストからかなり変化があった。根本的な部分では文芸がシリアス寄りになり、正義による悪役からの王国の奪還、前世では救えなかった仲間を守り抜く事が物語として描かれた。シリアス寄り自体は構わないが、強大な力を持つ敵役とのバトルは、よほど丁寧に勝ちに至るロジックを組まないと白けてしまう事が多い。そのためには緻密な脚本や演出が必要になるが、2期はそこが弱いと感じた。

個人的に1期で大好きだったのはキャルで、悪役の皇帝の手下である事と美食殿の仲間である事の二律背反の葛藤のドラマを背負っており、クールになりきれない人間味ある甘さ弱さのドラマを上手く描いていた。しかし、2期でキャルは皇帝に無理やり操られ、ペコリーヌと戦わされ、そのことでペコリーヌは怒りを増幅させる。実質、キャルは皇帝に凌辱(=レイプ)される形であり、そうした物語の組み立て方も理解できるが、この辺りが安直に感じてしまった。何より、キャラの可愛さが1期よりも描けていない事を残念に感じた。

また、作画・動画の良さは、話数によってバラつきを感じた。もちろん肝心の話では良く動くしアクションも決まるのだが、前述の文芸面での勝てるロジックが希薄さ故に、キャラや物語に入り込みきれない。

結局、2期で一番好きな話は、1期のイメージを強く残す1話であった。

結果的に、1期に比べてかなり評価が下がってしまったが、これが率直な感想である。 

平家物語(2022.5.1追記)

詳細は、別ブログ記事に書きましたので、こちらを参照ください。

おわりに

今期は、CloverWorksここに在り!という感じで、着せ恋と明日ちゃんの2強だったと印象でした。

しかしながら、ファ美肉おじさんとやハコヅメのような、リッチ過ぎるアニメーションへのアンチテーゼとも言える作品もあり、こうした多様性が嬉しくもあり、それらも正当に評価されるべき、と思えたクールだったと思います。

着せ恋と明日ちゃんは両作品とも従来の型を破る超変化球だったと思いますが、ある意味人間ドラマとしての王道直球な作品が好みの私としては、スローループの安定感もまた、良かったなと思いました。